③
「そっか、ルミちゃんは偉いな。」
少女によしよしと頭を撫でてやる昴クン。
その男前っ振りは、幼児にも健在なようで…
「おにいちゃんといっしょならへーきだよ!」
ルミちゃんはニッコリ微笑んでまた、昴クンに抱き付いていた。
(子どもと戯れる昴クン、なんか新鮮だ…)
子煩悩なんだとか、恋人の意外な素顔に。
ついときめいてしまう乙女思考全開なオレ。
…ってそんなほのぼの浸ってる場合じゃないか。
ルミちゃん迷子なんだし…。
「昴クン、この子の親を探した方がいいんじゃない?」
オレがそう提案すると、そうですねとルミちゃんを抱いて立ち上がる昴クン。
「迷子の預かり所にでも行ってみましょう。親御さんが来てるかもしれませんし。」
オレもウンと頷いて立ち上がると。
平凡なオレと美形ヤンキーな昴クン、
それから迷子のルミちゃんという…
なんとも不思議な組み合わせの3人で、砂浜を歩き出した。
「ルミちゃん!!」
心配していたルミちゃんのママは、
迷子センターの前であっさり見つかって。
「あっ、ママ~~!!」
あんなに懐いていた昴クンの腕をすり抜け、あっと言う間に少女は母親のもとへ駆け出して行った。
「も~、探したのよ~!」
涙目に我が子を抱き締める母親に向かって、ルミちゃんは平然と答える。
「あのね、すばるくんがたすけてくれたのっ!」
「すばるくん?」
不思議そうに少女が指し示した方───…
昴クンとオレを認めた、ルミちゃんのママは。
昴クンを視界に捉えた瞬間、ポッと頬を赤らめてたけれど…
慌てたようにルミちゃんを抱えると、こちらへと小走りにやってきた。
「すみません、うちの子がご迷惑をおかけして…」
頭を下げつつも、やっぱり昴クンに心奪われている人妻に。内心苦笑いのオレ…。
「いえ…とてもお利口さんでしたよ。」
自覚なしの昴クンは、
惜しみなく王子様の微笑みを浮かべ。
ルミちゃんのお母さんの目は、完全にハートマークになってしまっていた。
「またね~すばるく~ん!」
いつまでも手を降り続ける少女に、バイバイと見送りながら。
仲良く母親と並んで歩くその光景に、
視線を馳せたまま…昴クンが静かに呟いた。
「可愛いですよね…子どもって。自由で、キラキラしてて…」
見上げると昴クンは、まだ親子を見つめていて。
なんだかその瞳には、哀愁の色が濃く感じられる。
急にどうしたんだろう…?
オレは不安を抱きつつも、気になってしまい。
怖ず怖ずと口を開いた。
「もしかして子ども、欲しい……とか…?」
万が一欲しいと言われても、
男のオレにはどうにもできないから…
自分で聞いておいてしまったなと、後悔してたんだけど…。
「いえ…そうじゃないんです。」
オレがヘコんでるのが判ったのか、
昴クンはオレを真正面に捉え優しく微笑んでくれて。
「俺には…俺と晃亮には、無かったなって。そういうの…」
「昴クン…」
彼の台詞に、
以前聞かされた辛い過去の話を思い出す。
昴クンの本当の父親は、
幼なじみの晃亮クンの実の父親で。
不倫関係のもと、昴クンは誰からも必要とされず。
この世に生を受けた…。
それ故に、歪んでしまったふたりを取り巻く環境。
誰も助けてくれず、親からも突き放され…
ふたりは互いだけを信じて、今まで支え合って生きてきたんだ。
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