約束

「…………」


「……何か言ってくれないか?怒っているのはわかるし、私が悪いのは分かっているのだが…」


 私は今、アースベルト家に戻る途中の馬車の中、リオン様とサリアの三人で乗っているのだが、リオン様の顔をよく見る事ができず、ずっと外の景色を無言で見つめている。


 昨日、泣き疲れて眠ってしまっただけでも恥ずかしいのに、朝起きたらリオン様の隣で眠っていたのです。信じられませんよね!?それに、あんな正面から抱きつくような体勢で…


「…顔を見れないんですよ」


「えっ、何か言ったかい?」


「なんでもありません」


 サリアはクスクス笑っているが、無視してもう一度外を眺める。


 昨日、私が眠っている間にエヴァンス公爵とリオン様で情報の共有を行っていたらしい。お医者様も、昔の患者までは覚えていないが、『ニール草の解毒薬はあるか!』と突撃してきた父のことは覚えていたらしく、資料もすぐに見つけることができたみたい。


 そして家から見つけた草はエヴァンス公爵が王都に持っていって調べてくれるみたい。その結果次第ではすぐに父を捕らえることができるだろうとおっしゃってくれた。


 早くて明日、全てが終わる。


 アーシャ先生から、お姉様から奪ったものを全て返す事ができる。その後、私は…


 正直、心残りはある…それもたくさん。お姉様とこんな後ろめたい思いをせず、普通の、本当の姉妹のような話をしたかった。喧嘩みたいなことや一緒のお菓子を分け合うなんてこともしたかった。アーシャ先生のお話も、できればしたかった。

 それに、リオン様との約束も…守りたかった。


 お姉様はこの物語の主人公。そして、私は悪役。全ての役割を終え、舞台から退場し、誰にも思い出されることのない存在。それでいい。


「…到着しました」


「ありがとうございます」


 馬車からおり、振り返る。そこには何か言いたげな顔をしているリオン様がいた。


「…アリシア」


「ありがとうございました。リオン様やエヴァンス公爵のおかげで、私だけでは難しかったですが、父を…母もですが、罪を償ってもらえそうです」


「…約束は必ず守ってもらうからな」


「…はい。約束ですから」


 馬車を見送り、家に入ったところで侍女たちに囲まれる。誰もこない時点で薄々感じていたけど、父は動いたのね。それともこの侍女たちの勝手な行動かしら?


「あなたの両親は幽閉しております。もう誰もあなたの言うことなんて聞かないと言うことです。この意味が分かりますか?」


 少し、小馬鹿にしたように言ってくる侍女の言葉に呆れてしまう。もちろん、侍女にではない。父の方にです。

 ああ、父はやっぱり行動したのか。アーシャ先生だけでなく、お姉様までも…そんなに爵位が欲しいのですか?それなら自分の家の爵位をもらえるよう努力したらよかったじゃないですか。


「あらあら、いつもの強気な様子はどうしたの?父親がいなくなったら威張れもできないのかしら?こんなやつにお嬢様は!」


 この侍女たちにとっては私はいつも威張っているように見えたんだ。内心、ずっとどうしようかと不安だったのだけど、表には出てなくてよかった。

 できれば痛いのは嫌なのだけれど、鬱憤が晴れるのなら良いかな。大人しく目を瞑り、手を出されるのを待つ。


「おやめなさい!!」


 一人の女性の声で止まる。だけど、その声は聞き覚えがない。誰…?

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