短編は"完結"で別々にあげます!ごめんなさい💦

@I-By

科学の雨に打たれて

 雨が降っていた。科学博物館で一人遊んでいたときも、2年連れ添った恋人に捨てられたときも、そしていまも。私の悲しい思い出にはいつも雨音が付随する。

 雨粒が傘を、路面を叩く音が聴こえる。雨脚は強く地雨なんかじゃない、ましてや慈雨でもない。

 私のジーパンの裾が濡れる。張り付く布の気持ち悪さを思い出す。スカートにすればよかった。そんなことを思った。

 幼い私はよく科学博物館に遊びに行った。友達と一緒の時もあったけど大体一人だった。科学にまつわるミニゲームが目当てで科学そのものに興味が無かったが何度も訪れるにつれ、同世代なら得意げに話せるくらいには知識をつけた。科学にはあまり関係ない迷路なんかもあったりして私は楽しんでいたが、迷路を独り占め出来たとき、あたりを見まわしても誰もいないとき、私は急激に孤独を意識し怖くなった。だから家路は自転車を飛ばした。

 彼は良い人間ではなかった。暴力を振るってくるわけでも金をせびってくるわけでもなかった。だけど、良い所もなかった。初めて彼にあった時、一人でいることが多く消極的な私は、積極的で人当たりもよく、私をどこかへ連れてってくれるような力強さに憧れた。でも、彼も私と反対に位置するだけで抱えているものは私と変わらないと気付き心が離れた。恋愛対象に自分に空いた穴を埋めることを望み、自分にないものに憧れ、相手を所有することでそれを獲得しようとするのは当たり前だけど、一緒にいたところでそれを得ることはできないし、憧れの欠点に触れ幻滅するのが常だ。幻滅までに、もしくは幻滅してなお一緒にいることを続け“情”が湧くと二人は結婚をして生涯を共にするのだ。彼の長所がすべて短所に捉えても彼への情で付き合っていたが、彼の方から別れを切り出された。こっちだって我慢していたと怒りが込み上げたが、雨の冷たさが私を冷静にした。私はやっぱり孤独なのだと、子供の頃を思い出した。

 そしていま私は母の墓前にいた。孤独は私を侵食し、母を食らった。怯えてきた孤独が私に寄り添う唯一のものとなったいま、私は全てを肯定できるようになった。 

 全ての喜劇、悲劇は現象であって意味などなく、人間の感情や肉体は電気信号や元素の連なりに過ぎず、音波の波形をいじる幼い私のように、ただ意味もなく行われる神の戯れに過ぎないのだとしたら、私のこの孤独も、付随する雨もただの科学に過ぎないのだ。

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