CAISSE ~指輪の異能力者たち~
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Episode.1 ~嫌われたものたち~
Ep.1-0 ~プロローグ~
空が橙色に染まり始めた頃、下校時刻を伝えるチャイムが学園構内に響き渡る。
俺の学園生活、転入初日が終わりを迎えた。
電気も付けず居残りをしているこの教室も薄暗くなり始め、俺と対面する生徒が席を立つ。
それは華奢な体で綺麗な水色の瞳に金の髪は腰ほどの長さのストレートに下ろし完璧なスタイルで制服を着こなした女子生徒。
小さな声でボソリと呟いた。
「何で私が………」
彼女はこのクラスの委員長のリディア=フローラー。担任の先生から頼まれたこともあり、授業で分からなかったところを残って俺に教えてくれていた。最初から最後まで不満げな様子だったが。
その原因は間違いなく俺にあるがそう思うのも仕方がない。
何せ俺は文字すら読めない。正確にはこの国の文字が読めない、である。
俺はこの国の生まれ、育ちの人間ではなく、この国の敵である国出身の人間だ。
その国の人種特有の見た目から学園はおろか他の人々から相手にされず、友達の一人も出来ていない。
誰一人として例外ではなく、このクラスの委員長であるリディアにすら避けられている。まだ怯えられていないのは救いだった。
ここへ来る前は、そんなの気にしないと言ってくれる人物が少なくともいることを期待していたが現実はそう甘くない。
席を立ったリディアは椅子を元の位置へ戻し、教科書を鞄へ入れる。そして机に立て掛けていた刃幅の狭い剣を腰に付け教室の外へ向かう。
それを俺は引き留めた。
「ちょっと待って!」
止まるリディアの表情はまだ何か、と若干の苛立ちが見える。
それを見てさすがに申し訳なくなった俺は声と共に体を小さくして更に敬語でお願いをする。
「………えっと……住所が……よく分からないから………教えて、下さい……」
帰り道も分からないとは情けない話だが俺の帰る家は今から始めていくところにある。
敵国の特徴を持つ俺がこの国にいさせてもらっているのにはいくつか理由があるがその中のひとつに監視役、兼家主として俺を住まわせてくれる人の家に泊まること。
入国したのは五日前だが今日までは国の用意した軍の宿泊施設に軟禁状態でお世話になっていた為土地勘も全くない。
教えてもらえなければ最悪帰れなくなるため断られても縋りつくしか方法はない。
リディアはすごく嫌そうな顔が表に出ているが声に出さなかった。
少しの間が空いてため息をついた。
「………分かったよ。でも勉強の前にも言ったけどこれで最後だからね?」
「ありがとう!助かるよ」
嫌々、渋々というのがよく伝わって来るがそれでもかなり助かる。
俺は急いで帰る準備を整えた。
「それで、どんなところかは分かるの?」
「これに住所っぽいのが書かれてる」
一枚の紙きれを手渡した。
受け取るリディアはその住所を見て、すぐに返す。
どうやらもう分かったらしい。やはり住んでいれば見ただけで何となく分かるものなのだろうか。
「日が暮れちゃうから早く行くよ」
「了解!」
***
「あれって何?」
帰る途中、見慣れない風景にテンションが上がる俺は大きな建物に指差してリディアに聞いた。
ただでさえここまで突き合わせて呆れて答えてくれないかな、と思ったが意外と答えてくれるので学園から出て帰り道、ずっとこんな調子で聞き続けている。
「あれはショッピングモールだよ。あの中にいくつもの店があって服とか、食べ物とかいろいろ売ってるところ」
この国はかなり近代化している。
舗装され綺麗な道、大きな建物に日が沈んでも人が出歩き明るい街並み。どれも俺にとっては初めて見る光景で知っているものの方が少ない。
リディアの説明を聞いた俺は勝手に頭の中でその中の様子を想像して楽しむ。
「へぇ~それは楽しそうだな。服に食べ物屋かぁ」
これだけ国の建物が進んでいるんだ、食べ物もなかなか面白いものがあるはずだと容易に想像がつく。考えるだけで涎が止まらなくなる。
