ベースボール・タクティクス

そこらへんの社会人

第1話 中波秀斗 中学3年 夏

 9回裏、2アウト満塁、3点ビハインド。


 球場の熱気は最大限に高まっていた。灼けるような熱が地面からも大空からも襲い掛かる。


 喉元に汗が垂れているのが分かった。


 俺はバットを握りしめて、マウンド上の投手に集中する。


 視界に収まるランナーや守備陣の動きを断絶して、奴の挙動にだけ神経を集中させる。


 2ストライク2ボール。決めるなら、もうここしかなかった。

 4番打者としての責務を果たさなければならない。


 得意玉のストレートが来ることを願った。

 快速の白球を狙い撃つしかない。俺の狙いは一本だった。


 投手がゆっくりと足を上げ、砂埃が舞うマウンドから勢いよく白球が放り込まれる。


 俺は足でタイミング合わせ、渾身の一振りの準備態勢に入る。中学3年間、チームメイトと紡いだ絆、そして時間。これまでの野球生活の全てを籠めて、俺はバットを振る。


「――ゲームセット!」


 主審の声が響き渡る。ヘルメットの中で、その声が反芻する。


 全身の脱力感。役目を終えたバットは力を失って、だたの重りに変っていた。


 歓喜に浸る敵チームメイトたち。項垂れる塁上の仲間たちにが随分遠く見えた。


 全国野球大会 中学の部 地方予選決勝


 6-3 俺たちは負けた。


 俺の中学最後の夏はあっけなく終わってしまったのだった。


 選手名録

 『中波秀斗 適正:二塁手

 打:A  パワー:B 走:D 守:D 肩:B 精神:F

 特性:精神的弱者』


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