ありきたりな世界

クロノパーカー

ありきたりな世界

俺はどこにでもいる高校生。世垓功次せがいこうじ

どんな高校にも一人はいるであろう普通のアニメオタクだ。

オタクだからといって友達がいないというわけではない。

勉強も運動も平均を維持している。

そんなどこにでもいるような普通の人間だ。

なので恋愛などの学園の青春にも興味はある。

しかしオタクというのもあるが取り柄などがあるわけではないので

モテることはない。


「って、そんなアニメ冒頭の紹介ナレーションみたいなものを考えても意味ないよな」

そんな独り言をつぶやいていると

「功次ー、一緒に帰ろうぜー」

といった声が聞こえてきた。

「うむ、帰るか」

俺がそう返事をした相手は伊波真式いなみましき

小学生の頃からの付き合いで仲が良い。

「何を一人でぶつぶつ言ってたんだ?」

真式は聞いてきた。さっきの声に出ていたのか。

「気にするな、いつものことだろう?」

俺はごまかした。別にごまかす必要はない。

こいつは俺がオタクであるということは知っているから何か言われることはない。

しかしオタクというのはどうしても隠したくなるのだ。

「まぁごまかす必要はないぞ。大方、アニメとかのナレーションとか主人公の紹介みたいなのを作ってみたとかそんなところだろ?」

真式にほとんどを言い当てられてしまった。

心を読む能力でも持っているのか?