他にもいろいろあると言うので本とか家具とかも売っているのだろうか。
羨ましがる、そんな俺の表情を見てかボソリとリディアは言葉を溢す。
「………行ってみればいいじゃん」
その言葉を口にしてからはっ、と我に返り顔を逸らした。
行けるはずもない
と、そう思ったのだろう。
全くその通りで俺にそんな許可は出ない。でもわざわざここまで付き合ってもらってこれ以上嫌な気持ちにさせるのは悪いと適当な嘘をついた。
「そうだね。多分そのうち行けるようになるだろうし行ってみるよ」
「そ、そう………そ、そういえば君の〈
いたたまれなくなったのか話題を逸らすリディア。
それよりも俺の名前の「アレン」と呼ばずに「君」と言ったことにやはり友達にはなれないのだとどこかで感じてしまう。それを振り払うように笑顔を取り繕って、
「えっと、〈
と、再度適当な嘘をつく。
「………今日の放課後にやったよね?」
勿論覚えている。
リディアは若干圧のある声で、しかも真顔で言うので違う意味でやらかしだった。
慌てて思い出したようなそぶりを見せる。
「ああー、そういえば確か能力が宿った物の通称、だったっけ?」
芝居が下手なのはさて置き、リディアはそれに触れずまずは自分の〈
「私のは知ってると思うけど、この剣だよ。能力は見たまんま」
見たまんま。
思い出すのは午前中の授業のこと。
遅刻した俺は授業が終わる直前に着いた。この学園は能力の戦闘などを授業の主にしているが途中参加するとその授業内容は早速生徒同士の試合だった。
俺はその時、クラスでひとり休みだったために余っていたリディアと戦う羽目になったのだが彼女はクラスでも上位。繰り出される剣技は鋭く非情に腕がいい。更にそこに能力が加わる。
リディアの能力は剣先から鞭のような、しなる光のようなブレードを出し圧倒的なリーチと剣速に俺は正直ついていけなかったのを覚えている。
その試合は能力を出せずに俺は完敗した。
そんな訳でリディアは俺と戦ったが俺の能力は知らない、見せていない。
別に隠す必要もないので教える。
「俺の能力は―――」
「あれ?ねーねおそかったね」
言おうとして子供の声が遮った。
背後にはリディアと同じく金色の髪と水色の瞳の子供の姿。
どうやらリディアの弟のようで帰りを待っていたらしい。
「リン、ちょっと待ってて。今、道案内しないといけないから」
構ってほしい弟が抱き着いて来るがそれを引きはがす。
みちあんない?と不思議そうな顔をしていると俺の方に視線を向ける。
すると俺のことを指差した。
「あー!おひるの、はいいろの………おねー……ちゃん?」
徐々に声のトーンが落ちていく。どうやら見た目が違っていたらしい。
しかし決して人違いではない。俺はこの子供と会っている。
この道ではなかったが昼間、遅刻して急いでいるとこの子供が車に轢かれそうになっていたところを助けた。
ちなみに灰色と言うのは俺の髪と瞳のことだ。この国からしたら敵国である祖国の人種特有の色で間違いなく俺でありこの国には俺しかいない。
「お姉ちゃんって……どうみてもお兄ちゃんでしょ?もしかして私が間違ってた?」
弟の間違いを正そうとするが自分が間違ているのか、と信用出来なくなり俺に直接聞いてきた。勿論間違いではないので首を横に振る。
「いやいや、俺は正真正銘男だよ」
「えー!?でもかみはみじかいし、それに、それにふくもちがう!」
まるで駄々をこねるようにリディアの弟も首を横に振った。
リディアは弟が見間違えたのだと思っているようだが実はそれも違う。
「俺は二重人格なんだよ」
一瞬何を言っているのか分からなかったのだろう、驚き、疑うような目で見るリディアだが決して嘘ではない。
俺は目をふっ、と閉じ体から一瞬だけ力を抜いた。
そして。
姿を変えた僕が目を覚ます。
「え………嘘?」
アレンとは全く違う僕の姿を見てリディアは固まっていた。
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