「そっか、ルミちゃんは偉いな。」


少女によしよしと頭を撫でてやる昴クン。

その男前っ振りは、幼児にも健在なようで…




「おにいちゃんといっしょならへーきだよ!」


ルミちゃんはニッコリ微笑んでまた、昴クンに抱き付いていた。







(子どもと戯れる昴クン、なんか新鮮だ…)


子煩悩なんだとか、恋人の意外な素顔に。

ついときめいてしまう乙女思考全開なオレ。


…ってそんなほのぼの浸ってる場合じゃないか。

ルミちゃん迷子なんだし…。






「昴クン、この子の親を探した方がいいんじゃない?」


オレがそう提案すると、そうですねとルミちゃんを抱いて立ち上がる昴クン。





「迷子の預かり所にでも行ってみましょう。親御さんが来てるかもしれませんし。」


オレもウンと頷いて立ち上がると。



平凡なオレと美形ヤンキーな昴クン、

それから迷子のルミちゃんという…

なんとも不思議な組み合わせの3人で、砂浜を歩き出した。








「ルミちゃん!!」


心配していたルミちゃんのママは、

迷子センターの前であっさり見つかって。





「あっ、ママ~~!!」


あんなに懐いていた昴クンの腕をすり抜け、あっと言う間に少女は母親のもとへ駆け出して行った。





「も~、探したのよ~!」


涙目に我が子を抱き締める母親に向かって、ルミちゃんは平然と答える。






「あのね、すばるくんがたすけてくれたのっ!」


「すばるくん?」


不思議そうに少女が指し示した方───…

昴クンとオレを認めた、ルミちゃんのママは。


昴クンを視界に捉えた瞬間、ポッと頬を赤らめてたけれど…



慌てたようにルミちゃんを抱えると、こちらへと小走りにやってきた。






「すみません、うちの子がご迷惑をおかけして…」


頭を下げつつも、やっぱり昴クンに心奪われている人妻に。内心苦笑いのオレ…。





「いえ…とてもお利口さんでしたよ。」


自覚なしの昴クンは、

惜しみなく王子様の微笑みを浮かべ。


ルミちゃんのお母さんの目は、完全にハートマークになってしまっていた。






「またね~すばるく~ん!」


いつまでも手を降り続ける少女に、バイバイと見送りながら。


仲良く母親と並んで歩くその光景に、

視線を馳せたまま…昴クンが静かに呟いた。






「可愛いですよね…子どもって。自由で、キラキラしてて…」


見上げると昴クンは、まだ親子を見つめていて。

なんだかその瞳には、哀愁の色が濃く感じられる。




急にどうしたんだろう…?

オレは不安を抱きつつも、気になってしまい。


怖ず怖ずと口を開いた。








「もしかして子ども、欲しい……とか…?」


万が一欲しいと言われても、

男のオレにはどうにもできないから…


自分で聞いておいてしまったなと、後悔してたんだけど…。






「いえ…そうじゃないんです。」


オレがヘコんでるのが判ったのか、

昴クンはオレを真正面に捉え優しく微笑んでくれて。





「俺には…俺と晃亮には、無かったなって。そういうの…」


「昴クン…」


彼の台詞に、

以前聞かされた辛い過去の話を思い出す。




昴クンの本当の父親は、

幼なじみの晃亮クンの実の父親で。


不倫関係のもと、昴クンは誰からも必要とされず。

この世に生を受けた…。





それ故に、歪んでしまったふたりを取り巻く環境。


誰も助けてくれず、親からも突き放され…

ふたりは互いだけを信じて、今まで支え合って生きてきたんだ。

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