「…合ってるよ。なんでそこまで当てれたんだ?能力者か何かか?」

俺がそう聞くと

「そんなわけないだろ。俺はお前と何年も関わっているんだ。だからお前の考えてることとかは分かるんだよ」

そういうことか。確かに俺が一番素を出すのはこいつだもんな。

「なるほどな。まぁいい、帰るか」

「そうだな」

そうして俺らは学校を後にした。


「てかさー功次は帰りのホームルームの先生の話聞いてたのか?」

「聞いてなかったな」

俺は言い切った。

「おうきっぱりと」

「そりゃそうだろ、紹介してたんだから」

俺が真式そう伝えると

「あれだな紹介していただけ聞くとわけわからんな」

そう言われた。確かに状況を知らない人たちがこの会話を聞くとよくわからない。

すると

「や…てくだ…い」

そんな声が聞こえた気がした。

「なぁ真式。なんか聞こえなかったか?」

「そうか?」

そんなやり取りをしていると

「やめてください!」

そんな悲鳴が聞こえた。

「今確実に聞こえたぞ!」

俺が真式に叫ぶと

「あぁ確かに聞こえた!声が聞こえたほうはどっちだ!」

「こっちだ!走るぞ!」

「おうよ!」

そうして俺らは人通りの多い大通りを声の聞こえたほうへと走った。


「やめてください!!」

どんどん声が大きくなってきた。俺らは人通りの少ない道の路地裏の入口まで来た。

「大丈夫か!」

真式がそう叫ぶと

「ああぁぁん?なんだお前らは」

そこにいたのは大学生くらいのガラの悪い男二人とと俺らと同じくらいの少女だった。

うわーアニメとかでよくあるシチュエーション。

「助けてください!」

女子は助けを求めた。

「俺らは声が聞こえたからこっちに来た、ただの高校生だ」

俺がそう言うと

「あぁそうかい。だったらガキは帰りな」

そう男の一人は言った。

「あいにくとそうはいかねぇな。こんなの見たら帰れるわけないだろ」

真式が言い返すと

「そうかそうか。お前らは馬鹿だな自分の弱さも自覚できないで」

「…どういうことだ?」

俺は意味が分からず聞き返すと

「俺らは二人ともボクシングを習っているんだよ、だからお前らは俺らに勝てない」

男の一人が自信満々に言い放った。

「今なら見逃してやる、だからさっさと失せな」

もう一人の男がそう言った。すると

「問題ないな」

真式が言い返した。俺もそれに乗じよう。

「かかって来いよ」

俺が挑発すると

「後悔するんだな陰キャども」

そう言って男の一人が殴り掛かってきた。

見える見えるぞ!俺は内心そう思いながら男の拳を躱す。

「なっ!」

男の一人が驚く。そりゃそうだ。自分よりも弱いと思っていた奴に余裕で避けられるのだから。

「じゃあ今度は俺のターン」

そうして男の顔面を掴んで壁に叩きつけた。ここの路地裏が狭くて良かった。

「ぐっ」

そんな声を発して男は倒れた。俺は倒れた男の頭を踏みつける。

「なんだと…」

もう一人の男がそう声をこぼした。

「どうするまだやる?」

俺がそう聞くと

「まだだ、まだ負けてない!」

そう叫んでもう一人の男は真式の横腹に蹴りを入れようとする。

「はぁ~、どっちが馬鹿なんだかね」

真式はそう言いながら男の蹴りを手で掴み男を投げ飛ばした。

「うぁぁぁ!」

男は情けない声を上げて吹っ飛んだ。

「うぅ…、お前らは一体何なんだ…」

男は俺らに問いかけた。

「俺らか?俺らは言った通りただの高校生だ」

俺がそういうとそれに真式が続いた。

「強いて言うならば俺は柔道黒帯、そしてこいつは見た目からわかる通りのオタクだが親戚の自衛隊の訓練に交じっている。ただそれだけだ」

そう俺は確かにオタクではあるが母親の一家が自衛隊一族、そして基地も家から比較的近いのでよく訓練に混ざっているのだ。

「…そん…な」

そんな声を残して男は倒れた。

「さてと、大丈夫か?お前」

俺は捕まっていた女子に聞いた。

「あ、ありがとうございます…」

その女子は金髪だったのでチャラいのかとも思ったのだがそんなことはなかった。

「髪が金色だな。染めたのか?」

真式がそう聞くと

「い、いえ。私ハーフなので」

「なるほど」

ハーフだから金髪だったのか。ヨーロッパとかそこらへんかな?

「まぁいいや。今から警察に通報するから少し残って貰える?」

俺はその女子に伝えた。証人として残ってほしいからな。

「分かりました」

その返事を聞いた真式はスマホを取り出し電話をした。

そうして少しした時に警察は来た。

「大丈夫か、真式」

そう言ったのは警察、すなわち真式の親父だった。

「大丈夫だよ親父、功次もいたし俺も弱くはないからな」

俺は真式と警察である真式の親父の会話を聞いていた。

真式は比較的正義感が強いのでよく今回みたいに首を突っ込むのだ。

こいつは強いほうだが危ない事に違いはない。

だから真式の親父は心配なのだ。

「まぁ無事で良かった。後は俺ら警察の仕事だ」

そう言って男たちを連れていった。

「改めてありがとうございました。何かお礼を…」

俺らは女子に礼をされそうだったので

「気にすんな。礼はいらんよ」

そう伝えて俺らは現場を後にした。


「普通に疲れるわ」

俺がそうこぼすと

「まぁ本来喧嘩するタイプじゃないしな」

そう返された。俺らはこんなことをしているが学校では陰キャと呼ばれる部類なのだ。

「そういえば今日の帰りの話って何だったんだ?」

ごたごたがあったので忘れていた。

「あーそうだったな。今日の帰りに先生は明日転校生が来るって言ってたんだ」

「は?」

「もしかしたら今日助けた娘が転校生だったりしてな」

「そんなありきたりな事あるわけないだろ」

恋愛アニメによくあることは現実であるとは思ってない。

「だよなー」

そんな話をして俺らは家に帰った。


「え?」

俺は昨日家に帰った後普通にゲームしたりして一日を終えて今学校に来ているのだが

黒野羽夏くろのうなつです。よろしくお願いします」

そんな挨拶をした転校生はかなり容姿が良いので男子は盛り上がった。だが俺はそんな状況ではない。なんとその転校生は昨日助けた女子なのだ。そんなのありかよ。盛大なフラグ回収だ。

