第7話 魔剣契約と代償


「100点だと……?」


「ええ、さっき先生が言ってたじゃないですか。フレイナと同じくらいのことをすれば100点をくれると、まさかもうお忘れですか?」


 キリヤは、早く点数をくれと言わんばかりに教師を煽るが、対する教師は身体を震わせる。


「……ふざけるな!それはあくまで、自分の実力で行った場合だ!まぁ、多少の評価で50点をくれてやる」


 50点、この教師が付けた点数の中では高い方である。

 だが、キリヤがそんな点数で満足するはずが無い。


「ふざけてるのはどっちだよ。……はぁ〜。いいか、この剣はな、お前が持っているその棒と、違ってこいつに認められないと使えない魔剣なんだよ」


 と、キリヤは丁寧に説明するが、教師は聞いておらず、それよりも……。


「ただの棒だと?!」


 持っている杖を棒呼ばわりされたのに腹を立てている。


「貴様!さっきから言わせておけば……もういい、やはり貴様は0点だ!そんな物に頼って、自分の実力も無いやつに点数はやれない!」


 教師の言葉にキリヤは心底、面倒くさそうな顔をするが、ふと、いい事を思いついたとでも言うように『不死鳥フェニックス』を教師に向ける。


「実力、実力って、そこまで言うなら試してみますか?」


「試すだと?」


 キリヤの突然の言葉に、教師は不可解な顔をする。


「ええ、この魔剣『不死鳥』。もと魔法騎士の先生なら知ってると思いますが魔剣は認めた者にしか扱えない。つまり、この魔剣を先生が使うことができれば、俺に実力がないことになります。ですが、先生が使えなければ、俺が先生よりも実力があることになりますよね?」


「……だからどうだというのだ。私にそんな事をする理由はないぞ」


 教師は何があっても、キリヤに従わないと意思を固めている。

 だが、そんな意志もキリヤの言葉により簡単に崩れ去る。


「もし、先生が魔剣を使えれば、魔剣は先生を認めたことになりこの魔剣は先生の物になります。騎士団に戻りたい先生にとって、この魔剣の力は魅力的じゃないですか?」


「なっ!?なぜ、それを……」


「さぁ、どうしますか?」


 それはまさに、悪魔の囁きだ。

 だが、どんな事をしてでも騎士団に戻りたい教師にとってこれは正しく魅力的だった。


「いいだろう。……やってやる」


「それはよかった。ですが、やる前に【契約】の魔法を交わしてもらいます。さっきの事もありますし、またはぐらかされても面倒なんで」


「ちっ、……ほら、サインしろ」


 教師は、面倒くさそうに魔法を発動させキリヤにわたす。

 その内容は、魔剣が教師を認めた場合に魔剣が教師の物になること。

 認めなかった場合には、キリヤのテストの点数に100点を付けることが記されている。


 だが、当然キリヤがその契約に普通にサインするはずはなく、腰から剣を抜く。


 抜いたのはもちろん、『契約ノ魔剣』だ。


「どうも、それじゃあ……『契約ギアス』」


『契約ノ魔剣』は魔法に刺さり、魔法へのサインが終わる。


「おい、お前はなんでさっき剣を突き刺したんだ?」


 魔法を返された教師が質問する。


「まぁ、剣士流の契約方ですよ」


 キリヤ言葉を聞き、周りで見ていた生徒たちはディルとの決闘のことを思い出し、引き気味になる。


 当のディルはあれがトラウマのようで、うわぁと頭を抑えている。


「?そうか。それじゃあ……」


「ええ、どうぞ、ください」


 教師はキリヤから『不死鳥フェニックス』を受け取る。


「さぁ、魔剣よ。私を認め、私の物となれ!」  


 教師は『不死鳥』に命令をするが、何かが起こる様子はない。

 このまま終わりかと誰もが思っていたその時、『不死鳥フェニックス』の刀身が炎に包まれる。


「お、おお〜。どうだ!魔剣が私を認めたぞ!!」


 教師はよっぽど嬉しいのか、年甲斐もなくはしゃぐ。


「あ、兄貴。どうすんですか!『不死鳥フェニックス』があいつのこと認めちゃいましたよ!!」


 教師と対象的に、ディル含め生徒たち、そしてフレイナまでもが、信じられないと騒いでいる。

 だがそんな中、キリヤだけは冷静にだが楽しそうに口角を上げている。


「そんな簡単にはいかないさ。『不死鳥あいつ』は結構性格悪いからな」


「え?兄貴、それってどうゆう……」


「あぁっ!?!」


 その場にいた全員が突然叫び声のした方、つまり教師の方を見る。


「あぁぁ手が、俺の手が熱い、燃えてる!、燃えてる!!」 

 

