カフェオレ――君と私の不思議な邂逅――

きつねのなにか

カフェオレがつなぐ命、そして意思



――それは、何の連絡もなく突然やってきた。


「ただいま」

「――え?」


(……君?)


「どうした、固まって」



「あ、うん。うんと、君……だよね?」

「ああ、俺以外に俺がいるか。カフェオレ飲んでたのか?」

「――うん。いろいろ思い返しながら。なんでいるのかな、そこに」

「カフェオレ飲みに来たから帰ってきた」

「そ、そんな簡単な、そんな簡単な理由で?」


二人はカフェのテーブルと椅子に腰掛ける。彼が作った、お手製のものだ。


「はは、この椅子も懐かしいな。元気なもんなんだなあ」

「うん、奇麗にしてたから。そこに座っていてね。それで、本当にカフェオレでいいの?」

「奇麗にしてくれる、大事にしてくれるってこんなにうれしいもんなんだな。いつものカフェオレを一つお願いできますか、店主さん」

「まだ慣れないな……。じゃあ、作るから。私も作り直すので2つ作るね。――お願いだからそこにいてよ。お願いだから」

「はは、ここにいるよ」


二人分のカフェオレを作りはじめる。一つ一つの配合は絶妙に変えてある、特製のカフェオレだ


「戦争に行っちゃったあの夏は、とても暑い夏だったね」

「ああ、死にそうな夏だったぜ」

「……うん。いつも通りの台詞で行っちゃうんだもんなあ」

「じゃ、ちょっと行ってくるわってな」

「それから4年かあ……」

「ああ、4年、だ」

「長いような、短いような」

「そこから、命がけで帰ってきたぜ」

「いのち……がけ……。ええと、大陸に行ったんだよね、ここは島国だよ?」



「それは言わないお約束ってやつだぜ」



「うん。そだね。――どうして、どうして帰ってきたの?」

「お前のカフェオレが飲みたかった。これじゃ駄目か?」

「あ、……ありが、とう。でもさ、君はもう――」

「もう、なんだ?」

「ああ、うん、えっと。えっと、その、あの」

「なんだよ、俺とお前の仲じゃないか。遠慮なくいえよ」


「――いや、何でもないよ。それよりもカフェオレ、できたよ」


「おう、ありがとう。カフェオレって不思議な飲み物だよな」


「ただ単にコーヒーと牛乳を混ぜ合わせて作る、コーヒー飲料なんだけど」



「二つを一つに混ぜ合わせて作るんだぜ。すでに完成されたおいしい物二つを、混ぜ合わせる。まるでさー、じんせいだよなー」



「何度聞いてもさっぱりわからないなあ……。カフェオレの味はどう?美味しい?」


「わかんねえか? まあ、わかんねえよなあ。これはわかる人じゃないとわからないかもなあ。カフェオレはいつもの味だぜ。苦いんだけどその苦さがミルクで覆われていて、さらっとした酸味は奇麗に砂糖でコーティングされてる。やっぱりこのカフェオレが一番だな」


「そっか。うん、良かった。君のために配合した特性カフェオレだからね」

「4年も守り続けてきたってわけか。迷惑、かけてるな。最近は元気に暮らしていたか?」

「元気は、元気かな。君がいないのは、寂しいけど」

「そっか。しょぼくれんなって、きっとうれしいこともあるさ」


カフェオレを一口飲む。自画自賛だがやはり私のカフェオレは美味しい。


「っあー、やっぱうめえ。金銭面で困っていることとかはないか?」

「美味しい。大丈夫、このお店でなんとかやっていけてる。君が遺した、このお店で」

「そうか、作って良かったぜ。作れば残るからな」

「カフェオレは残らないけどね」

「でも思い出が残るだろ」

「それは、確かに」


君は一口飲む。そして話を続ける。


「思い出は残るからな、思い出は。どんなときでも、思い出は、残る。しかしカフェオレ、お前の分が全然進んでないぞ、体調でも悪いのか?」

「ううん、大丈夫。ちょっとだけ飲む気力がないの。震えているように見えたらごめんね、風邪とかじゃないから」

「カフェオレがまずいんじゃねえか? 俺のを一口飲んでみろよ」

「う、うん。(ごくっ)やっぱり私が作った君のためのカフェオレだよ、これは。君の味がする。私のは、私の味がするもの」

「そうだよな。お前のも一つ飲ませてくれ。(ごくっ)やはりあめーなーお前のは。……あんまり無理するなよ」





「おいしかったぜ、お前のカフェオレ」

「うん、ありがと」

「じゃあ、そろそろ行っとくかな」


「本当に行っちゃうの? 本当に? ねえ、数日ぐらいは――」


「俺もそうしてえが、なかなか、な」


「……そっか」


「そう落ち込むな、お前にはこのカフェオレがある」

「そうじゃなくてさ……」

「そうだろ。なあ、カフェオレは二つを混ぜ合わせて一つを作る飲み物だ、人生なんだよ」


「人生……」


「ああ、人生だ。何かあったとしてもカフェオレを思い出せ。これが俺とお前を混ぜ合わせる魔法の品なんだ」

「うん……そうする」

「じゃあ、いくぜ、玄関からどうどうとな。ありがとうなお前!」 


「行っちゃった。消えて行っちゃった。あれは本当に君だったのかな、それとも私が見た幻覚? だってここに遺骨があるんだもの……」


――それは数時間にも満たない、一瞬の出来事だった。




数ヶ月後、私の不調により受けた検査で妊娠が発覚した。

DNAは彼のへその緒から採った血液と類似した。4年前に死んだ、彼と。



――カフェオレは、二つを一つにする、不思議な飲み物――

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カフェオレ――君と私の不思議な邂逅―― きつねのなにか @nekononanika

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