聖女と悲運の少女〜何故魔王は生まれた生まれたのか〜

代永 並木

第1話

私達はボロボロの服を身に付けゴミを漁り時に人を襲い物を奪い金にして生きる

いつも通りの日常だ、人を襲い奪う事を批判するものは居るだろうがそうしなければかつての友のように物言わぬ骸となってしまう

それが人権すらも与えられていないような生き方をしている私たちの日常だ

私は元々貴族の家に居た、しかし私が生まれ持った黒髪赤目はこの世では魔王の化身、悪魔の使いなどと呼ばれ恐れ、不幸の象徴とされていた

何歳かなど忘れたがスラム街に捨てられた


『全てを疑い利用しろ』


たったその一言だけ教わった

言われた通り周りを疑い利用した、何年も続けていた、恨まれているだろう憎まれているだろう、しかし生きる為なのだ許せとは言わないだが必ず繰り返す何度でも

どのくらい時が経ったか分からないそんな時1人の少女と出会った

私は警戒して短剣を構えていたがその少女は物怖じせずに目の前まで来る


「スラム出身?」

「だったら?」

「特に無いよ」

「はぁ?」


その日、少女は身の上話をひたすらしていた

私は聞いてはいないがその場にいた

一時間ほど話したら帰っていった、敵意はなく単純に話し相手でも欲しかったのかもしれない

もう二度と来ないだろうと考えていたがその予想は次の日に外れた

また来たのだ、そして菓子を持ちまた話をしていた

菓子を食べながら話を聞く、匂いなどを確認してゆっくりと食べる

もしかしたら無臭無色の猛毒かも知れない、多少の毒耐性ならあるので警戒しながら食べる


「……それでねぇ、お父さんが塩と砂糖間違えてねぇ」

「へぇ」

「話聞いてる?」

「聞いていない」

「だよねぇ、まぁいいや……それでお母さんが砂糖の二倍くらいの塩を放り込んでねぇ」


塩、砂糖、食べ物だろうか? 食べれるのだろうか

話を聞きながらのんびりと考える

次の日も次の日も何度も来ては話をしている

ここはスラム街の中でもまだ安全地帯だ、私がスラム街では中々有名で私の縄張りに下手に入ろうとする奴はいない

とは言えど警戒心の欠片も無い平民がノコノコ来るような場所では無い


「よく襲われないものだな」

「うん? ここってスラム街だけど襲われないんだよねぇ、もしかして貴方の縄張りだったり?」

「正解」

「えっ、本当に?」

「本当、わざわざ私と殺し合う奴はいないが襲われない訳じゃない」

「へぇ、凄いんだね」

「私のは悪名だ、褒められるような事じゃねえ」


舌打ちをして周りを睨む

複数の影が姿を消す、手を出さないだけで彼女を標的にする奴は何人もいる

何故手を出さないのか全く分からない

身の上話と見た目からして貴族ではないと考えている、話が嘘なら分かるが嘘をついているようにも見えない


「お前ただの平民か?」

「貴族の見える?」

「見えん」

「だよねぇ、本当に平民だよ」


騙し合いも日常の一つだ、当然相手の嘘を見抜く術を持っているので分かるが彼女は嘘をついていない

ならなんで手を出さない? 無視している訳でも無いし

毎日来ているが一度として襲われていない、監視されているだけ


「また来たよ〜」

「飽きないな」

「飽きないよ」


ため息をつく

何日か経ったあと私は決意する


「何用だ? お前の目的はなんだ?」


睨み付ける

正体を調べるなんてしない、来るなら本人から聞いた方が早い


「目的? 友達になりたい」

「はぁ? 馬鹿言ってんな」

「なんで?」

「私は盗賊だ、殺して奪う」

「だからどうしたの?」

「はぁ?」


訳が分からない、私のやっていることは平民貴族に対する敵対行為


「お前自分が殺されると思わないのか?」

「思わない、貴方は私を殺さないし殺せない」


忍ばせておいたナイフを投げる


「なっ!? 光魔法」


ナイフが少女の目の前で弾かれる

ナイフが弾かれる瞬間に光が見え私は確信する

光魔法の障壁、魔力がある限り光が自動的に使い手の周りに障壁を張り攻撃を防ぐ

光魔法の使い手は貴重だ、稀に魔力が変異して生まれる存在


「だから襲われていないのか」


光魔法使いはたとえ平民であろうと国家が総力を挙げてでも守らねばならない程貴重

あの監視は盗賊ではなく護衛、標的にしていたやつは全員やられている