 そこでは、刀身のみならず、全体が炎に包まれている『不死鳥フェニックス』とその炎に手を焼かれている教師がいた。 


「兄貴、これって?」


「あ〜あ。やっぱりこうなったか。先生、『不死鳥フェニックス』を離せ」


 キリヤが言うと、直ぐに教師は『不死鳥』を手から離す。

 だが、


「う、うう。燃えてる、まだ燃えているぞ!!」 


『不死鳥』を離しても、手に移った炎は消えず、むしろ段々と腕にまで炎が侵食している。


「くっ、水、誰か水を!!」


 本来ならば、自分で出せるはずの水もあまりの炎に魔法を使うことが出来ず他人に求めている。

 だが、さっきまでいい加減な点数しか付けられなかった生徒たちが従うわけなく、誰もが傍観している。


「おい!誰か、早くしろ、水だ!貴様ら、全員0点にするぞ!」


 教師は強い言葉で生徒を脅すがこの状況では逆効果である。

 そんな中、


「おい、ディル。水、出してやれ」


 キリヤはディルに魔法を使うよう要求する。


「いいんですか?」


「あぁ、構わない。……どうせ無駄だしな」


「?……わかりました。【ウォーター・ボール】」


 ディルは教師の元に球体の水を出現させる。


 教師は直ぐ水の中に腕を突っ込むが、


「何故だ!?何故、炎が消えない!?」


 炎は消えるどころか、ますます勢いをまして、遂に教師の体にまで、炎が達しようとしていたその時、


「『不死鳥フェニックス』もういいだろう?消してやれ」


 キリヤの言葉により、『不死鳥』は剣の状態から、燃えて灰となり、教師の炎を吸収して鳥の姿へと形を変え、キリヤの肩に留まる。


「さて。これで分かっだろう?こいつはお前を認めず俺の言葉を聞いた。つまり、あんたは俺より下ってことだ」


 ピェロロと、『不死鳥』も同意するかのように鳴く。


「くっ、ううぅ!!」


 教師は火傷した腕を抑え、悔しそうに、キリヤを見る。


「と、言う訳で……100点くれますよね?」


 キリヤは教師を見下ろしながら言う。

 そんな教師は、ふふふと笑いながら立ち上がる。


「あぁ、100点……なんてやるわけ無いだろ!!【契約】破棄だ!」


 教師は【契約】魔法をバラバラにして【契約】を破棄する。


「ははは!いいか!これが私とお前との実力の差だ!貴様に実力さえあれば【契約】が破棄されることもなかったのにな!」


「はぁ〜。ディルといい、この教師といい、何でそう自分が絶対優位に立ってると思うんだろうな?」


「ふっ、一体何を言って、っ!?。なんだ、この苦しみは?」


 突然教師が胸を抑えて苦しみだす。

 それはこの場の生徒全員が見たことのある光景、あのディルを今のディルに変えた原因。


 当のディルは、耳を塞ぎ顔を膝に埋めて丸まっている。

 よっぽどあれがトラウマのようだ。


「おい、貴様、私に、何をした!?」 


「別に大したことはしてないさ。ただあんたに契約を守らせるだけだ。まぁ、契約の内容は少し変わって、その苦しみがなくなったらあんたがこの場にいる全員に正確な点数を付けるようになるって契約だけどな」 


 もちろん俺は100点だが、という言葉も付け加える。


「ぐっ、そんなこと、する訳、がっ!?」


 教師の意識が途絶える。


「契約の内容を変えたのは悪いが、お前にはやってもらう。じゃないと『不死鳥こいつ』が満足しないからな』


 ピェロロロ!と、『不死鳥フェニックス』は嬉しそうに鳴いた。



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