心を満たすレストラン
紀伊航大
第1話 ???
都市には似つかわしくない森林が辺り一面に広がっている。今や、国の天然記念物となったトキ、カワウソに加え、オオサンショウウオまでもが生態系として生命をはぐくんでいる。木々の枝に停まる鶯は、甲高い声を響かせ、冬眠中の熊に春の知らせを告げる目覚まし時計。ほとりの湖は、森の生活を支える水道。発達した文明こそないものの、縄文の人々ほどの暮らしが展開されていた。
しかし、いつからだろうか。森にたびたび不可解な事象が起こるようになったのは。
ヒトには知られていないはずの寂れた地に聞こえるはずのない音が響く。地面に何かがこすれる不快な音。森の危機感だけを煽ったその音は、今もなお時折響くのだった。
一昔前に流行ったログハウス。いつ何時に建てられたか、誰によってか、何のためか。だが、それはしばらくの間明かされなかった。
気になる点はそればかりではない。
背高い木々が全体に生い茂るこの森に、太陽光は滅多に入り得ない、はずだ。しかし、そのログハウスは四方八方から日光を浴び、ただ砂漠に咲く一輪の花のごとく輝き、自然の木の色とは程遠いクリーム色は、一見洋風のおしゃれカフェのようにも見える。それは、森の中で異彩を放っている他なかった。
幼きときに見た夢でも具現化したのだろうか。
ここは森のレストラン。
レストランの存在意義と言えばなんだろう。
一般には、「腹」を満たすことだ。
しかし、ここは少し勝手が違うらしい。
木でできた看板には『心を満たすレストラン』と書いてある。
一体どういう店なんだ。
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