第11話

「予想以上に手練れだ。どうぞ」




 三船の感心する声がトランシーバーから聞こえた。他に聞こえるものは、女性のものだろうか。噂にきいてたより強すぎませんかといった困惑の声だった。聞いたことがない声のため神服の金髪少女だろう。幼すぎる声だ。








「結構いいでしょ、他にもっと増やすつもりなんだ。どうぞ」






 僕の言葉をもって、向こうから聞こえるの失笑だった。商人かもしれないし、冒険者かもしれない。ただ三船だけは息をのんだ。




 相手側の言い分もわかる。




 無理だと見下す声がトランシーバーから聞こえた。商人のか細い声だ。




 あれほど戦える人材がいくつもいるわけがない。怪人の強さは肉体も体力もそう、人間とはケタが違う。高ランク冒険者ですら、低ランク怪人と一時戦えるだけだ。持久戦になれば勝ち目はない。




 人間タイプの怪人は、上級冒険者以上の実力があることの証明。そんなのがそう簡単に転がっていたら都会の立場がない。






「いないなら作ればいいのさ、簡単なことだよ。どうぞ」




 自身気な僕の態度を、相手側はどう思うのかな。




 僕は本気で作る気だ。怪人40体構築計画。Dランクの怪人を40体にし、周囲の勢力全部を圧倒する。そのうえで別の要素を組み超えて、八千代町を完全に安定化させる。




 商人の失笑がノイズ交じりで届いてる。




 だけども会話相手の三船は気にした様子はなさそうかな。




「才能がある人間ばっかりじゃない。どうぞ」




 三船がいう。現実を知るが故の言葉かもしれない。だけど僕は気にしなかった。三船の考えているのは、教育して強いものを作り上げることだろう。僕は文字通り新規で作成する。その認識の差が僕たちの差だ。




「才能なんかいらないよ。僕が作ると言ったらできるんだ。どうぞ」




 蛆虫魔獣君も成虫化してくれればだ。どんどん蛆虫君を生産し、野良怪人を食わせていく。こうして育ったものを野に放つ。人間を襲わず、僕の怪人には服従し、命令も更新できる知能だけを持ち合わせた魔獣。低コストだし、餌は勝手にくるし、こなければ下妻以外にいって確保するから問題ない。




 世話をするのは勿論Dランク怪人です。僕はしない。自慢じゃないが僕は家事もしない。料理も洗濯も洗車も全部怪人任せ。僕の食事を作るのは凶悪面の怪人だし、洗濯も同じ。洗車をするのは令嬢怪人がなぜかやってるけど。僕の部屋の掃除は何か怪人が交互にやってる。




 たまに院長がやることもある。




 僕がやるのは怪人退治と製作および町の安定化。あとは鵺とのおり合わせ、周辺勢力への牽制とかかな。










「うまくいくものか」




 三船の納得できない感情があった。だから僕は失笑をくれてやり、通信を一方的に切った。








 僕と馬車の一行は進んでいく。時折休憩をいれられ、自分のペースを乱しながらだ。柏市にたどり着き、流山のほうへ。流山からは松戸へと一行は進んでいった。松戸市の崩壊後に新造された駅があった。かつてはマンションやビルが立ち並んだところが今では更地。




 そこは今では駐車場のため、僕は車を置いた。魔獣騎兵たちはいったん返すことにした。ただ全員返すわけじゃなく、一体を残して怪人のみつれていく。残り一体が魔獣たちを八千代町へ帰ることにした。その指示を出されたとき、怪人が切なそうな顔をしていた。仲間たちの顔を見渡し、じゃんけんをしていた。最後に負けたほうが悔しそうな表情を浮かべていたので、多少慈悲を加えた。一緒に遊ぶ約束だけをすれば、快く引き受けてくれた。




 僕の背を見つめる魔獣と一体。他は全員つれていく。馬車のやつらはそのまま道路でまっていた。新造の駅は、馬車まで通れるようになっていた。歩行者は右のガードレールの内側、外側が馬車だ。また中心にある花壇の列の向こう側が対向車線だった。




 やがてホームにたどり着く。冒険者たちが乗った馬車はそのまま先行していった。




 ホームに待っても電車はこない。新造の駅に線路はない。やがて馬車がいくつもくる。色々な民間企業の馬車が同方向からくる。向かい側のホームは別の目的地のほう。僕たちは東京方面へいくほう。




