怪物勇者と異世界聖女騎士団 ~化物の俺が幸せを掴むまで~
味噌わさび
第1話 孤独な怪物 1
「……はっ」
ふと、目を覚ました。
汗だくで息を荒げて壁を見る。
「……夢か」
大きく息を吐いて、それから吸い込む。
少年は未ださめない夢からの動機で酷く同様していた。
夢。いや。夢ではない。現実に起こったことだ。
ユウヤの身に実際に起こったこと。
そして、少年が経験したこと。
燃え盛る炎から逃げ、ひたすらに走り、ただ走り、たどり着いたこの場所で、少年は倒れていた。
それだけは今も克明に覚えている。
長い月日が経った今も。
少年はベッドから起き上がった。
重い。
なんと自分の体が重いことか。幾年もの月日の中でも、毎回このたびに、自身の「あり方」というものを実感させられる。
意識しないようにしていても、強制的に意識させられてしまうので、少年としてはこの瞬間その一時一時が嫌で仕方のないことだったのだが。
少年は自分の住処としている小屋の窓から外を見る。
一面の暗闇だけがその場を支配している。
自分にとってはここから見える視界だけが世界であり、それ以上は自分にとっては関係のない存在だ。
だから、仮にこの暗闇の中に何かが見えても自分はそれを見ているだけで放っておく、そうすることに決めている。
いや、事実そうしてきたのだから。
少年はリビングに向かう。
リビングといっても、食事などを行う場所、という意味で、別段綺麗な装飾があるとかそういうわけではない。
殺風景で全く生活観のない空間。まるで、少年の生き様そのものを表しているかのような空間だった。
「……そろそろ、日付が変わったかな」
少年はそのまま壁にかけてある紙に向かって一本線を引いた。
その紙には既にもう幾つもの「正」の字が書かれている。
そして、その傍らには同じように「正」の字で満載された紙がいくつも束になって置かれていた。
こんなことをして、何になるのか。
既に数えるのは遠い昔にやめてしまった。
ただ、日課として残っている。この線引きは、少年にとっては自身の生活を形作るための重要なイベントなのだ。
だから、無駄だとわかっていても、やめるわけにはいかない。
少年はドカリと椅子に腰を降ろす。
椅子が少年の体重に悲鳴を上げるようにして軋む。
この椅子ももう何代目だろうか。自身で小屋の周りの木々を切って創作したものとしては既に何代目かは把握しかねている。
しかし、何年経ってもユウヤの創作スキルは一行にあがる気配がなかった。
少年はそのままぼんやりとしていた。
すでに「今日」が始まってしまっている。自分にとってまたなんの変化もない一日が。
少年はふと鏡に目をやった。
リビングには椅子から座ると丁度ユウヤの全体像を写しだすような大きな鏡が設置してあった。
そこにいたのは、まさしく、巨大な熊のような容姿であった。
正確には熊というには少々不恰好である。
熊と豚を足して割ったような生物……正確には化け物、怪物であった。
薄汚れたガラス玉のような黒い瞳。そして、丸太のような大きな腕。
さらに、何発も殴られたかのようにして変形した耳、そもそも肌の色は薄緑色という始末であった。
自分の醜い容姿を見るたびに思い出すのだ。忌まわしい過去も。
少年がまだ人間だった頃を。
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