第一章 禁断の魔道士(4)
魔道の術のなかには確かに忘却の術(エンソサティ)という一時的に記憶をうばう術はあるのだが、これほど多くの人に一度にかけられるものではないし嘘をついている可能性はきわめてひくい。
そもそも虚海の最果てには何もないと言いはじめた人物とは誰なのだろう。
「一度目の冒険者は………と」
冒険書をひらいた。
「……やっぱりおかしい」
しかし名前や詳しい内容は削除され明記されていない。
それとも…誰かが意図して冒険書に載せなかった、のか?
「……………!?」
突然、船内の空気がかわった。たとえて言うなれば禍々(まがまが)しい黒い気。
「うぎゃァーーーーーッ!!」
男の絶叫が夜の船を震撼(しんかん)させた。
「いったい……何ごと?」
慌てて船室から飛び出した。
すると甲板へとむかう船員がティアヌの視界を横切った。
「どうしたの!?」
顔面蒼白ぎみな船員は恐怖でふるえあがる拳(こぶし)をかたくにぎりしめた。
「せ、船長!! 水怪獣(ザルマグワン)です!」
「水怪獣?」
水怪獣とは船乗りならばその名前を聞いただけでも身震いをする。
ここ数年なにものかによって操られているかのように人々を襲うようになった。それまで以前なら絶対にありえなかったことだ。
「……水怪獣が船の周囲をグルリと取り囲み……その数およそ二〇〇」
姿かたちは越前クラゲをさらに巨大化させたものに近く浮遊するかのように海のなかを漂っている。
一般的なクラゲは腔腸(こうちょう)、動物の鉢クラゲとヒドロ虫の総称で体は寒天質。つりがね形・かさ形で、まわりに糸状の触手がふさのようにたれさがっている。
水怪獣がクラゲと違う所は青白く発光する点である。
猛毒の触手は船乗りを船からひきずりおろし血液だけでなく人肉を好んで食べる。
ある取り決めが結ばれてから水怪獣は人を滅多なことでは襲わない。普段は深海に生息しこのように姿を見せるのは大変珍しいことで、海の異変にじょうじ変事の影響をうけて船を襲うとか。
「……船長……?」
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