要注意人物
部屋に帰る途中、私は確かな手応えを感じていた。
「アリシア様、あれは…」
「言い過ぎ?だけど、あれぐらい言わないと溜め込む人は必ず出てくるわ。無意識に表面に出る感情。それを見ることができたんだもの。やってよかったわ」
「それじゃあ」
「ええ、候補は二人…侍女と…あなたよね。老執事さん?」
「…気付いていたのですか?」
「いいえ、私は気配を読むことなんてできないもの。だけど、来るなら今かなって思った。騎士団長に言った言葉、あなたも理解したんでしょう?」
「…はい。ジャンがあなたを庇った時点で何かおかしいと思っていましたが、まさか、あの男の娘がお嬢様を守ろうとしているなんて思いもしませんでした。ですが」
「……」
「ですが、あなたがお嬢様の婚約者を奪おうとしているのは見過ごせません」
「…エヴァンス公爵家は今のお姉様の現状を理解してくださっています。それに、レオス様もお姉様を諦めるつもりはなさそうですよ?」
「…その証拠は…」
「証拠…ね、マリアに聞いてくれたらわかるんじゃないかしら?」
マリアはお姉様の監視としてるということは知っているのだろうし、彼女が事実を言えば信じてもらえるのでは?
「…私とマリアの関係をご存知でしたか…」
「?」
関係?まさか、恋人関係とは言わない…よね?
「…教えてはいなかったのですね。マリアは私の孫娘ですよ」
「孫娘!?マリアが?」
「ええ、だからこそあの男に真っ先に推薦しました。その後も働きたいと言うものは全員しっかりと身元を調べ、あの男との関わりが少しでもある者は排除してきました」
「それは、アーシャ先生。いいえ、アリーシャ様が関係しているのですね…」
「ええ、あの時と同じように…あの男にお嬢様が殺されないように、私は最善を尽くそうとしてきました」
彼がお姉様のためにいろんなことをして来たのは確かなのでしょう。マリア以降に雇った使用人たちも一人を除けばみんな父の命令を実行するような人じゃないことが今日わかった。だけど…
「だけど、考えが甘いわ」
「…甘い…ですか?」
「ええ、食事はどうするの?父はあなたにお姉様に食事を与えるつもりはないと言ったのかもしれないわ。けれど、もう少し知識がある人だったら?お姉様に利用価値があると言って最低限の食事を与えようとするかもしれない。その時にお姉様はどこにいるの?食事はあなたたちの誰かに任されると言い切れる?父が誰かに利用される可能性は?お姉様を欲しがる誰かに父が売ると言う可能性は?」
「それは…」
「使用人のみんながお姉様を大切にしたいと思っているのはわかっていたわ。だけど、誰にも任せられなかった理由はそこにある。あなたは特に、父に対してだけを考えているけど、あの父が誰かに知恵を与えられる可能性は考えたことある?あんな愚か者、利用できるとわかればすぐに利用されるわよ」
この人はある意味父を信用し過ぎている。こんな問題、父以外が関わる可能性だって大いにあるのに…
「あなたは…」
「私はね。アーシャ先生にいろんなことを教わったわ。この考え方も、話し方も全部。こんな考えをしている子供はおかしい?けれど、私はそれだけ本気なの!全部の可能性を考えて、お姉様に全部返すの!私が奪ったものを全部!」
思わず大きい声を出してしまったことを後悔する。口を押さえて周りを見ると、老執事から声をかけられる。
「…声のことなら心配入りません。この周りはジャンや騎士団長に任せてありますから」
「…そう。よかった」
「私はまた、間違えていたのかもしれません」
「間違ってなんていないわ。この屋敷をお姉様の味方でいっぱいにしたのはあなたの功績じゃない。一人だけ違うようだけど…」
「ドーラですね。今まではあの男が連れてきた人間も私が判断していたのですが、彼女だけは頑なに断られました」
「…そう、ドーラね。任しても大丈夫よね」
「はい。しっかり監視しています」
今回のことで、ドーラ、彼女がこの家の中で一番の要注意人物だと言うことがわかった。
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