 特定の企業が交通を管理するのでなく、複数の企業が出資した会社が運営をしている。




 通常であれば国交省あたりが管理すべきなのだろう。鉄道会社が交通を我儘利かすのは独占だといった批判があいつぎ、受け入れたようだ。




 また自前の馬車もそのまま通っていい。駅の入り口から直接乗り込める専用通行帯だ。




 最終目的地の看板が馬車の前方上部、後方上部に取り付けられている。それをみて、判断するのだ。長いホームには見えるだけ7つ乗り口がある。そこで待っていれば特急馬車、通常馬車といったものが流れてくる。7つとも同じ方向へいくけれども、目的地が違うので並び間違えると酷い目にあう。






 大型の馬車がきた。馬のようなものが4頭引いていた。見た目は馬だけど、魔獣と交尾してできた生物のため馬でいいのかわからない。






 僕たちが並ぶ入り口で止まる。東京行の看板がついている馬車。




 駅員の恰好をした男が御者だった。




 御者が僕のほうへむき、口を開いた。






「何名様でしょうか?」




「10名」




 答えた後財布を取りだした。御者が電卓を取り出し、計算をしている。凶悪面の怪人、令嬢の怪人、院長、Dランク怪人6体、最後に僕。






「行く先は東京で?」




「はい。それでおねがいします」




 そうして御者が計算をおえ、電卓の数字を見せてきた。




「一人3800円、10名の合計で38000円となります。おつりがある場合は手数料として240円いただきますのでご注意を」




 新自由主義の進んだ現代。東京へ行くまでの道ですら民営化される。鉄道会社にされてなお、細分化されてしまった。




 おつりだってただじゃない。札を使ってくる客へのおつりのために、小銭を確保しないといけない。客の札を銀行で小銭にかえて予備とする。その発行手数料は非常に高い。1万円を100円や500円に崩す際の手数料は1000円。1000円に崩す際は500円。1000円を100円に崩せば100円の手数料。最低手数料が50円から連なる素敵な社会。




 僕は財布から指定された金額を出し、御者に渡した。






「どうもありがとうございます。お乗りください」




 御者が受け取った金額を後ろの箱にしまいながら言う。僕たちは戸を開け、中へ入っていった。




 御者台に背を向ける形の座席と向かい側の座席。それぞれ5人ずつ座れるスペース。席の中央には開けた空間があるため足を延ばせる。両脇、戸側と向かい側には窓があるため外の景色が見れた。




 凶悪面の怪人と院長が僕の両隣に座り、その奥に令嬢の怪人とDランク怪人1体。御者台側の席にはDランク怪人が5人座る。赤メッシュが入った前髪の子が院長に手をふり、院長も手を振り返してる。






「あとで金を請求してやる」




 僕は決意し、馬車が動き出すのを感じた。






 がたがたと進む感触の悪さ。前時代の馬車よりも進んだ技術があるため、振動は少ない。下手な乗り物よりは心地はよいだろう。ただこう、エンジンやらハイブリットの音がないと僕は満足できないのだ。この時代に車を愛好するのは悪いことかもしれない。でも車好きに朗報だ。




 車は安い。




 中古車限定だけども安い。




 売れないし、魔獣が来るから誰も乗らない。持ってるだけで維持コストがある。自由主義社会において車という税金の塊は好まれないのだ。持っても税金、乗っても税金、飾るだけなら場所代がある。




 だから安い。作ってるのも愛好家のみだ。愛好家が作った車は非常にお値段がはるけど、その分税金は安い。新規の車の優遇はいつだってそうだ。




 車を10年以上所有すると税金が10パーセント増えて、13年以上乗ると20パーセント増える。




 新自由主義の庶民搾取最高。くたばれ。




 僕は崩壊前に作られた車で状態の良いやつを適当にかって、八千代町に持ってきている。




 壊れた時はパンプキンの技術者を派遣してもらってる。整備士の価値は馬車時代において高い。馬車の技術には車の技術も使われ、部品も似たようなものが多い。また馬車は金持ちしかのらないし、整備士の学校自体数少ない。その知識は貴重だった。




