第35話 自分との戦い(魔剣士)
「っ、本当に鏡の中に入れたな」
鏡の中に入ったキリヤは周りを見渡す。
鏡の中の壁や床も鏡。この階層は何処まで行っても鏡尽くしだ。
「ほんと頭が痛くなる場所だな。お前はそう思わないだろうけど」
[………]
キリヤは目の先に立っている、自分の偽物に声をかける。だが偽物が声を発することはない。
「だんまりか。まぁ俺も仲良く会話する気は無いからな」
キリヤは斬魔を構える。
[……【エアロ・ブースト】]
対して偽物は斬魔のコピーを構え、自身に風の身体強化魔法、【エアロ・ブースト】をかける。【エアロ・ブースト】は自身の身体能力、主に速度を上昇させる。
お互いに相手の動きに全神経を集中させ、両者同時に鏡の床を蹴った。
「切り裂け、『斬魔』」
[【エアロ・ブレイド】]
キリヤは『斬魔』で偽物を切ろうとするが、それより速く偽物が【エアロ・ブレイド】、風を纏わせた剣がキリヤの頬をかすめる。
「ちっ、『斬魔』!」
頬かすめた瞬間、斬魔で偽物の剣に付与された風を切る。
さらに距離をとり、斬魔を左手に持ち右手を鞘に当てる。
「こい、『風魔』」
鞘から風魔を抜き、力を込める。
「『風魔・風纏い』」
さらに風魔に膨大な風を纏わせ、斬魔と風魔、二つの魔剣を持って走る。
だがその姿は鏡に映る。
[風魔]
偽物が呟くと、その手に風魔の偽物が現れる。
さらにその風魔、そして斬魔にも魔力を込める。
[【エアロ・ブラスト】]
偽物は二つの魔剣に本物の『風魔・風纏い』と同等レベルの風を纏わせる。
「お前、本当に俺じゃないな。風魔、ちょっと飛んで来い!」
キリヤは走ったまま、風魔を空中に投げる。
「こい、『蛇腹』」
開いた手で鞘から蛇腹を抜き、地面の鏡に投げる。
「『蛇腹・三頭』」
地面に突き刺さった蛇腹はその刀身が三つに伸び分れ、鏡を割りながら偽物に向かって行く。
だがその蛇腹も、鏡には映る。
[蛇腹・三頭]
蛇腹の偽物が地面の鏡に突き刺さって現れる。
そして偽物の蛇腹も地面の鏡を割りながら本物の蛇腹の動きを封じる。
蛇腹同士の交差があった一瞬で、本物と偽物のキリヤとの距離がすぐ近くまで近づいた。
「『斬魔』」
キリヤの『斬魔』が偽物の剣に纏っている【エアロ・ブラスト】を斬る。
さらにキリヤは左手を上に掲げると、風を纏った魔剣『風魔』がその手に納まる。
「いくぞ『風魔』」
風を纏った『風魔』を振り下ろす。
本来なら十分な決定打になる一撃。だが偽物に対してはまだ足りない。
[【アース・ウォール】]
偽物は目の前に土魔法により土壁を出現させる。その壁は出現と同時に『風魔』によって斬り壊される。そのまま偽物に向かって刃を振るうが、土壁により風の勢いを殺された刃は二本の偽物の剣によって防がれる。
「……『蛇腹』」
[……『蛇腹』]
二人は剣越しに睨み合ったまま、キリヤは蛇腹を偽物に向かって伸ばし、それを偽物の蛇腹で防ぐ。
睨み合いの末、二人は再び距離を取る。
キリヤは息を整えながら、偽物と戦闘した結果を思い返し分析する。
(まずは魔剣のコピー。あいつは俺が出した魔剣をコピーしてくる。風魔も、蛇腹もやられた。となると)
「戻れ『蛇腹』」
キリヤは風魔を鞘に戻す。そして蛇腹は刀身を伸ばしキリヤの手に納まり、刀身を戻して鞘に収納する。
二本の魔剣を鞘に収納したことにより、偽物の風魔と蛇腹も消える。
(やっぱり鏡に映った物を無条件でコピーしてるな。……あれを試してみるか)
「こい、『
キリヤが新たに鞘から一本の剣を抜く。
それもまたキリヤの持つ魔剣の一つ、『
キリヤは右手に『斬魔』左手に『武具破壊』を持ち再び偽物に向かって走る。
[
偽物も右手に斬魔のコピー。そして左手に新たにコピーした武具破壊を持ちキリヤを待ち構える。
「偽物を壊せ!『
キリヤの『武具破壊魔剣』と偽物の『武具破壊魔剣』がぶつかり合った瞬間、
[っ!?]
