第10話 作戦実行……
鋭い爪を
その勢いを利用した背負い投げで、那月は三メートルほど先にいあるビルに叩きつけた。
そのまま夜獣に向けスピールを構え、引き金を引いた。
どん、と威力が伝わる魔法音をさせ、重なり合う光の弾丸が漆黒のスーツを着た
胸部に十五センチほどの穴を空け、続けて三発、腹部に撃ちこんだ。
同様に穴が空き、それを埋めるべく夜獣の手足の先から存在力が流れていく。
流れていくが補填の量が足りず、計四つの穴に全身を吸い込まれていく形で、豹頭の夜獣は消滅した。
「よし!」
会心の戦い方に那月は思わずガッツポーズをした。
左側の髪にある凶悪な顔をしたウサギのアクセサリーも、那月の戦いを喜んでいるようにみえた。
──街の大通り。
すぐそばで行き交う人々もいるが、それに気づくことなく通り過ぎていく。
「ナイスファイト、那月」
「ガーッハハハ、手本のような背負い投げ、見事だわい」
「ふふ、ありがとう」
那月も笑顔で答えた。
「しかし、あれから五日ほど経ちますが、あのゾウ型、ドンが現れませんね」
すると
「夜獣はその時の世相にも影響を受ける。いつ、どんな夜獣が現れるか分からん。その都度、出てきたやつに対処するしかない」
「それはそうですが、あれだけインパクトを残しておきながら、なんかこう、
「大丈夫よセンセー。そのための準備はしているんだし、何より那月の作戦があるんだから──」
「ねー」
惣神を元気づけようとする
「どのみち、出たとこ勝負でッス」
「思いっきりやって、駄目だったら引けばいい。それでいて、損するところがねえんだから、何も問題ないわな」
「分かりました。目の前のことにベストを尽くしましょう」
気持ちを取り直して、惣神が微笑むように言った。
──噂をすれば影が差す。
那月の前方、百メートルほどのところに、巨体が音もなく姿を現した。
四メートルはある身長。
五トンと言われて納得する
それを
目つきも鋭く、二本足で立ちながら全身で威圧感を放っていた。
間違いなくゾウ型の夜獣。
通称・ドンであった。
人々はその存在すら気づくことなく、平然としている。
七柱の神と那月以外は。
「──那月」
銃神、呪神の声より早く、那月はスピールを取り出し、シリンダー内にある
左腰にあるポーチから、対ドン用に効果筒をセットしたスピードローダーを取り出して装填し直し、ドンに構えた。
「まずはみんなを守る」
那月が引き金を引くと、バシンッという音とともにドンの周囲五メートルに透明な球体結界が展開した。
那月の魔力で構築された結界は、原則、人とドンが接触しないためのもので、人が結界に触れれば転移し、そこに何もないかのように通り過ぎていく。
逆に、ドンが人と接触しようとしても結界が壁になって
被弾したことで那月に気づいたドン。
早くはないが、重量感たっぷりの黒い塊が追ってくるのは脅威である。
「いくよ……」
呟きながら那月は次弾に切りかえ、引き金を引いた。
魔法発動の圧力によってノズルジャンプをさせながら、
魔法たる光の弾丸はドンの左膝に命中。
パーンと、火花のような金の粒が派手に散り、効果の大きさを表した。
しかし、豹頭の夜獣と違い穴が空くことはなく、ドンも、何かしたのか? と言わんばかりに平気な顔をしている。
「固い! だったら……」
すると那月はジャケットの左ポケットに入っている、治療用と位置づけた中折れ式単発装填のスピールを取り出した。
左手に治療用スピール。右手に夜獣用のスピール。
二丁拳銃のスタイルだが、那月は一丁拳銃の両手持ち。
いわゆるカップ&ソーサーのようにして、二つのスピールを構えた。
より精度の高い魔法射撃と、二丁連続使用を考えたものでる。
そして那月は左手の引き金を引いた。
ノズルジャンプはなく、明るく弾ける心地よい銃声と同時に、桃色の光が同じくドンの膝に着弾。
その点を中心にガラス片を
すかさず右手の引き金を引く那月。
重光弾が再び左膝に着弾すると、歩行中のドンは体勢を崩し、左のめりになって倒れた。
ドズーンという重量感たっぷりの音と地響きをさせ、
那月はそのまま、左、右と引き金を引いた。
ドンの右肩から影が散り、桃色の光が広がって、重なる光の弾丸が穴を空け、立とうとする動きを阻害した。
「作戦成功だね、那月」
「うん」
銃神が効果を認めると、那月は真っ直ぐに見据えたまま
治療用のスピールから放たれた
それは人の心の負の気などで構成された夜獣にとって毒を受けた形となり、耐久力と回復力を著しく低下させた。
そこへ高威力の攻撃魔法である。
さすがにドンも、当たり前のダメージを受けることになったのだ。
こうなるとあとは単純。
ひたすら左、右、左、右と引き金を引くだけである。
ドンが起き上がらないように警戒しつつ、蜂の巣にしていく。
恐れていた長い鼻と、そこから放出する攻撃も、体勢上難しく、路面を這わせるのが精一杯だった。
「……」
一番安全な方法になったとはいえ、一方的で、那月は可哀そうな気がしてきた。
「相手に付き合う必要はないぞ、那月」
それを察して呪神が言った。
「ガーッハハハ、さよう。力自慢に力で対抗することはない」
「これは那月の作戦勝ちと考えるべきだ」
「怪我をしたら元も子もないでッス」
武神、銃神、宅神がそれに続いて言った。
「そうだね、ありがとう。ネーサン、シショウ、スピール。そしてタクロー」
那月は罪悪感のようなものから離れ、気を取り直して答えた。
「ねえ、もうちょっとじゃない?」
衣神が言うと、確かにドンの身体は残っている部分が透けて見えていた。
夜獣の存在力が失われている証拠である。
「うん。もう、そろそろ……、かな」
そう言って那月が右手の引き金を引くと、ドンは完全に消滅した。
同時にドンの周囲にあった球体結界も消え、那月はスピールの構えを解いた。
ウサギのアクセサリーの長い耳が揺れている。
まるで勝利を祝しているように。
そして、街ゆく人々は、いつものように何事もなかったように、那月の横を通り過ぎていく。
笑顔をみせながら。
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