「その光魔法使い様が何故こんな場所に?」

「総員抜刀、シエラ様を守れ」


剣を抜き複数の騎士が彼女を守るように立つ


「盗賊と仲良くなんてしていいのか?」

「駄目なの?」


いや、駄目だろと内心では思うも声には出さない

騎士の数は五人、対面しただけで全員精鋭だと分かった


「シエラ様下がってください」

「いや、駄目ではないだろうなぁ? だが私とお前は相容れない」


私も魔法を発動させる

黒髪赤目と言うだけでも不幸の象徴だの言われているのにこの魔法まで手にしてしまった

影が棘の形になりシエラに襲い掛かる


「影!」


盾を持っていた一人が影を防ぐ


「ぐぅ」

「闇系統魔法に属する影魔法、それが私の魔法だ」

「それが?」


シエラは歩く

影による攻撃をものともせずに歩き私の目の前まで来る


「黒髪赤目、綺麗」


青い目が私を映す

金髪碧眼、まるで私とは対称的な髪色と目をしている、ハッキリと彼女の顔を見たのは初めてだ


「私は聖女の生まれ変わりなんて言われてるけどそんな大層な存在じゃない。貴方も魔王の生まれ変わりなんかじゃない、もう殺さないでいい奪わないでいい貴方に私が居場所を与える」


私の手を引く、引かれるがままに私はついて行く

数十分と歩き着いた場所は豪邸だった


「ここは?」

「私の家、貴方を使用人にする。礼儀作法はメイド長から教わって、ちゃんと給料も上げる」

「使用人? する訳ないだろ」

「私への攻撃は良くて死刑だよ〜」

「良くて!?」


護衛は全員付いてきているが一言も発さない

死にたくはないので使用人になった、メイド長から礼儀作法諸々を教わった

かなり厳しいが何事も出来なければ死ぬような世界で生きた私からすれば結構余裕だった

それでもほぼ完璧に覚えるのに数カ月かかり貴族に対しての行動にはそれから半年はかかった

どうも私の貴族嫌いは治らないらしい

黒髪赤目を見ると露骨に反応し陰口などよく叩かれたがシエラが威嚇していた


「シエラ様第一王子ルアレス様が来ております」

「分かった、それじゃ行こう」


私は斜め後ろを歩く

王子は対面してすぐに私に気付き不機嫌そうな顔をする


「ルアレス様お久しぶりです」

「あぁ、久しぶりだな……そいつはなんだ?」

「私専属のメイドです」

「聖女が魔王の化身をか?」

「ここに聖女も魔王の化身もおりませんよ」


シエラが苛立っている

王子は気付いていない


「ご謙遜を……お前下がれ」


私に向かって言うが


「私は下がるべきでしょうか? シエラ様」


私はシエラに指示を仰ぐ


「いいえ」

「私の主はシエラ様ですので例え王子であったとしても指示に従いかねます」

「ふざけるなメイド風情が逆らうか」

「私のメイドです、貴方のでは無い」

「平民風情が! 聖女になったからと言って王子たる俺の命に背くか」


王子の護衛の騎士が剣を抜き構える


「例え聖女であったとしても貴様の行動不敬と知れ。二人を捕まえろ」


護衛の騎士達の首元にナイフが突き刺さる

私が投げたのだ、剣を抜いた瞬間に


「王子自ら蛮行を働くか愚か者めが」


私は隠し持っていたナイフを取り出して王子を磔にする


「無礼者が!!」

「私は平民ですが貴方の命と私の命どちらの方が価値があると思っておりますか?」

「当然俺だ」

「確かにこの国ではそうですが他の国からすれば私の方が価値が高い」


例え元が平民であったとしても聖女の重要性は相当だ、魔王の生み出した魔物に対する最終兵器ともされている

魔王が生まれた際に勇者と並ぶ最重要人物でもある


「どうします?」

「解放して、王子を殺すのは駄目」

「はい」


糸を引きナイフを回収する


「覚えていやがれ」


王子は捨て台詞を吐いて立ち去る

あれは危険、始末……いや、無理か。あのままじゃ報復に来る


「どうします?」

「どうも出来ないから放置、念の為準備はしておいて」

「はい」


報復に来たら最大の準備で迎え撃つ、流石に王子がそんな馬鹿なことする訳ないか?

私は準備を始める


この出来事が世界的大事件を巻き起こすとは今は誰も知らない

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