第3話 孤独な怪物 3
それから幾年、幾十年、数百年……それこそ、千年近く経ったのか知らないが、ユウヤはこうして生きている。
いや、正確には死ねないのだ。
百年ほど経ったある日。ユウヤは自殺を思い立った。この醜い容姿のままで生きていても仕方ないと、自身の喉下にナイフをつき立てたのである。
だが、翌日、ユウヤは目を覚ました。見ると喉元の傷もすっかり治っている。
その後何度か自殺を試みたが全くダメだった。溺死も、圧死も、炎で自身を焼いても、次の日には元通り、醜い容姿でユウヤはそこに存在していた。
実験がもたらした恩恵……いや、それは呪いであったのだろう。
ユウヤは文字通り死なない兵士となっていたのである。
おそらく、兵士として戦場に借り出されれば、ユウヤ一人で戦闘機一機分か、それ以上の働きをしたといっても過言ではないだろう。
「……って、それももう今更な話だけどな」
ユウヤはそう思ってふと壁に付けた傷あとを見る。
無数の傷跡を見ると、あれから大分時間が経っているのだけはわかる。
窓の外を見ても森ばかりで……人はいない。
ユウヤが施設から逃げ出して、この異世界で戦争が始まったことだけはなんとなくわかった。
遠くの方で火の手があがり、人々の悲鳴だけが聞こえたからである。
そう考えると……もしかしたら、異世界で生き残っている生物は俺だけかもしれない。
いや、そもそもここが異世界かどうかも未だに信じられない。
はたまた、自分自身の頭がどうにかしてしまって、そもそも、これは現実ではなくて、自分自身の妄想なのかもしれない……ユウヤは時おりそんな不安に陥る。
だが――
「ま、そんなことはないよな」
すでにそんな不安はこの永遠とも思える時間の中で幾度となく経験した悩みだった。
どうせ悩んでいても解決しない悩みは置いておいて、ユウヤはリビングにおいてあるケージに目をやる。
そこには小さなネズミがユウヤのことを怖がるようにして見つめていた。
「なんだよ、怖がるなって。別にとって喰おうってわけじゃないんだからさ」
ユウヤが近付くと余計にネズミは怖がってしまう。
このネズミは、先日、ユウヤが小屋の周りを歩いていたときに見つけた野鼠だった。
奇妙なことだが、ここ最近――といっても、ユウヤにとってのここ最近であって、実際には百年近くの間があるのだが――色々な生物達をユウヤは小屋の周りの森で見るようになった。
ユウヤにはその原因がわからなかった。何せ、既にユウヤが人間をやめてからはや百年以上の時が経過しているのだ。
もしかしたら、人間は滅亡して、動物達がその代わりに復活したのかな、くらいにしか考えなかった。
「っていうことは、俺が人間の最後の生き残りか」
最も、元、人間だけどな。
自嘲気味に不気味な笑顔を浮かべてユウヤは空しく声を上げる。
つい数百年前までは声をあげて泣きたいときもあった。だが、それももうやめた。
自分は醜く、こんな小さなネズミにさえ怖がられるが、それでも、自身が一人ではないということを知ることが出来た。
それまでずっと孤独だと思っていた自分にとってはこの上ない喜びなのであった。
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