守り方

 目が覚める。


 アーシャ先生との勉強は私にとってとても新鮮で、楽しいものだった。それに、アーシャ先生が言っていたように、私は貴族と大きく関わるようになってしまった。


 それに…昨日の私の判断を聞いたらアーシャ先生は褒めてくれるかな?それとも怒るだろうか。


 でも、アーシャ先生が言っていたことは実行できたと思う。


「どうしても守りたいものがあるのならば、自分で攻めることも大切なの。たとえ、その行動でその人に恨まれたとしても…ね」


 アーシャ先生に最後に会った日、少し寂しそうな顔をしてそう呟いたのを聞いていてよかった。


 あの時はあまり理解できなかったし、なんて言ったら良いのかもわからなかった。だけど、今ならわかる。


 自分が攻めることで、相手からは手を出せないようにする。あとは相手が見えないところで守ればいい。


 隣でスヤスヤ寝ているお姉様を見る。私は結局ベッドでお姉様と一緒に寝ることになった。


 せっかくジャンにソファーを持って来てもらったのに、誰も使わないまま、本当に端っこに置かれるだけになってしまった。


「それで、お嬢。このソファーはあの男を欺くための飾りかい?」


「いいえ、そのソファーは私が寝る為よ。流石に地べたに寝ていては、お姉様の邪魔になるでしょう?それに目障りじゃない」


「「「はっ?」」」


「えっ?」


「アリシア様、今、あのソファーであなた様が寝るとおっしゃいましたか?」

 

「マリア?ええ、そう言ったわよ。だって、もともとお姉様の部屋なのだし、申し訳ないけど端っこの目に入らない所なら私が寝る所を作っても良いかなーって。ダメだった?」


「あたり前です。お嬢様を寝かせるのも論外ですが、あなた様が寝るのも論外に決まっているではありませんか!」


 論外って、どうしてダメなんだろう?あそこが一番迷惑ではない所だと思うのだけど……


「…アリシア、私のことを嫌いというわけではないのよね」


「お姉様?当たり前です。私がお姉様を嫌う理由がありません。逆に、私の方がお姉様に…」


「嫌われる?どうして?あなたは私を守ろうとしてくれた。あの時は気が付かなかったけれど、今ならわかるわ。この部屋に私がいれることも全部、あなたのおかげなのよ?」


「違います!この部屋はもともとお姉様の部屋なのです!そこに私が押し入っているだけです!」


「あなたは自分のことを責め過ぎなのよ。普通、九歳の女の子が他人のために、親に逆らって助けようとしないわ」


 それは…私たちがお姉様の家に押し入って、勝手をしているのだから、少しでも私が返さないと……


「あなたを見ていると、お母様を思い出すわ」


「そうですね。奥様と行動がそっくりです。特にお嬢様の守り方が」


「守り方?」


「あの男に何かされそうになった時には必ずお母様が守ってくれたわ。その分、辛いこともあったし、そのせいでお母様は…」


「……ごめんなさい」


「…もう。だから、全部あなたが謝ることじゃないって言ってるのに…だけど、そうね。なら罰として、これからは一緒にベッドで寝ましょうね」


「えっ、それは…」


「ダメ?それとも私のことは嫌い?悪役令嬢とは一緒に寝たくない?」


「そんなことはない…です」


「じゃあ決まりね!」


「はい……」


 お姉様、あの詰め寄り方はずるいと思います。誰があの聞かれ方で断れると言うのでしょうか?


 どうして…どうして、こんな私に優しくしてくれるのでしょうか…


 私はあの男の娘なのです。だから、もっと私を責めてくれればいいのに…そうしたら私は罪を償う気持ちでいっぱいになれたのに…


 私は、お姉様たちに何を返せるんですか?何をすれば一緒にいられるんでしょうか?


 私はただお姉様から奪っただけ…それを返せば一緒にいられるはずがない。なのに、こんなに優しくされたら、私は…もっと一緒にいたいと思ってしまうではないですか。

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