ある日生徒会長がお嫁さんになって
ころんコロン
第1話 ある日生徒会長がお嫁さんになって
みんなは今、『結婚したいくらいに好きな人』はいるだろうか。
いや、『したいけどできない』という未成年の人たちの方が多いかもしれない。
でも、もし未成年でも結婚できるとしたら?
それほどに幸せなことは無いのではないだろうか。
この小説はそんな『もしも』の世界でひたすらにイチャイチャする中学生夫婦の物語。
ーーーーー
未婚。
当たり前だ。
中学生で結婚などできるはずはない。
でも、『結婚したいくらいに好き』そんな人がいるのは異常とは言えないのではないだろうか。
僕にそんな人がいるか、もちろんいる。
「ユメ、何をしている。廊下の途中で立ち止まるな」
「す、すみません、ミカサ先輩」
まさにこの人、この学校の生徒会長だ。
生徒会長という役柄のため、少し怖いというイメージを持つ生徒もいるが、そんな彼女の本性を僕は知っている。
あれは去年の冬。
何かつらい事があったのだろう、彼女は滅多に人の通らない北校舎の廊下で、泣いていた。
たまたま見つけてしまった僕が声をかけると、状況を理解していないのか僕の胸に泣きじゃくりながら抱き着いてきた。
相当だったのだろう。
そのときに放った言葉。その言葉に僕は心を持っていかれた。
「ああ、君みたいな人がずっとそばにいてくれたらいいのに……」
恐らくは見ず知らずであろう僕の胸に飛び込んできて号泣するなんて。
きつい性格。
生徒たちからはそのような目で見られることが過半数だが、本当は違う。
さびしがりやなのだ。
この、生徒会長は。
「とにかくどいてくれないか」
「あ、すみません」
そう言って腕に大量のプリントを乗せた生徒会長が僕の横を通る。
ほのかに、いい香りがした。
容姿端麗、眉目集英、明眸皓歯。
髪はショート、結んではいない。
少し小柄な体格、僕より少し低いくらいだろうか。
それでも一個上の先輩。
僕は彼女に、恋をしている。
そんなことを考えている最中、彼女は廊下の奥の方で振り返り、少しあざ笑うようにこう言い放った。
「そうだユメ、放課後でいい、あとで生徒会室に来てくれないか。二人きりでな」
一瞬であらゆることを想像してしまった。
もしかして告白か。そんなことも思ったが、そうではなさそうだ。
それよりもっと深刻な、深い理由で呼ばれたような気がする。
そう言うと彼女はもとの方向を向き、返事を待たずに行ってしまった。
問答無用で来い。ということなのだろう。
ーーーーー
そして、放課後。
恐らくは何か仕事を任せるために呼ばれたのだろう。
これでも僕は学年一位、生徒会でも結構上の地位を獲得しているのだ。
少し肩を落とし、これから降りかかるであろう重荷に溜息をつきながら生徒会室前の廊下を進む。
なぜか、自分の心臓が大きく動いていることに気づいた。
しかし歩みをやめる気はない。
何せ、あのミカサ先輩と二人きりの空間に行けるのだ。
こんな千載一遇のチャンス逃すわけにはいかない。
部活も今日は無いためそこまで急ぐ必要は無いのだが。
心臓の鼓動を速めたまま生徒会室の少し古い木の扉をスライドする。
「し、失礼します」
一つの机だけがある部屋の奥、窓際にミカサ先輩は立っていた。
「よく来てくれた。まあそこに座ってくれ」
そう言って机のドア側に置いてある椅子を勧める。
何か仕事を手伝わされることを覚悟していたが、生徒会室に書類の類は見当たらず、とても整理されている。
もっと別の理由で呼び出されたらしい。
兎に角、僕は机のそばまで歩みを寄せる。
何か悪いことをしただろうか。
それとも気に障ることをしてしまっただろうか。
もしかしたら去年の冬の出来事を気にしてるのかも。
そんなことが頭の中をぐるぐる回り、僕を不安にさせた。
そのまま椅子に腰かけたところで、向かい側にミカサ先輩が座った。
そしていつにも増して真剣な表情でその美しいピンク色の唇を開く。
「協力してほしいことがある」
そう言ってポケットに手を突っ込んだ。
何を取り出すのだろう。
しかも協力するくらいなら僕ではなくとも務まると思うが。
「これなんだが……」
そう言って先輩が取り出したのは一枚の紙切れ。
何重にも折り曲げられてポケットに入っていたのか四角形のシワが規則的についている。
そして、机の上に置かれた紙に書いてある文字を見て僕は飛び上がった。
〈未成年婚姻届〉
一番上にこう文字が書いてあり、僕の理性を吹っ飛ばすにはあまりにオーバーキルな単語。
『結婚したいほど好きな相手』から『婚姻届』を差し出されたのだ。
「え、これって」
言葉が出なかった。
「想像してもらってる通りの解釈で恐らくあっている。つまり、……そういうことだ」
珍しく弱気な先輩。
しかし、そこを気にしているほど心の余裕はない。
もう一度紙を見返すと既に『妻になる人』の欄には『
もうあとは『夫になる人』のところに僕の名前を書くだけだった。
たったそれだけでミカサ先輩と夫婦になれる状況に僕は置かれていたのだ。
しかし、ここで一つの疑問が生じる。
日本で未成年の結婚は認められていただろうか、と。
「まずは説明させてくれ。私の父が政治家だということは知っているだろう? それで今度の政策で未成年の結婚を少子高齢化の観点から許可することにするんだ。でも成功例や具体例がないと説得力がない。だから、その……試験的に、やってくれないかと父から頼まれたんだ」
なるほど、大体状況は理解した。
遠まわしにかみ砕いて言うと、これはつまり、『ミカサ先輩にプロポーズされた』という解釈であっているだろう。
「それで、こんなことに付き合わせてすまないと思っているが、お願いだ。こんなのでよければ私と結婚……してくれないか」
少し頬を赤らめた顔で視線を右下に少し落としながらそう言う。
膝の上でぎゅっとスカートを握っている手は、恥ずかしさと不安を表しているのだろう。
目には少し涙も浮かんでいる。
どこか不安めいた声でそう言われ、断る理由は全くといって無かった。
僕は人生で初めて、14歳という若さでプロポーズをされた。
これは夢だろうか。
夕日が西向きの窓から生徒会室に差し込む。
それがまるで後光のようで、より一層先輩がかわいく見えた。
なぜ先輩が僕を選んだのかは分からない。
しかしもうすでに考える力はない。ただこう答える以外にないだろう。
いや、これ以上の回答は思いつかない。
だまされてもいい。
最善の回答。
「はいっ、よろこんで!」
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