偽物の『武具破壊魔剣』の刀身が粉々に砕け散る。
これこそが『
この魔剣はありとあらゆる武器、防具を破壊する。
強力な能力だが、今の時代武器を持つ者などほとんどおらず、防具も動きの邪魔ということで見つけるとしても最低限の物。
昔の戦争ならば大いに活躍したであろう、時代遅れの魔剣。
さらに言えばこの武器や防具と言った線引きは魔剣自身が行う。魔剣が武器だと認識すれば伝説の剣でも破壊できる。だがそれ以外に対しては通常の鈍らの域を出ない。
かなり使い勝手が難しい魔剣、それこそが『
先ほどの攻撃から連続して『武具破壊魔剣』を振るい、その刃を受けた偽物の『斬魔』が粉々に砕け散る。
「随分と驚いた顔をするな」
二本の剣を失った偽物に向かって『斬魔』振る。
[【エアロ・バースト】]
だが偽物は自分とキリヤの目の前で風の爆発を起こす。その爆発をキリヤは『斬魔』で防ぎ、偽物は爆風で後ろに飛ぶ。
その様子を見て、キリヤは再び思考を回す。
(『武具破壊魔剣』の力が通用した。となるとあのコピーは外側だけで能力はコピー出来てないな)
『武具破壊魔剣』はありとあらゆる武器、防具を破壊する。だが魔剣や魔道具など特殊な加工をされた物や魔力によって守られている物を破壊する場合は抵抗がある。それでも力を込めれば破壊は可能だが、偽物のコピーした魔剣は抵抗もなく一瞬で破壊することが出来た。つまりコピーした魔剣は外側だけ真似た何の能力も持たない剣ということだ。
(思い返せば『風魔』のコピーにわざわざ風魔法をかけてたしな。蛇腹は伸びたのは伸びた『蛇腹』をコピーして動かしてたのは魔力か魔法、どちらにせよ俺の偽物自身が動かしてたんだろうな)
キリヤが偽物を見ると、偽物は両手に新たに『斬魔』と『武具破壊魔剣』のコピーを手にしてる。
(破壊されても鏡に映っていれば無限に復活するわけか。なら本体、俺の偽物を斬るしかないよな。魔剣の消費も激しいし、種は分かった)
「これで決めるぞ、『斬魔』『
[【ブースト】【エアロ・ブースト】]
偽物は身体能力強化魔法の【ブースト】、風の身体強化魔法【エアロ・ブースト】で身体能力を重複して向上、特に速度は常人の倍以上になっている。
通常二重での身体能力強化は体が大きな負荷が掛かるので行わない。だが鏡に映った虚像である虚像はそんなことを気にせず限界まで身体能力を上昇させる。
キリヤは右手に『斬魔』、左手に『武具破壊魔剣』を持ち姿勢を低くし、走り出す。偽物は剣を構えてカウンターの体勢を取る。
「……!」
[……!]
キリヤは『武器破壊魔剣』を横に振る。対して偽物は強化した身体能力をフルに使い、『武器破壊』を避けるように右手の剣を横に振る。
先に剣を振ったのはキリヤ。だがこのままでは身体能力、特に速度を強化した偽物の剣の方が先にキリヤの体に届く方が早い。
「『
[………]
キリヤは偽物が剣を振るのと同時に剣の軌道を横から縦に変え、自分の体に剣が触れる前に偽物の右の剣を斬り壊す。
だが偽物はそこで動きを止めず、左の剣を突き出す。流れるように自然に剣を突き出す、普通ならば反応すら出来ない攻撃。だが
「斬魔」
突き出された左の剣を、『斬魔』で弾く。
剣を弾かれた偽物は大きく姿勢を崩す。
そんな偽物の体を『武具破壊魔剣』で斬る。
[【マジックバリア】]
だが偽物は魔法を使える。偽物は自分の身に魔力の障壁を張り『武具破壊魔剣』を防ぐ。『武具破壊魔剣』はあくまで武具を破壊する剣。魔力の障壁などには無力。
だがキリヤの右手に持つ魔剣は違う。
「『斬魔』」
キリヤは『斬魔』で【マジック・バリア】を斬る。さらに連続して『武具破壊魔剣』で偽物を斬る。
だがその傷は浅い。身体能力強化魔法【ブースト】には自身の防御力、耐久力を上げる効果もある。
なのでその効果を、『斬魔』で斬り裂く。強化魔法ごと偽物を『斬魔』で斬り、その傷に向かって『武具破壊魔剣』を叩き込む。
『武具破壊魔剣』は完璧に『斬魔』のつけた傷を追撃、追斬する。
「我流二刀流:
我流二刀流:追斬
一本目の剣でつけた傷に向けて、二本目の剣を一ミリの誤差なく完璧に当てる技。どれだけ強固な相手だろうと同じ場所に攻撃を受ければいずれ倒れる。
[………]
偽物はその場に倒れ、目を閉じる。
キリヤは二本の魔剣を鞘に納め、偽物に目を向ける。
「剣の戦いは中々楽しかったよ。次があればお互い純粋な剣だけで戦おう」
キリヤが足を進めると前の鏡が光り出す。
「二人はどうなったか、まぁ二人なら問題ないか」
キリヤは光輝く鏡の中に入った。
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