第14話 【私乃世界】
「し、式上結人っ!! わ、私を、愛しなさい!!」
またしても、愛を命じられた。
どうやって俺の名前を知ったのだろうか。
おでこから耳の先端まで紅潮させた神羅は、意地でも俺から視線を外そうとしない。
言いたいことは沢山あったが、俺は先ず浮かんできた疑問を全てぶつけることにした。
「愛しなさいって、何なんだ?」
「へ?」
「言っただろ、俺は【可能性】の影響を受けない。そもそもお前はどんな【可能性】なんだ? お前の目的は? ここへ来た理由は? この学校で何をしようっていうんだ? 昨日のあれは? 色々と意味が分からないんだが」
問うと、神羅は逡巡した後に口を開いた。
「隠す意味もないし、いいわ。教えてあげる」
そう言い、右手を上に掲げて指をパチンと慣らした。同時に彼女の背後にある大きな電子黒板が待機画面からパッと切り替わる。誰が操作しているのだろうか。
映し出されたのは、彼女の【可能性】に関する詳細が記されたスライドだ。気の強い赤色のフレームに縁取られ、右下にはデフォルメ化された神羅様ちゃん付き。
「私の【可能性】は【
「私の……世界……?」
呆れてしまう程に横暴な四文字。
万象神羅の性格を如実に表現しているとも言えるが、俺は彼女の【可能性】に微かな既視感を覚え、一瞬だけ思考が止まった。
「誰もが私を愛し、私に気を遣い、私に従い、私に尽くすの。だからこの世界も全人類も私の物同然。良いネーミングでしょ? 自分で考えたのよ」
さぞ偉い事でもしたかのように、エッヘンと豊満な胸を張ってドヤ顔を見せてくる。
「…………その力で、こうして皆を洗脳して命令に従わせているわけか」
「洗脳じゃないわ。ただ私を愛してしまっているだけ。愛さえあれば何でもできる。人は愛のためなら何だってするの。今だって、愛を以て私達を二人にしてくれただけよ」
「物は言い様だな。要はお前の言葉には絶対服従ってことだろう」
「それはそうだけど……。仕方ないでしょ。愛し過ぎる存在というのも考えものよね」
やれやれと手を広げてオーバーに頭を振っている。
確かに、外見だけを見れば愛し過ぎると言っても過言じゃない。
顔の造形は言わずもがな、肌は白磁みたいに白くて滑らかだし、細身なのに胸は大きくてスタイルが良いし、二次元イラストをそのまま三次元に召喚したかのような神々しさすら感じる容貌だ。
その分、性格は反比例するかのように下の方に振り切れているみたいだが。
「それで、お前の目的は? 何を企んでいるんだ?」
「別に何も企んでいないわよ?」
神羅がきょとんとした幼い表情を見せた。萌える。他人の心を弄んでいる悪魔のような存在のくせに、顔が無駄に可愛いのが腹立つ。
「嘘つくな。全人類を好きにできるんだろ? なら、この学園の生徒達をまとめて奴隷にしてやろうとか、人類の尊厳を奪って裸で生活させてみようとか、可愛い女子の語尾をニャンにしてやろうとか、そういうトンデモ計画を実行する気なんだろうが!!」
「しないわよそんなこと!! 私のこと何だと思ってんの!?」
またしても顔を真っ赤にして怒鳴られた。意外と表情豊かなお嬢様らしい。
「よく分からないけどヤバい奴だろ、お前は」
「失礼な……」
「何も企んでいないなら、昨日の入学式のあれは何だったんだよ」
「言ったでしょ。私に関するルールを説明していたの。誰もが私に気を遣うけれど、中には歪んだ愛情表現をしてくる奴も居るからね。私が嫌な想いをせず高校生活を送れるように予め全員の行動をきっちり制限しておくことにしただけよ」
「成る程。じゃあ小学生の時に男子がズボンを脱いできた後は、どうなったんだ?」
「なんでそこを聞いてくるのよ!! 思い出したくないの!!」
「気になってモヤモヤしてたんだ」
要は、自己防衛手段だったのか。本人なりに自分の【可能性】と向き合った上で、ああするのが一番効率が良いと結論を出したのだろう。
普通に高校生活を送りたいだけだったとは、正直思ってもいなかった。
「意外だな。てっきり神羅帝国でも建国して女王になるものとばかり思っていた」
「そんな大それたことしないわよ。でも女王って響きは良いわね。建国か……その手が……」
顎に手を当ててブツブツ言っている。
余計なアイディアを与えてしまったか。
間違いなく国民や他国が理不尽に虐げられるし、そんな独裁国家による世界征服は俺が絶対に阻止しないと。
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