「じゃあ黒野さんは世垓の隣な」

担任はそう言って俺の隣を指差す。よりによって俺の隣かよ。

「分かりました」

そう言って黒野は俺の方へと歩いてくる。黒野をクラスのみんなが注目していた。

黒野が自分の席まで来ると

「あ」

そう小さく呟いて一瞬止まったが席に着いた。良かった面倒事にならなくて。

そこからは普通にホームルームが始まった。まだ黒野は周りから視線を送られていたが気にしている様子はなかった。そして何故か俺にも視線が少しあった。主に男子から。多分羨む感じなんだろう。俺が望んだわけではないの。

ホームルームが終わり授業が始まるまでの少しの時間で黒野の周りに人が集まった。

それを俺はうっとおしく感じた。少ししか時間ないのに集まるなよと。

それからは予想通り通だった。授業が終わるとみんなは黒野に集まり俺は真式と話す。それの繰り返しだった。真式と転校生について話したのは「転校生、昨日の娘だったな」それだけだった。後はいつも通りゲームなどの話だった。


「あの…」

授業も終わり俺が帰る準備をしていると黒野が話しかけてきた。

「昨日助けてくれた人ですよね。この高校の人だったんですね」

黒野はそう言った。俺は目立ちたくはないのでそんなに黒野と長く話す気はない。

「あぁそうだな。ただそれだけだ。この高校で困った事があったら言ってくれ。クラスメイトとして助けるから」

そう言って真式の方へ行こうとしたら

「そ…その友達になってくれませんか?」

そう言われたので足を止めた

「俺と友達?転校生パワーで友達ってすぐに出来るもんじゃないのか?」

俺が気になったので聞くと

「いえ出来たとしても私は関わってても面白くないのですぐに離れていくと思います」

「ほーん。分かった。ただ俺はいいのか?離れていくかもしれないんだぞ?」

何故俺は大丈夫なのか聞くと

「世垓くんは昨日助けて貰った時の雰囲気から大丈夫かもと思ったので」

信憑性のない根拠だな」

昨日のあの短時間で判断できるものなのか。

「そうかもしれませんけど…とにかく友達になってください!」

その気迫に負けた俺は

「分かったよ。だが面倒事を持ってくるなよ。高校では俺は隅にいる陰キャだから」

「わ、分かりました!」

「んじゃ、そういうことで」

俺がその場を去ろうとすると

「あの、私もついていっていいですか?」

「何故だ?」

「そのまだここら辺に慣れていないので…」

真式と帰るつもりだがいいのだろうか。

「俺は昨日の奴と帰るつもりだがいいか?」

「問題ないです!ありがとうございます!」

了承していないんだがな。


「ってことでお供が出来た」

俺は黒野の事を真式に言った。

「俺は構わないぜ。俺も黒野さんと話してみたかったし」

真式は俺と違って陽キャの部類だ。すぐに人と打ち解けるようだ。

「じゃあ帰るか」

俺がそういうと

「今日功次の家に行ってもいいか?」

「なんで?」

「せっかく黒野さんも友達になったからお前の家で歓迎会しようぜ」

俺は黒野さんと深く関わるつもりはないから家に呼ぶつもりないんだが

「行っても良いんですか」

黒野が食いついた。やめてくれ断れる雰囲気じゃなくなってくる。

「じゃあ行くか!」

その言葉で決着がついた。深く関わるつもりはなかったんだがなぁ。


三人で俺の家に集まってゲームをしていた。俺は学園系のアニメでよくある高校生一人暮らしをしているため親は家にいない。なのでいくらでも家にいても良いのだが…

