さすらいの観音様

岩田へいきち

さすらいの観音様

昔、昔と言ってもほんの45年前のことです。

その日は、いつもより海の潮が速い日でした。


中学生のりょうじと小学生のこうじは、観音堂へと続く海沿いの畑で遊んでおりました。


 すると30センチくらいの木片がプカプカと路の横の石垣に流れ着きました。

二人は、なんだろうと言いつつ、力を合わせてなんとか引き上げました。


 それは、誰かが彫ったのか、とても下手くそな観音様みたいな形をした木像でした。しかし、波でもまれて、ところどころ剥げてはいましたが、ちゃんと色も青や赤に塗ってあり、こうじは、お坊さんがつくったか、はたまた彫刻好きのどこかのお兄さんがつくったのかと想像しました。


 二人は、一旦、その木像を路端の草むらの中に置いてまた遊びはじめ、そのうち、木像のことは、すっかり忘れて家へ帰ってしまいました。


 それから1年ぐらいたったでしようか、こうじは、観音堂にお参りに行ってとても驚きました。


 観音堂には、大きな本堂と小さなお堂があります。大きな本堂の中には、たくさんの観音様がいらっしゃいますが、小さなお堂には、新設された観音様が三体ほど置いてあり、吹き曝しです。


 ところが、あの下手くそな彫刻の観音様みたいな木像までが、その小さなお堂の一番端に置いてあったのです。

こうじは、誰かのいたずらかなと思いましたが、その時はそのままにしておきました。


 それからまた半年後ぐらい、こうじは、また観音堂へお参りに行って驚きました。


下手くそな彫刻の観音様みたいな木像に他の観音様と同じように赤い前かけがしてあったのです。木像の前にもお供え物が置かれていました。


 なんと、あの下手くそな彫刻の木像は、本当に観音様になってしまわれたのでした。


それからまた15年、りょうじとこうじが、下手くそな彫刻の木像を海から引き上げてから20年くらいは経ったでしょうか、こうじは、観音堂にお参りして、またまた驚きました。


 小さなお堂の中にあの下手くそな彫刻の木像の観音様がいなくなっておられました。


 どこへ行かれたかと捜したら、なんと大きな本堂の中の位の高そうな観音様たちと一緒に並んでおられたのです。



 それからまた20年、りょうじとこうじが下手くそな彫刻の木像を海から引き上げてから約40年、こうじは、お参りに行ってまたまた、また驚きました。


 その下手くそな木像の観音様が確かに赤ん坊を抱きかかえておられていたのです。



そう、あのどこか知らない海の向こうからやって来た下手くそな彫刻の木像の観音様は、マリア観音様になられていたのでした。


この先この下手くそな彫刻の木像の観音様は、いったいどこへ行かれるのでしようか・・・・・・?


 これは、現在も進行中の話で、今も海に面した観音堂にいらっしゃいます。


こうじは、言います。


『あやかりたかったら早くお参りにおいで、またどこかへ行ってしまわれる前に』


と。


終わり

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さすらいの観音様 岩田へいきち @iwatahei

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