10.自立を考える

いつの頃からだろう、子供を自立させるのが親の役割だとして、学校を卒業したら家を出るのが当然のような風潮が出来たのは。なに、そんな風潮は無い。いや、いつの時代かは不鮮明だが、そういう風潮の強い時期が日本にはあった。


自立には、経済的自立、生活的自立、精神的自立があるという説があるが、これは家族のあり方と密接に関係する。


世界には、いろいろな家族の類型がある。エマニュエル・トッドは、家族を、絶対核家族、平等主義核家族、直系家族、外婚制共同体家族、内婚制共同体家族、非対称共同体家族、アノミー的家族、アフリカ・システムの8つに分類して社会を分析した。


日本は直系家族に分類されているが、いまでは家族システムが崩壊寸前だと言われている。年老いた親は家を追われて老人ホームへ行き、離婚は当たり前のこととなり、何よりも単身世帯が増えた。


家族が集まるのは葬儀の時だけで、そこから相続いやいや争続で揉める。会ったことの無い親族が顔を出す。まあ、これは金持ちだけの話だから、どうでもいいか。


それにしても、自立はそんなに重要なことなのだろうか。そして、自立は本当に素晴らしいことなのだろうか。経済的に自立していると言いながら勤めている企業に依存しているというのでは矛盾である。自立した生活と言いながら家事全般を妻に任せているというのは矛盾である。精神的に自立するとは、はて、どういうことなのか、意味が分らない。心理学者なら偉そううに定義を示せるのだろうか。


自立が重要という幻想に導かれて、地方から東京の大学に行き、東京で就職し、マンションを買い、一生独身。父が死に、地方の大きな実家に残されたのは母一人。定年退職したものの住み慣れた東京を離れるつもりはない。精神的にも自立しているので友達はいない。なるほど、自立は幸福への近道だ。


自立した男と女が結婚する。当然、自立しているので主夫あるいは主婦にはならず共働きだ。しかし、結婚するとなると、どちらかを世帯主にしなければいけない、原則的に生計を共にしなければいけない。現行の民法は、一旦は自立した男女のどちらかの姓に統一しなくてはいけない。これが家族法(民法)の考え方だ。まあ、親の家に住み、親を世帯主のままにすることは可能だが。


自立という言葉に踊らされて、家を飛び出した、あるいは追い出した結果が、今の日本社会の姿なのだと思う。では、どうすれば良いのか。


一つは諦めることだ。男一匹、女一匹、自立して生き抜く。まあ、楽しみの一つくらいはあるだろう。離婚していて子供がいるというケースもある。この場合、子供に自立してもらうまで面倒を見ないといけない。自立の連鎖だろうか。


もう一つは、家族戦略を作ることだ。これは親族の誰かに資産家がいるような場合、特に有効だ。親戚一同で会議の場を持ち、役割分担を持って一族の繁栄ないし保障を考える。本気なら財産管理会社を作っても良いだろう。


結局、自立を推進したのは、大企業が転勤可能で優秀な人材を獲得したかったからではないだろうか。身軽な人間が必要だったのだ。マス・メディアもこれに乗っかった。未だにニートは悪者扱いだ。社会問題。本当に労働力人口がフルタイムで仕事をしないと機能しないような経済社会なのだろうか。そんな馬鹿な話はない。働きたくて、働ける人間だけが働けば十分なのではないか。


え、働きたくないけど働かざるを得ない。うむ、それは問題だ。働きたくないのが問題ではなく、働かざるを得ないという貧しさが問題だ。なに、家族がいる。なら、家族に食べさせてもらいなさい。え、家族を食べさせないといけない? それは深刻だ。自立したという幻想を持って結婚したのが失敗だったのかな?


私は親は子供に対し無限の責任を持っていると思う。それを愛と言う。ときどき、子供に殺される親の事件があるが、これは親が悪いと思う。


家。大家族の鬱陶しさというのもあるだろう。どのような家族観を持つかも人それぞれだ。個人主義的になると、親と子は対等だ。日本は権威主義的だ。しかし、金の無い親は権威が失墜する。極端に自立を推し進めるよりも、互助的にやっていった方が得策ではないのか。


自立という幻想に振り回されて、家族という文化が崩壊した日本。それでもまだ、自立ですか?

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