明日のために
エヴァンス公爵家に手紙を出して数日後、公爵家に向かう日付が明日に迫った。
手紙の内容は『趣味について、お話を聞く機会がいただけてとても嬉しく思います』と無難に返した。それと、『公爵家のメイドさんも見たいので、お迎えの時に連れてきてください』とお願いした。
その内容に少し、不服そうなメイド服を着た人が一人…
「アン、まだ拗ねているの？」
「お嬢様…以前から言っていますが、拗ねていません」
こんな感じだ。お姉様が宥めているけどまだダメみたい。
「私に嘘をつくんだ。アンも私を…」
「そう言うわけでは！！……お嬢様は以前よりも…おてんばになりましたね」
「そうね。側にいてくれる人が明確にわかったからかな？そんなことはいいの。どうしてそこまで拗ねているの？」
「本当に拗ねているわけでは…ですが、公爵様が信頼できる方とはいえ、アリシア様が一人で行くことに納得がいってないだけです。その行動がどんな危険なことかわかっているはずなのに…」
こっちを見なくてもわかっているわよ。だけど、私よりも危険な人がこの家にいるんだもの。戦力は多いことに越したことはないじゃない。
「…今日の夕食の後になればその理由がわかるわよ。言っておくけど、私が何をしても何も言わないでね」
「…またですか、せめて何をするか言って欲しいのですが…」
「…そう…ね。私なりの見分ける方法かしら」
「見分けるって…」
「明日までに早急に味方が必要になる。なぜかそんな感じがするの。だから、何も言わないで」
「…わかりました」
明日、私はこの家に来て初めて家を離れる。その時に、お姉様は？連れて行くのは確実に父が止めるだろう。お姉様の婚約者は本気でお姉様のことを心配しているのは知っているはずだから…
そして、変装もダメ。明日は必ず自分の足で家を捜索してでもお姉様のことを探し出すはずだから…
お姉様を殺害するために…
だって、お姉様は唯一、自分の地位を脅かす人物だから。私がいない時なら何をしても言い訳がつく。例えば、部屋から逃げ出そうとした。さらには、自分の家を取り返そうと襲ってきた。もしくは盗賊のせいにするかな？そんな感じで言い訳などいっぱいだ。
エヴァンス公爵家に誘いをいただいて、ご機嫌な理由は私が公爵様に気に入られたことだけではなかったのだろう。あの時、思いつかなかったことが悔しい。
思いついていたらもう少し公爵様と手を考えたり、時間を父の都合が悪いように出来たのに…
「…ア、アリシア？」
「…お姉様？どうしたのですか？」
「とても怖い顔をしていたから…」
「…少し嫌なことを考えていたからでしょうか？大丈夫で…」
お姉様に抱きしめられる。これで何度目だろう。お姉様と出会ってからは本当に抱きしめられることが増えた。人の暖かさを感じる機会が増えた。この暖かさを忘れたくなんてないし、失いたくなんてない。
「大丈夫ですよ、お姉様。私は大丈夫です。だから、お姉様も気をつけてくださいね」
お姉様から離れ、部屋から出る。
お姉様の力になるのがわかっているのは、食事の時によく私を睨んでいる数人、それ以外はなんとも言えない。私を観察しているのはわかるのだけれど、それは父側の人間なのかはわからない。
できるなら、家の中で敵なのは父と母だけがいいのだけれど…
もしも多いなら、私がお姉様の身代わりになろうかしら？それが一番いいのかも知れない。そのままお姉様は公爵家に引き取ってもらいましょう。
「いい考えが思いついたのですか？」
「ええ、私が身代わりになれば全てうまくいくことがわかったわ」
「…それをお嬢様の前で絶対に言わないでくださいね」
「？どうして？」
「絶対に！です。絶対に！言わないで！くださいね！」
「え、ええ、わかったわ」
話さないと実行できないのだけど…最低でもお姉様には私のふりをしてもらわないといけないわけだし…
アンに考えが読まれたのか、ジーと見てくる。わかったわよ。これ以外のことも考えるわよ。だけど、最悪の事態の時には言うからね！
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