第3話 転生者の行方
一発目で転生者かどうかと直接問われた。
言い方を聞く限り転生者というのは割といる存在なのだろうか?
まだはっきり信じられているわけではないが、少なくとも現実世界…いや元いた世界ではないのは確かだ。
とはいえ英語が通じるなら話は早い。理系と言っても研究するなら英語は必須技能みたいなものだからな。さすがに日本語よりは疲れるが意思疎通手段としては問題ない。以下日本語に訳した会話だ。
「怪我はありませんか?」
若干アクセントが気になるから母国語ではないのだろう。だがノンネイティブスピーカーと話すことも結構多かったからかえって会話は楽かもしれない。
「大丈夫、無傷です。助けてくださってありがとうございます。」
「それは良かった。では町の方へ送りますのでついてきてください。」
助けてもらった手前疑いたくないのだが、こうやって一人でいる人をさらって奴隷として売りさばくとかではないよな。タイミングもちょうどすぎた気がするしな。
俺がそうやって疑っているのがバレたのか、こう伝えてきた。
「どうか警戒を解いてください。国の方針で転生者は保護することになっているのです。報奨金も出るので見つけ次第皆手厚く保護するのです。」
「そうでしたか。…町に行くまでいくつか質問させてもらってもいいでしょうか?」
そう、俺には知らないことだらけだ。聞きたいことが山ほどある。それに悪意があるなら話にボロが出るかもしれない。
「えぇ。転生者に会うのは珍しいので私からも聞きたいことがあります。」
こうして俺は運良く命を助けてもらった。
町まで向かう途中色々と話をした。
細身の男の男はローラン、大柄な男はエイゼン、女性はミシェルというらしい。
英語は転生者用の言語で、学校に通った者は最低限のやりとりができる程度には学んでいるらしい。元の世界で英語にあたるようなこの世界での共通語も別として学ぶらしい。
つまりローランさんはそれとは別に学んでここまで習得したわけだ。俺にとって第二外国語の習得みたいなものだろうにここまで使えているのは素直に尊敬する。
俺もこの世界の言語を覚えないとな。語学はそこまで嫌いじゃないがわかりやすい教科書とかもないだろうし今から不安だ。
ちなみに彼らは別の町に移動する途中で、あのオオカミの遠吠えを聞いて誰かが襲われていると判断して来てくれたところらしい。狩りの合図に遠吠えする習性があるんだとか。
あのオオカミの名前はこっちの言葉でアントラセリアと言うらしい。音は50音じゃないから正確ではないが。アントラが白い、セリアがオオカミにあたる単語で、言うなればシロオオカミだ。
転生者の行く先についても教えてくれた。転生者を保護する組織の本部はこの国の首都にあり、これから俺は支部に連れて行ってもらえるらしい。
なんでも過去の転生者が持ち込んだ知識で何度も発展してきた歴史があるらしく、この国だけでなく世界はどこでも転生者を保護することにしているとのことだ。
ありがとう名も知らない過去の転生者様。あなたのおかげで私は今生きています。
というか年に一人くらい転生者が出てくるらしい。最も運悪く転生直後に死亡していたり表に出てこない転生者もいたりするから数字通りではないらしい。
基本的に転生者を最初に保護した国、もしくは国際的に問題の無い方法で権利を買い取った国が転生者関連の利益を独占できるらしい。だから多額の報奨金を出しているのだとか。
額を言われても貨幣の価値が良くわからなかったが、物価の高い都市でなければ数年遊んで暮らせる金額らしい。
しかしローランさんは本当にすごいな。ここまでの内容を非母国語で話せるとは。
考えてみれば最初に異世界に来た人はどうやってこの世界の言語を習得したんだ?たまたま語学の天才でも転生してきたのだろうか。
だが元の世界でも最初は言語を知らない者どうしの交流だったはずだ。詳細は知らないが言語の壁を越える営みというのは思ったよりたくさんあって、歴史の中で何度も乗り越えてきたのだろう。
そんな風に色々と聞いていると、
「新しい情報が多いだろうし今度はこっちからも聞かせてもらえるかな?」
そうローランさんに言われた。
俺は返事をして質問に答えていった。
エイゼンさんとミシェルさんは英語をそこまできちんと話せるわけではないそうで、ローランさんが俺に色々と教えてくれている間二人で会話していた。そんな二人にローランさんが質問する旨を伝えたのか何やら好奇の目でこちらを見始めた。
「まずあなたがいた国がどこか教えて欲しい。」
「日本です。」
「そうか、転生者の出身地としては比較的多いところだ。これから行くところにも何人か日本人がいるだろう。」
おお!日本人に会えるのか。
まだこっちに来て一時間と経っていないから帰郷の念より戸惑いの方が大きいが、肩の力を抜いて日本語で日本の文化で話せるのは大きい。
…そういえば両親より先に死んでしまったな。そういう子供は賽の河原に行くんだっけ。
そう思うと急に喪失感を覚えた。きっと俺の死に対しては俺自身より家族の方が悲しんでくれるだろう。それくらい仲が良かった。例え四年間一人暮らしをしていても。
「…元の世界に帰った転生者っているんですか?」
「いいえ、残念ながら。だが転生者が中心になって研究をしているという話だ。首都でこの世界の魔術師や科学者も協力して長いこと研究を続けている。」
「科学者もいるんですか?」
科学の概念があるなら俺も研究できるかもしれない。こんなところに来たが元の世界との違いを研究してみたい気持ちは十分にある。
「ああ、だが今のところ魔法の方が便利であまり進んではいない。そもそも境界が曖昧だったのを転生者たちが科学として独立させた形だ。」
なるほど、化学が錬金術だったことの逆か。
「私が転生者に興味を持つ理由の一つが科学だ。あなたの世界の科学がどんなものか聞きたい。」
横を見ると二人もこちらを見て何やら期待しているようだ。確かに元の世界にいて魔法文明を知っている人が来たら俺もこんな目をするだろう。
「そうですね。歴史的に大転換となった発明発見をかいつまんでお話しましょう。」
そう言って俺は相手方の知っている概念から出発して色々と伝えていった。途中ほぼ同時通訳をしていたローランさんの凄さは言うまでも無い。
まずは車、飛行機とインパクトの強いものからだ。電気による高度な機械の数々。そしてコンピューターという大革命。インターネットという高速で膨大な情報網。それから魔法で代用できそうなエアコン。最後には高層ビルだ。
それぞれに違った反応を見せていて面白かった。例えば飛行機は皆興味を持っていた。
エイゼンさんは電気という魔法だと使い勝手が悪いものがそこまで便利になることに驚いていた。
ミシェルさんは高層ビルを建造できる素材が一体どんなものなのか気になっていた。
ローランさんはコンピューターに興味を持って色々と聞いていたが、インターネットはピンとこないようだった。
コンピューターとは行かなくても計算機くらいは欲しいものだな。転生者が電子回路を作っていたりしないだろうか。さすがに高望みしすぎか。
そうして会話をしているうちに最初に持っていた疑いの心が少しずつ晴れていった。
もしかしたらそれは良くないことかもしれない。
でも会話というものは、時間というものは人との距離を縮めていくものだ。人ってそんなものだ。
丸腰の俺相手に長々と演技する必要なんてないはずだ。どうせ丸腰じゃ巨大オオカミを殺せるような人たちには何も抵抗できないんだから、それならいっそ信じていよう。
こうして小一時間かけて歩き続けると立派な町が見えてきた。
…それとどうやら運動不足がたたっているようだ。
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