014_炎の柱と炎の歓迎

「火」「雑草」「伝説の恩返し」で。


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 闇があった。

 しかし今、そこは朱に染まっている。


(畜生……!)


 巨大な松明が、煌々と俺と彼女の姿を赤く黄色く浮かび上がらせる。

 頬に当たる熱風。咽るような木の皮の焼ける匂いだ。


(まさかコイツら、俺たちの聖なる木を焼くなんて)


 少年と少女を囲む影。陽炎のように揺らめく黒衣。


 白い服を着たまだ顔に幼さを残す少年が長い黒髪をなびかせ、風に煽られる雑草に赤々と少年。

 少年の首元には赤い輝石で作られた勾玉が光る。宝石は炎の色を映し輝く。


(熱い)


 両刃の剣を握り締める少年は、左手に手にした柔らかく、ほのかにヒンヤリとした彼女の手を握り締める。


「──様」彼女のか細い声。

「大丈夫だ。炎の壁の薄い場所を……」


 少年は左に右に、そして前後に視線を流す。


(どこかに火勢の弱い箇所は……)


「──様!」彼女の声が尖る。


(……っ! そこ!)


 炎の色の薄い場所があったのだ。

 そうと見れば少年の動きに迷いは無い。

 少年は剣でその場所を炎ごと斬るなり、少女とともに散った炎の先へ飛び込んだのだ。

 だが、少年がそんな時に耳にした射撃音。


(弓手だと!?)


「きゃっ!」


 彼女が鋭い悲鳴を上げた。俺の服の裾を握り締める彼女。

 少年の体から俊敏さが奪われる。

 途端に少年の足元に矢が刺さった。


「どこから!? いや、そこかッ!」


 少年は叫ぶなり、剣を投げた。「ギャッ!」と声がし、ドサリト沈む影。


「剣をくれ、サンドラ」

「え!?」


 急に名を呼ばれた彼女、サンドラは息を呑み、大きな目を数度瞬く。それでも彼女の手は腰の小太刀に。


「サンドラ、借りる!」


 少年は彼女から奪うように得物を取った。


「突っ込むぞ、覚悟を決めろ!」


 少年は言うなりサンドラの手を握り締め、小太刀を持って再び火の中に飛び込んだ。


「ややッ! こやつら火の中に!」


 しかし少年は気にしない。数度目の炎の壁を越える頃には、少年は小太刀を腰にく。

 そして少年は彼女の腰と膝に手を回し、軽々と抱き上げ走り抜ける。


「逃すな!」

「応ッ!」


 追っ手の数は多い。しかし剣を持っても槍を投げても走らせてもむら一番の少年。

 少年が追っ手に追いつかれる可能性。


「なぜ私を助けてくれるの?」

「たいしたことじゃない。お前に昔助けられたからだ、サンドラ。今度は俺が恩を返す番だ」


 少女の体を抱き上げた少年の脚は止まらない。人間離れした走りに、この晩だれも追いつけなかったという。

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