これからも一緒に

 アンと廊下で少し話した後、私は部屋に戻り、お姉様と対面している。ベッドの上で。


「お姉様、少しお話があるのですが…」


 この際、場所なんて関係ない。お姉様の婚約者がどのような方なのかを聞かなければ。もしかすると、父に話されてしまうかもしれないのですから。


「ええ、何かしら?」


「…その…お姉様の婚約者様のことです」


「…あの人に何か言われたのね」


「はい…私に婚約者を、と。その前にお姉様に婚約者の話を聞いたことがあるかと聞かれました」


「…そう。そうね、レオ様。あっ、レオス・エヴァンス様ね。彼はエヴァンス公爵家の次男であり、未来のアースベルト侯爵家の婿入りする予定の人と言えばわかるかしら」


「やはり、お姉様には婚約者がいたのですね。そして、また私は…」


 お姉様から奪おうとしている。今回は相手も人。感情のないものではない。相手が否定してくれたらいいだけ。幸いなことに、相手の方が爵位が上なのだから、断ってくれればいい。

 だけど、相手が父のようなクズだったら?この家に入るためならお姉様じゃなくてもいいと言い出したら?


「アリシア。思い詰めないで」


「えっ」


「今、すごく怖い顔をしていたわよ。あのね、もしレオ様が小説のように私を捨てたところで、どうしてあなたのせいになるのよ」


「それは…だって私がいなければ…」


 そう。私がいなければこんなことは起こらなかった。それが今わかっている真実なのだから。


「はぁ、あなたはあなた以外の人が取る行動まで、責任を取るつもりなの?あなたの責任って何?ここで言える?私は小説で私にどんなことが起きるかは知っているわ。いえ、知っていたと言うべきね。だって今のこんなに楽しいことは書かれていなかったもの。小説でのシェリアはただ疎まれ、虐げられ、一人ぼっちだった。今は私の側にアンがいる、マリアがいる、そしてあなたがいる」


「それはお姉様がちゃんと周りに話していたから…」


「それもあるかもしれないけれど、アンはあなたの側付きなだけだった。マリアは入ってきたとしても、私の側にはこれなかった。今この状況になっているのは全部あなたのおかげなのよ。それに、これからも私はあなたと一緒にいたい。だからいなければとか言わないで」


 お姉様はずるい。いつものように少し抜けているだけならば誤魔化すこともできたかもしれないのに…誤魔化させてすらくれないなんて…


「お姉様はずるいですね。いつもは少し子供っぽいのに、どうして…こんな時にはかっこよく…なるんで…すか?」


「私はシェリアに転生して、少し他人事だと思っていたの。諦めてもいた。だけど、私のこんな脈絡もない話を聞いてくれた。信じてくれた。そして、私を守ろうとしてくれている人がいた。だから…ね。私も、私よりも賢いのに自分をあまり大切にしない女の子を守れるようになりたいと思ったの」


 ずるい、ずるいよ。お姉様。そんなこと言われたら、私…


「私は…お姉様の…邪魔になりませんか…」


「ならないわ」


「父親と母親は…人の不幸を…喜ぶような人ですよ…」


「父親は私と同じじゃない。それに、あなたとは関係ないわ」


「あの人たちと同じように…無意識にでも…お姉様のものを奪ってしまうかも…しれないのですよ」


「その時は話し合いをしましょう。話し合えば分かり合えるでしょ?」


「…これからも…一緒にいて…いいんですか?」


「ええ、もちろん」


 お姉様にぎゅーと抱きしめられる。涙で何も見えない。けど、もういいの。この暖かくて優しい匂いに包まれて、もう我慢することはできなかった。


 私は今日、初めて人前で泣いた。

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