第一章 禁断の魔道士(2)

普段のティアヌはといえば、絵にかいた風に平凡そのもの、ごくありきたりなどこにでもいる少女。





十四歳にしてはかなり童顔めな学生だ。




もし普通ではないとすれば漆黒のマントを羽織り、新型モデルバージョンの鎖帷子(ミスリル)型キャミソールを身につけ、優れた耐久性をほこるエルフの羽でつくられたロングパンツというイデダチ。




特殊部隊用の頑丈なだけが売りの武骨一辺倒な手袋に、象にふみつけられても痛くも痒くもありません…という謳い文句の黒のブーツをはいている。





護符石(アミュレート・ストーン)としてラピスラズリの首飾りを身につけてはいるが別にファッション性をねらって、というわけでもない。




実用性を重視した型通り、一目瞭然いわずとしれた魔道士である。そのなかでも護符石などに青をもちいる数少ない魔道士は『紺青(こんじょう)の青の魔道士』とよばれる。




ティアヌは学生のなかでもとりわけ生活苦、国からの援助をうける苦学生だ。




たった一人の肉親である祖父に迷惑をかけないようにとはじめたアルバイトも生活の厳しさから磨きをかけられ、今ではこの波止場町きっての名物レストラン『難海亭(なんかいてい)』の看板シェフに抜擢されるほどの腕前、ささやかな貧乏の賜物(たまもの)をさずかり、マディソン号にはシェフ兼船長(キャプテン)として乗船した。




魔道士として乗船しなかったのは、その種明かしをすれば一般的に学生は魔道士とは認められていないからである。




その辺の詳しい話は道すがら説明していくとして。




一癖(ひとくせ)二癖とある年長者ばかり、場数をふんできたキャリアのある船乗りたちをひきつれ危険な虚海へと旅だった。




なにゆえピチピチ女子学生がこの猛者(もさ)たちと旅をともにし、なおかつ船長をつとめることになったのか?




その真相は黙して語らず。




ただ一つだけ断言できることは、志しなかばで死することなく、セントワーム市(シティ)へ無事に帰ること、それが重要なのだ。




刻々と迫る夕闇。




やがて穏やかな風がマディソン号の帆をしぼませた。




すべてが朱一色にそまる海原……地平線へと沈む夕日。




一日の終わりを告げる闇が訪れようとしていた。




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