先生
「ねぇ、アーシャ先生。どうして、貴族の話し方を私に教えたの?」
「知識は無駄にならないわ。あなたが貴族と関わることはないと思っていても、未来がどんな風になるかわ誰にもわからないもの。だから今のうちになんでも身につけておいて欲しかったの」
「…ふーん、わかりました、アーシャ様。これからもよろしくお願いいたします。あってましたか?」
「ふふっ、あなたも私の娘と一緒で素直ね。それに言葉もあっているわ。もっと大きくなったら私の家に来て欲しいぐらいよ。あなたはとっても賢いもの。それに、娘とも仲良くやれそうだしね」
「?」
「なんでもないわ。もう少し大きくなったらね」
私が5歳になった時、母が病気になり父が母を連れて行ったことがあった。どこに行ったかはわからなかったが、私は一時的に孤児院に預けられることになった。だけど、捨てられたと言うわけではない。父に必ず迎えに来るからと強く言われた。おそらく無理に頼み込んだのだろう。孤児院の人たちも困った顔をしていたのを覚えている。
その時に会ったのがアーシャ先生だった。先生は貴族で、孤児院の子供達に勉強を教えるために来ていた。院長先生に私も参加するかと聞かれたが、最初は断っていた。
私は孤児院の子供達とは違い、両親に預けられている。この違いが孤児院の中で私を孤立させていた。だから、私は参加できないと思い込っていた。
「あなたはどうして参加しないの?私のことが嫌い?」
声をかけられるとは思っていなかった。先生にとって私はただの子供であり、勉強を教える必要はない。だから、声をかけられることはないと思っていた。
「…いいえ。私はここの子たちとは違うので。私には構わないでください」
「…そう。あなたは賢く、強く、優しいのね」
「どうしてそうなる……」
私の唇に、先生の指が当てられ、黙ってしまう。
「シー、少し向こうでお話しない?」
私はただ無言で頷き、先生と二人で話せる場所に移動した。
「ありがとう。それでさっきの話ね。あなたは別に孤立したくてしているわけではないのでしょう?それを自分の方が上と私に見せることで、ここの子達が悪いのではなく、自分が悪いと思わせようとした。違う?」
「…違います。私は事実を言っただけで…」
彼女の青い瞳が私をまっすぐ見つめる。母でさえも、私のことをこんなにまっすぐ見てくれた記憶がない。その真っ直ぐな目は、私の全てを見られているような感じがした。
「ほんとはいろんなことを聞きたかった…です。だけど、私はここの子じゃないから…」
「ここの子とかは関係ないわ。あなたが私の話を聞きたいと思ってくれているのなら、参加してみない?」
「…いいんですか?」
「ええ、もちろん!」
それからは、彼女、アーシャ先生に勉強以外にもいろんなことを教えてもらった。貴族の話し方も、先を見る考え方も。
母が帰ってきてからも、私はアーシャ先生に会いに孤児院に行った。アーシャ先生も私を受け入れてくれて、多くのことを教えてくれた。
「ねぇ、シア。あなたにはここのみんなが知らない、私の本当の名前を教えてあげる」
「本当の名前?アーシャ様が名前じゃないの?」
「ええ、アーシャはお忍びの名前。私の本当の名前はね、アリーシャと言うの。みんなには内緒ね。約束よ」
「はい!誰にも言いません。約束です!」
そんな生活がずっと続くと思っていたのに、一年前、急にアーシャ先生は孤児院に来なくなった。
院長先生に理由を聞いても教えてくれなかった。ただ、少し悲しそうな顔をするだけだった。
またアーシャ先生に会いたい。そして、お姉様のことを話したいな…
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