第36話 自分との戦い(炎帝候補)


「……ここが鏡の中」


 鏡の中に入ったフレイナは辺りを見回す。

 天井、壁、地面、全てが鏡出てきた空間。先ほどまでの場所とまったくもって変わらない。


「なんだか頭がおかしくなりそうな場所」


[あら、人の家に対して随分な評価ね]


 フレイナの言葉に答えたのはフレイナの偽物。

 フレイナは驚きつつも、冷静に偽物と言葉を交わす。


「あなた、口を利くことが出来たのね」


[出来るわよ。私はあなた、フェルニーナ=フレイナなのだから]


 偽物は笑ながら答えるが、フレイナは偽物に冷たい視線を向ける。


「違うわよ。フェルニーナ=フレイナは私だけ。あなたは別の何か」


[別の何か?どこからどう見てもあなたと同じだけど?]


「確かに見た目は私そっくりだものね。けど、中身は違うのでしょ?」


[さぁ、どうかしら。見た目だけじゃなくて、魔法も、記憶も、思いも、全部あなたそのものかもしれないわよ?]


「そこまで同じだとするなら、私の邪魔をしないで欲しいのだけど」


[そうでしょうね。ここまででも少なくない量の魔力を消費してきた。上がどこまであるか分からないのに無駄遣いはしたくないものね]


 偽物は完璧にフレイナの考えを言い当てる。


[でも残念。私はあなただけど、あなたの全部じゃない。私はあなたを殺すために作られた偽物]


「……結局あなたは私じゃないのね」


 フレイナは短杖を偽物に向けて構える。


[そうね。だって私の方が強いもの]


 偽物も同じ短杖をフレイナに向ける。


「【炎炎鳥フレイム・フェニックス】」


[【炎炎鳥フレイム・フェニックス】]


 本物と偽物、それぞれが出した巨大な炎の鳥がぶつかり合う。

 そして、互いに消滅する。


「やっぱり互角」


[だと思ってたら死ぬわよ?【ファイア・ボール】]


 偽物は炎の球を複数飛ばし、フレイナは走って炎の球から逃げる。


[無様に走るわね。魔法で防がないの?]


「……私にしてはおしゃべりね」


[私はそういう存在だもの。まぁあの剣士のコピーはイレギュラーすぎてまともに喋れなかったみたいだけど]


「イレギュラーね。確かにキリヤくんの偽物は魔法使ってたものね。つまりあなたたちは完璧に私たちを再現できない」


[どうかしら?言ったでしょ、あれがイレギュラーだって]


「そうねイレギュラー。本当にあの人はいつも常識を覆してくる。あの人の隣に立つなら、それくらいはしないとね」


 フレイナは杖を構える。


(魔力はそれほど残ってない。だから最初の一撃で決めたかった。けどそれもかなわず、障壁を張る魔力の節約のために走って魔法を避けた)


「……これで、決めるわ」


[大口叩くじゃない。せいぜいあなたの魔法で殺してあげるわよ]


 互いの視線が交差し、互いの魔力が高まる。


「【炎炎鳥フレイム・フェニックス】」


[【炎炎鳥フレイム・フェニックス】]


 再び現れる二体の大きな炎の鳥。二匹は再び正面からぶつかり合う。だが先ほどと違い、フレイナの【炎炎鳥】だけが消え去り辺りに煙を撒く。

 そして残った偽物の【炎炎鳥】はフレイナのもとに突っ込んでいく。


[これで終わり。あっけなかったわね]


 辺りが煙で満ちているなか、偽物は後ろを向き鏡に向かって歩く。

 そして部屋を出て行こうとする偽物は、後ろにいる彼女の存在に気付くのに遅れた。


「どこにいくのかしら?」


[うそっ!?]


 偽物が後ろを向くと、すぐ後ろの煙の中から炎を纏った拳を構えるフレイナが現れる。


[【ファイア・]


「遅い!」


 偽物が魔法を使うより先に、フレイナの拳が偽物の腹に叩き込まれる。


[ごほっ!?]


「まだまだ!」


 さらにフレイナは足にも炎を纏い、蹴りと殴りを繰り返す。


[ぐっ、がはっ、っ……]


 偽物は全身ボロボロになり、その場に倒れる。


「ふぅー、どうかしら?」


[……驚いた。まさか魔法使い、それも貴族のあなたが近接格闘とはね]


「……やっぱり、あなた私じゃないわね。フレイナ家は世界が魔法主義になる前から続いている一族。そして戦争で活躍してきた一族。当然魔法が使えない場合の戦い方も残ってるわよ」


 フレイナは炎を纏う魔法、【エンチャント・フレイム】を使い拳と脚に炎を纏い、魔力で体を強化し、そのうえでフレイナ家に伝わる格闘術を使用した。


「と言ってもほとんどぶっつけ本番みたいな感じだったけどね。だからあなたの不意をつけたわけだけど」


[……近接戦ね。それ、彼の話をしたから思いついたでしょ?]


「えぇ。自分に勝つには自分に無い物が必要だと思ったもの。だから【炎炎鳥】の魔力を少し抑えて、煙も出して、自分の魔力を隠して近づいた」


[はぁ、彼の話なんてするんじゃなかった。貴方の頭の中が彼の事ばかりだったせいよ]


「……そんなこと無いと思うのだけど?」


[あるわよ。はぁ、ほんと最悪。……道を開けたわ行きなさい]


 偽物の言うとおり鏡の壁に穴が開く。


「あなたを殺さなくていいのかしら?」


[殺したければ殺せばいいわ。けどここを抜ける条件は自分に勝つこと。私はもう負けを認めたから先に進めるわよ。魔力、無駄に使いたくないでしょ]


「そう。ならお言葉に甘えて、それじゃあ」


 フレイナは開いた穴に向かって足を進めた。




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