第34話:ルイスの浮気1
グレースの臨時講師に同行したその日の夜、王城に帰ってきた私は、手紙や書類を各部署へ配達していた。
預かってきた学園長の手紙もそうだが、それとは別に、各地の貴族や関係者から多くの手紙が届くのだ。
業務連絡だったり、大事な書類だったり、家族や恋人との手紙だったり。読まれたくないものや緊急性の高いもの以外は、こうしてメイドが配達することになっている。
今は新人メイドの教育の一環として、私に押し付けられているが。
メイドは来賓の方を案内する機会があるので、城内の地理を把握しなければならない。そのため、手紙の配達で学ばせることが目的だった。
当然、レオン殿下の元婚約者だった私は完璧に把握しているが、例外はない。周囲から怪しまれないように、文句を言わずに引き受けている。
ちょうど今は、騎士団に手紙を届けようとして、騎士団長の部屋を訪ねていた。
「こちらが第一騎士団に届いた手紙と書類になります」
「うむ、ご苦労だったな」
「失礼します」
これだけのことなので、完全に雑用だ。でも、今はとてもありがたい仕事だと思う。
浮気したルイスの事情が知りたいと思っていても、本人と連絡が取れなければ意味がない。ウォルトン派の人間が目を光らせる城内で不審な動きはできないし、目立つ行動は避けるべきだ。
でも、手紙の配達なら自然に接触することができる。真面目なルイスなら、道中の訓練場で汗を流しているはずなので……うん、やっぱりいた。
時間も遅く、すでに訓練場には人が少ない。絶好の接触機会だといえる。
他の騎士の訓練に邪魔にならないように近づくと、私に気づいたルイスと目があった。
「ルイス様に手紙をお持ちしました」
原則として、騎士団員への手紙はすべて騎士団長を経由して配られるが、忙しい騎士団長の仕事を減らすために、メイドが手渡しすることを許可されている。
騎士の中に婚約者がいる者もいるし、こういったところでラブレターを渡して結婚する人もいるので、意外に侮れない。
特に、今ルイスに渡したような宛先も差出人も書かれていないものは、メイドからのラブレターというケースが多い。便箋にはプロフィールと愛の言葉が綴られた手紙が入っていて、社内恋愛を楽しむ人がいるとかいないとか……。
今回に関しては、ラブレターではないが。
「受け取ってもらっても大丈夫ですか?」
「あぁー……、受け取ろう。誰からの手紙なのか、身に覚えがある」
恥ずかしそうに受け取るルイスは、本当にソフィアのことが好きで仕方ないんだろう。
ピンク色の花柄の封筒と便箋はソフィアのものであり、小さい頃から同じものばかり愛用していた。
久しぶりにソフィアの愛用していた封筒を見た影響か、ルイスの口元が大きく緩んでいる。
「嬉しそうな顔を見る限り、ソフィアさんとは仲良くなれそうですか?」
しかし、自分の感情が表情に出ていると思っていなかったでだろうルイスは、手で口元を隠す。
「気にしないでくれ。君は……シャルさんだったか。元々ソフィアとは仲が良いのか?」
仲が良い……ということにしてもいいが、周りにも騎士がいるため、曖昧な形を取ることにする。
「教育係についてくださっていますし、メイド寮も同じ部屋ですから、よくお話しますね。ルイス様の話題が多いと思いますよ」
「すまないな。愚痴ばかり聞かせてしまって」
「いえ、好意的な話が多いです。ルイス様が思われているような話は出てきません」
お酒が入ると、ルイスが浮気した時の話ばかりになるけれど。今は二人の仲を近づけたいし、両想いである自覚を持ってもらうために売り込みたいと思っている。
でも、私も仕事中にベラベラと話し続けるわけにはいかない。それに……。
「残念ながら、手紙はそういった話の内容になっていますが」
ルイスには申し訳ないが、手紙の差出人はソフィアではなく、封筒と便箋を借りた私だ。
浮気の話を聞き出すのは、私の仕事なのだから。
「……早めに読んだ方が良さそうか?」
「今日中に一人で読まれることをオススメします。それでは、失礼しますね」
嫌な顔をするルイスに背を向け、私は訓練場を後にした。
レオン殿下の手がかりにも繋がる可能性がある以上、どうしても詳しく聞いておきたい。二人の問題に突っ込むのだから、悪いようにしないと誓おう。
単純に欲望に走っただけの浮気だったとしら、親友を傷つけた罪を許すつもりはないけれど。
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