 むろん費用が高いけど。金じゃないからとくに面倒だ。




 足元見られたときは、ロッテンダストになって坂東市周りを飛べば大体安くなる。






「車好きもここまでいくと病気な気がする」




 院長が僕の表情をみて、言った。




「車の便利さは院長も運転してるからわかるじゃん」






 世の中の労働者は年齢が低くなっている。現在17歳が大人の証で、14歳には免許が取れる。自動車学校なんてものはとっくになくなっているから、お金だけ払って買うものになっている。多少は練習できる環境を教えてくれる。かつての丁寧かつうるさい指導なんてないのだ。




 院長の免許も買った。練習は多少して、実践のみ。怪人を助手席と後部座席に乗せて、院長に運転させる。危険そうだったら風の魔法で制御する練習法。このおかげで院長は運転が上手だ。




 また院長は車で出かける際に必ず怪人を連れていく。八千代町あたりでは安定化させているとはいえ、新規の魔獣など怪人も他からやってくるからだ。雑魚であれば防衛構築網あたりで駆逐されるが、それより上回る場合のためだ。






「子供たちを遊びに行かせるのも車があるとないじゃ全然違う」




 院長は渋々とした表情を浮かべており、僕は好きだから乗っている。必要か好きかの違いでしかない。僕はガソリンもハイブリットも電気自動車も全部好きだ。崩壊後のほうが車が安くなったのはありがたきことだ。






 僕と院長が車について語っていった。道具としてしか見ない院長と車が好きな僕との意見は決してわかることはない。ただ令嬢の怪人あたりが車は格好いいといったので、褒めた。凶悪面の怪人は、車より魔獣でいいとぬかし、院長もその意見に同調していた。魔獣に乗ったことなくても、生きてる命のほうに乗れるならそれのほうがいいらしい。








 そうやって語っていくうちに東京へついた。








 崩壊後に新造された地方と東京へつなぐ駅。東京側の新造された駅のホームについた。僕たちは馬車から降りて、体をほぐす。






「またのご利用をおまちしております」




 御者の言葉を受けながら、出入り口のほうへ向かっていった。東京の馬車駅は非常に混雑していた。過密な人口。駅からのぞける外にはビルが立ち並ぶ都会の姿だ。がやがやと人の声が届き、笑い声であったり、楽し気な声であったり、苦しみの声であったり、泣き声であったりと幾つもの感情が目の前に広がっていた。






 その人ごみの中を僕は進む。院長たちは令嬢の怪人が手をつなぎ、周囲をDランク怪人が護衛していて、人込みに流されることもない。僕の隣にいるのは凶悪面の怪人だ。






 凶悪面であり、実力もあるため存在感がすごい。






 この怪人を人々は避けていく。




 問題ごとになれば自己責任。けがをすれば自己責任。被害にあっても、かけても全部自己責任だ。一瞥し、人々は去っていく。逆に院長や令嬢がわになると懸想を考える者たちが近づいていた。ただ殺気などをDランク怪人が飛ばせば、慌てて去っていく。






「うん、新自由主義くさい」






 駅のホームに掲げられた広告。




 新時代を生きる若者へ、能力あるものの収入アップ!自分たちで生き抜く時代、行政に頼らず、企業に頼らず、一人の責任で生きていく時代。そんな時代に必要なスキルを学べます!魔法もok,スキルもok学ぼう、通用する技術を!!




 月8万円からの学習塾の広告だ。




 あるところには政治家団体の広告だ。




 やり直しのきく政治を。現役世代のための政治。自由を拡大!国の借金を減らし、プライマリーバランスを黒字へ!




 デフレからインフレへ持っていく。




 国家の借金返済が厳しいため増税を達成します。社会福祉回復のための増税を!






「これはひどいね」




 思わず苦笑した。






 新自由主義の進んだ東京は非常に面白かった。広告ひとつとっても笑いどころだ。




 プライマリーバランスを黒字にして、どうやってインフレになるのか疑問。だけど騙されるやつは騙される。国民への金は配らないが、企業には金を配る優しい一都三県同盟だ。インフレにしたければ円を発行して、国民に直接払えば簡単になるのだけども。ただ、それをすると市場に金が流れて物価が上昇して、国民の負担が上がると批判が上がるかな。




 市場に流れる金が多ければ多いほど、金持ちさまの資産がインフレで、実質価値が下がるから嫌なんだろうなぁ。






 まあ円の大量発行は崩壊前からしてる。国債発行という名前で出してる。だけど庶民に金が回らず、企業から企業へ流れてしまっている。また発行した分のインフレ調整のためなのか消費税を上げたりしてる。