「あー!あかんて!負けるってー!」

「ここですっ!」

「ギャー負けたー!」

「お前ら…今何時だと思ってる?」

「えーっと6時くらい?」

「9時だよ!いい加減帰れよ」

そう、こいつらは学校が終わって4時間俺の家に居座っているのである。

「でもさー明日は休みだし良くね?」

「良かないわ」

「確かに明日学校は休みだが寝床とかはどうする」

「ここでええやん」

「良かないわ。黒野さんもいるだろ?」

そうだ今回は真式だけでなく女子である黒野さんがいるのだ。男だらけのところに泊まるのは危ないであろう。そう考えたのだが

「私は問題ないです」

黒野はコントローラーを操作しながらそう答えた。その言葉で俺の考えはあっさりと消し飛ばされた。

「…マジですか」

そこで俺の家の安穏がなくなることが決定した。


そこからは嵐のように時が流れた。

さらに一時間ほど遊んだあと風呂に入ることになった。どの順番で入るかで揉めるかと思ったがそんなことはなかった。普通にじゃんけんをして決めることになり黒野→俺→真式の順になった。男女が一つ屋根の下で一夜を過ごすのは何かハプニングが起きることも考えたがそんなことは…ないと信じたかった。俺は風呂に入る前にお手洗いに行こうと考えた。なので黒野が風呂に入っている間、廊下に出てトイレのドアを開けようとした時脱衣所のドアが開いた。そこから出てきたのはバスタオル姿の黒野だった。流石に驚いた。黒野も顔を真っ赤にして脱衣所に戻った。後で聞いた話だと自分の家の感覚でいた為バスタオルで出てきてしまったとのこと。

俺も真式も風呂に入り寝ることにした。

「どう寝るよ?またじゃんけんで決めるか?」

真式は俺に質問した。俺の家には自分がいつも寝ているベッドといくつかの客人用の布団がある。真式のように遊びに来て泊っていく友人が何人かいるので余裕はある。

「黒野さんにベッドで寝てもらうか?俺らは床で」

俺がそう提案すると

「そ、それは申し訳ないです。私は床でいいので」

黒野さんは遠慮した。それに対して真式は

「別にいいんじゃね?家主が言ってるんだし俺もこいつもこの家のベッドでは何度も寝ているんだ。だからこの家に初めて来た黒野さんはベッドでいいと思う」

「で、でも…」

真式の言葉を聞いても遠慮をしているようすだった。ハーフだからなのか分からないが遠慮をするときと遠慮をあんまりしないときがある。

「まああんまり気にしすぎるな。出会って二日目の奴の家に来て泊まろうとしてんだ逆にここで遠慮するなよ」

「わ、分かりました!」

俺の言葉でようやく決めたらしい。結局寝れる状況になったのは12時頃だった。

ベッドの横に黒野→俺→真式の順番で布団を並べる。こう見ると風呂の順番と同じだな。

「じゃあ電気消すぞ」

そう言って電気を消し布団に入る。

「功次ー、寒くなったらお前の布団入っていいか?」

「嫌だよ。きもいし暑苦しいし。もうちょいで夏だぞ」

「はっはっはー。冗談だよ」

「…そうだといいがな」

そうして眠気が来たので俺は抵抗せずに力尽きた。


「…んんっ?」

俺は布団に違和感を覚えた。もしかして真式が本当に入ってきたのか?もしそうならば蹴っ飛ばしてやるか。

「…なんだよ真式。暑いぞ。蹴っ飛ばされたいのか?」

俺がそう聞くと

「すいませんすいません!別に悪気があって訳じゃありません!あと私は真式さんではありません!」

そこで聞こえてきたのは真式ではなかった。…もしや黒野か?

