013_蛸壺の中で
「戦争」「地雷」「綺麗な時の流れ」で。
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俺は鉄兜を頭の天辺から抑えつつ、カラシニコフを手に塹壕へと飛び込んだ。それと同時に俺は、後方から幾銃幾百と敵前線に撃ち込まれるロケット弾の飛翔音を耳にする。それは一瞬の轟音とともに、一瞬空を暗くするほどの火力だった。
(面制圧か、巧く行けば良いが……頼むぜ砲兵隊!)
一方で敵は俺のいる最善線へ歩兵を繰り出して来る。
敵はアサルトライフルを手に突撃である。雄叫びを上げて突っ込んでくる敵に俺は正直恐怖した。
(死にたがりかよ)
敵の声は俺の心を暗闇に落す。
(来るな……来るな……来るな畜生め!)
敵を射撃しようと俺が壕から目を出そうとすると、俺の右横から頭に物凄い圧力。
「頭を出すな小僧!」
先任殿が叫ぶ。
俺の頭と体を強引に沈ませる、がっしりと筋肉質な先任殿の上半身。
俺が文句の一つでも言おうとすると、黒、赤、黄と同時に爆発音。俺の眼はこちらに飛んで来た腕や脚の部品を見る。
そう、それは人体の一部だった。
(本当かよ……地雷弾……)
俺の背中に冷たい物が一筋流れる。
俺は急いで頭を引っ込めて、塹壕内で体を低く低くする。もちろん、最初に潜ったときよりも低くだ。そして屈み直すと、鉄兜もより深く被ったのである。
◇
戦後ひまわり畑になっている、かつての前線。花畑の色はとても美しく、その香りは実にかぐわしかった。
綺麗な時の流れは俺から若さを奪い、こんな俺にも節くれだった指の関節を与え、そして肌に血管を浮き上がらせて久しい。
笑みを取り戻した頃には、俺が通り過ぎてきた人々からの記憶さえ薄っすらとさせてる。俺は見る。
家族連れ、子供らの笑い声。
そう。銃撃と大砲の発射音など、もうここには何も無いのだ。
(今日の日差しは、満開のひまわりのようだ)
俺は車椅子に座り、お日様の光を浴びながら、あの日の先任殿の顔を思い出そうとするが、どうしても思い出せない。
ただ、脳裏に浮かぶのは、あの時俺の命を救った唯一つの号令の声だった。
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