「…何か用か黒野さん?何か問題が起きたか?」

そう聞きながら俺は時間を確認する。3時だった。そして隣で爆睡している真式。

「べ、別に用とかではないんですけど…」

「じゃあ何なんだ?」

「そ、その、少し外に出ませんか?」

「は?なんで?」

「少し功次さんと話したくて」

何だろうか相談事だろうか?だが転校初日、出会って2日…もう3日か、それで何かあるのだろうか。

「あぁ、分かった」


「それで話って?」

俺らは二人で近くの公園に来ていた。補導などが怖いがまぁそんな長引くこともないだろう。夏が近いとはいえ流石に夜は冷える。むしろ長引いてほしくはない。

「その…改めてあの時助けてくれてありがとうございました」

「だから気にするな。俺一人では動けたかわからんし、真式の方がいつもすごいし」

事実俺は趣味で少し鍛える程度だが真式は十分に武道を会得している。強さに関してはあいつの方がいいのだ。

「いいえ真式さんのお父様に言われたのは「強さは真式の方があるが索敵能力、察知能力は圧倒的だ。だからいつも被害者を先に見つけるのは功次くんだ」って」

真式の親父さん何言ってんだ。確かに俺は生まれつき人の気配などに敏感だ。

「なのでお礼は功次さんにって」

「そうかい…で、本題はなんだ?」

そう別にこの程度でわざわざ外で二人で話す必要はないのだ…多分。

「はい…私がこっちに転校してきた理由は分かりますか?」

黒野はそう重々しく口を開いた。

「親の転勤とかか?」

「その…前のところでいじめを受けていて…」

そうか…それは頭になかったな。

「でも何故だ?」

「前、よく告白されていたんです。多分見た目とかから。その告白してきた男子の中には女子グループが好きな人がいて…」

あーなるほど。よくある話だ。

「で、俺にそれを話してどうしろと?」

なんとなく予想は出来るが聞いてみた。

「その…もしここでも私に何かあったら助けてくれませんか?」

だろうな。予想通りだ。

「俺は面倒事に巻き込まれたくないんだ。助けられるとは言えんな」

「…そうですか」

「悪いな」

黒野は少し落ち込んだ様子だった。女子の面倒事程巻き込まれたくないものはないな。

そうして俺らは家に帰った。


「んじゃ俺は寝るぞ」

「分かりました」

「でもき…と助け…く…るよね」

最後に黒野が小さく何か言った気がしたが眠かったので意識を落とした。


そこからは普通に日常であった。真式と遊んだり黒野も一緒だったり変わらぬ日常だった。

黒野の転校生人気は落ち着いたがされど周りに人はいた。たまに黒野と関わる俺への男子からの視線があるがそこは真式がなんとかしてくれた。

黒野の最近の噂をオタク友達の輝朝結朔てるあさけっさくから聞いた。

「功次よ、黒野氏が最近サッカー部やバスケ部のキャプテンなどの陽の者から告白されているとのことだ。奴らは好感度が上がったとでも思ったのだろう」

「へー。そうなのか。で、結果は?」

「全員見事に撃沈したとのこと」

「そうか、あいつらって運動だけじゃなかったよな」

「そうですな。性格も学力も良いのでいろんな女子から人気ですな」

「じゃあ何故撃沈したんだ?」

「既に好きな者がいるとのこと」

へー、三週間程度しか経ってないが…まあ黒野はどちらかというと陽の者よりだからありえるか。

「功次はアタックしないのか?仲がいい感じだが」

「俺はいいや。友達の方が合ってる」

「そうなのか」

結朔は期待外れのような反応をしてスマホゲームに目を移した。あいつと恋仲になるイメージがわかないな。


黒野が来てから更に二週間ほど経ったある日、帰りに黒野が学校の女子グループに呼び出されていた。なんとなくだが嫌な予感がした。こういう時の嫌な予感というものはよく当たる。なので気配を殺して後をつけた。着いたのは屋上であった。周りに人がいる感じはない。いるのは黒野と女子グループだけ。

「あんた転校生とハーフっていうので目立っているようね」

「今はそんなことはないけど…」

グループのリーダー的な女子に問い詰められていた。そんな返しをして大丈夫なのか?

「あっそ。いろんな男子に告られていけど断っているようね。何?清楚ぶってんの?」

「そ、そんなつもりないよ…」

「あーもう!そんなおどおどしているのが鬱陶しいのよ!なんでこんなやつにあの人達が惚れるのよ!」

「えっ…」

あーそういうのね。あのリーダー女は多分運動部キャプテン達を狙っていたんだろう。その逆ギレで黒野を呼び出したのか。女子って怖いな。

「あーもう!腹立つ!みんなこいつを抑えて!」

「え!?えっ!?」

黒野が女子たちに抑えられて困惑している。本当にヤバそうだ。

「顔を腫れさせて見世物にしてやる!」

「いやっ!」

リーダー女が手を上げた。平手打ちの構えだ。急げ俺!

「喰らえ!」

「いやっー!」

パァァァン!

「…え?痛く…ない?」

俺は女と黒野の間に入った。

「素人の平手打ちは痛くないな。大丈夫か?」

「え?なんで功次さんが?」

「それは後で話す」

「わ、分かりました」

俺と黒野が話していると

「あんた誰よ!」

女が声を荒らげて俺に問いただす。

「俺は世垓功次。こいつのクラスメートだ」

「聞いたことない名前ね。陰キャはどっか行って」

「そうはいかないな。話を聞く限り黒野に非はない。お前が一方的に責めているだけだ」

「だったらなんなのよ!」

「いや、黒野に対するいじめの初犯。そして俺に対する暴行。学校にバレたらどうだろうな?」

「ひっ!で、でも!証拠なんてないじゃない!」

女は苦し紛れの抵抗を見せた。後ろにいた黒野を抑えていた女達も顔を引き攣らせている。

「証拠の動画は既に撮ってる。ボイスレコーダーも稼働中だ」

こんな事もあろうかと持っておいて良かった。

「くっ…こうなったら…」

女は何か決心したようだった。謝るかな?

「こいつのスマホとボイスレコーダーを壊してしまいましょう!いくら男だからと行っても多勢に無勢よ!」

女は現状最もの悪手を選んだ。きっとただのカッコつけ陰キャとでも思ったのだろう。

女の言葉で他の奴らも俺に向かってくる。しかしその顔には焦りが見える。

「じゃあ手加減はいらないな」

そこで俺は向かってくる女の一人の腹を蹴り飛ばす。

「な、な、あんた女子に手を出すなんて!」

「先に手を出してきたのはそっちだろ?俺は男女でどうこうっていうのは嫌いだ」

「ひっ、引くわよっ」

倒れている女を引っ張って女子グループは逃げていった。

「ったく…無事か?黒野」

「あ、ありがとうごさいます!」

「はぁ〜お前なぁ〜」

俺は黒野に対してデコピンをする。

「あいたっ!何するんですか!」

おでこを擦りながら文句を言う。

「言っただろ面倒事に巻き込むなって」

「でも今回は功次さんから…」

確かに今回は俺が心配して巻き込まれた感じなんだが。

「否定はしない。だが、事が起きたのは事実だ」

「うぅ…それは否定しません」

「まぁ問い詰めるのはここまでにしよう、帰るぞ」

「は、はいっ!」

俺は黒野を連れて屋上を離れた。

私は功次さんと学校を出て少し話したので家に帰るため別れを言った。

「結局功次さんは助けてくれたなぁ」

少しした時に私の口からはそんな声が出てきた。初めて遊びに行ったときに「助けるかは分からない」って言われた時にきっと助けてくれると思っていたけど本当に助けてくれた。

「やっぱり功次さんっていいなぁ」

ふとそんな独り言が出てきて頬が熱くなるのを感じる。

まさか出会って一ヶ月程で落ちるとは私ってチョロい?

功次さんは遅いから気をつけろって言ってたけど心配し過ぎかも。まぁそこそこ遅い時間だし早めに帰ろ。

「…静かにしてろよ」

その声が聞こえた時に私は路地に引き込まれた。


「なにか嫌な予感がする」

俺はそう呟いた。

黒野と別れてから少し経った今、胸騒ぎがする。あいつに何か遭ったのか?

そう考えてから来た道を急いで戻った。


「いやっ!」

口を押さえられて路地に私を引き込んだのはサラリーマンみたいなスーツを着たおじさんだった。

「何でこんな事をするんですか!?」

怖い。だけど今は功次さんが助けてくれる訳はない。だから自分でなんとかするしかない。

「仕事をクビになったんだ!もう全部どうだっていいんだ!」

おじさんはそう叫んだ。この人、人生を捨てたの!?

「だからってこんな事していいの!?」

「なんだって良いんだよ!このまま何もせず死ぬくらいならな!」

そうして私の制服に手をかける。

「いやっ!」

「そんな事させるかよ!」

その声が聞こえた時におじさんは私から離れていて声の主に首を掴まれていた。

「こ、功次さん!?」

「間に合った…お前今日は厄日なのか?」

功次さんは息を切らしていた。それだけ急いで来てくれたんだ。

「何だこのガキ!邪魔すんじゃねぇ!」

「邪魔とはなんだ。俺の女に手を出しやがって。ただで済むと思うなよ!」

その怒号に怯えたおじさんは気を失った。今、俺の女って…。

「この程度で気絶すんなよ根性無しが…」

「ありがとうございます。どうしてここが?」

「嫌な予感がしたから戻ってみたらこいつの声が聞こえたからな」

真式さんのお父様が言っていた通りこの人の察知能力は凄い。やっぱり私はこの人が好きだ。今までこんなにも私のことを助けてくれる人はいなかった。そういえば…。

「功次さん、さっき俺の女っていうのは?」

「あー、気にすんな。言葉の綾っていうやつだ。嫌だったら謝るよ」

功次さんは少し照れていた。いつも落ち着いていたのでこんな顔するんだ…と思った。

「嫌じゃないです。私はそうなりたいです!」

言ってしまった。まだ出会って一ヶ月だから功次さんは私のことを深く知らない。きっと断られるだろう。

「それは…俺からしても嬉しいぜ」

断られると思っていた私の予想は良い方へと向かった。


「で、お前らは付き合いだしたと。まぁいいんじゃね?俺は祝うぜ」

あの後功次さんはおじさんを警察に突き出した。証拠の写真をいつの間にか撮っていたのでそれでスムーズに引き渡せたとのこと。きっと真式さんのお父様の手助けも遭ったのだろう。今は学校で真式さんと結朔さんに報告しているところ。功次さんが二人には伝えておきたいと。

「まぁ俺は期待通りになって良かったぞ。功次は良いやつなのにモテないのは解せなかったからな」

結朔さんも認めてくれた。この人には功次さんの情報を聞いていたのでかなりお世話になった。


「結局功次さんはいつ私を好きになったんですか?」

放課後に一緒に帰っていると黒野が不思議そうに聞いてきた。

「そうだなー黒野をおっさんから助けに行った前くらいかな」

「私と別れた時くらいですか?」

「あぁ。あの時にいつもなら家に帰った後の事を考えるのにお前の事しか頭に出てこなくてな。それは心配していたのか惚れているのか分からなかった。ただおっさん相手に自然に俺は惚れているんだなって気づいたんだ。ここまで一緒にいて楽しいのは女でお前が初だからな」

「そうですか。私も生きてきてここまで幸せなのは今が初です」

そう言ってそっと腕にくっついてきた。俺はこれからも黒野を守っていくと心に刻んだ。


俺はアニメとかでよくあるピンチの女子を助けて恋愛に発展する。そんなありきたりな事は起きない…そう思っていた。でもこの世界はそんなありきたりな出来事は起きかねない。

いや、どんな世界もこんな事は起きる。自分の行動次第でいくらでも主人公になれる。

世の中意外と捨てるもんじゃないな。


「何呟いているんですか?早く行きましょう!」

「はいよー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありきたりな世界 クロノパーカー @kuronoparkar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