 建前は所得税を上げると金持ちは逃げる。資産に対しての課税は企業が海外に逃げるだったっけ。




 消費税なら金持ちから金もとれるとかをいってたな。




 ほとんどの企業がこの国から利益を得てるのに、なぜ海外に逃げるのか説明してほしいね。






 庶民の給料が変わらず、税金は増える。企業に流れた国債のおかげで多少通貨も動くけど、結局企業は貯めるだけだから、いつまでたっても金は市場に降りてこない。市場に降りてこないから庶民の給料も増えない。結果総貧乏の時代だった気がする。






 今の東京は本当に能力のあるものは幸せだろう。年収1億とか稼げるひとならばだ。年収1000万円で新自由主義を訴えた人はどうなったんだろう。僕はそう思わずにいられなかった。






 きっと最悪の地獄を迎えてるんだろうなぁ。だって更に搾取が進んでいるはずだ。






 そう考えてるうちに外へ出ていた。駅から出ればビルに張られた巨大なモニターにニュースが移っていた。






 スーツを着た60代の男がうつっていた。白髪であり、白髭を生やした男だ。目元はしわがあるものの優しい目つきをしていた。柔らかい笑みを浮かべた男がいくつものマイクに囲まれていた。




 左上に書かれた文字。




 経済連合会長、国須隆清という名前だ。






 微笑みながら語る国須は、次のようにかたった。






「皆様の収入アップ、負担軽減のために必要なのは護衛費の削減です。強い人のもつ実力、スキルの値段を資格制度として設けていく。そうすることで過剰な釣りあがった値段を抑えていただきたいと願っております。そうすることでお金が浮き、市場により活性化が考えられると思います。それに強い方たちの力は本人だけの努力でなく、皆の力で作った環境によるものでしょう」




 ぱしゃぱしゃとカメラにたかれていた。






「強いひとたちが弱者を守らずして、何が社会なのか。それを強く訴えるため今回私は、一都三県同盟の同盟安全協会に顔を出させていただきました。また魔法省にもこれから提言するつもりです。ヒーロー連合にも同じことを訴えます」




「強い人たちが納得するでしょうか?」






 レポーターが一人質問を投げかけた。




「それは話し合い次第かと思います。ですが必要なことだと経済界は考えております。魔獣や怪人、魔物の被害が頻発しており、警察がいない今こそ、強い人たちの協力が必要なのです。そのためには強い人の資格を制度化し、武力の価値を今一度真価を問うべきではございませんか?」




 映像の国須はフラッシュにたかれながらも笑っていた。






「経済会の願いは変わりません。強い冒険者の皆さま、魔法少女の皆さま、ヒーローの皆さまの資格制度を一都三県同盟で一刻も早くしていただきたい。また制度化した場合は我々経済会も協力を惜しみません。取得費用においては期間限定ではありますが、全額とはいいませんが一部補助金を出します」






 その映像を見ていた院長が僕の顔を見ていた。






「強い人たちの強さはみんなのおかげ、本人だけの力じゃない。その強さを安売りしろってことなの?あたし見てるだけだと結構自分勝手に聞こえますが、どうなの?経済界は武力の費用が高いから安くしてほしい。固定化してほしい。値上がりばっかりされると利益が出ないし、搾取ができないってこと?」




 自己責任を押し付けるくせに、その責任分の利益は取らせないのかという疑問だろうなぁ。






「資格制度にすることで、一都三県のコントロールが効くようにもしたいってことでもあるね」






「そうなるとどうなるの?」




 院長が首を傾げた。






「一都三県同盟が気にしているのは支援者だけだよ。支援者は資本家や企業などの金持ちがあてはまって、主権者である国民のことは含めないんだ。ようはお金持ちのために政治をしたい。お金持ちのための政策をするには、庶民を搾取するのが一番。主権者を苦しめて、支援者を援護することが一番偉いことになるんだ。強い人たちは強いだけで、支援者かな?」




 僕が補足をすれば院長は納得した表情を浮かべた。






「そっか、資格制度って建前でコントロール化に成功すれば、強い人たちは値段が吊り上げられないんだ。資格の中に価格の固定化を盛り込めばいいんだもんね。違反者は資格のはく奪、収益のはく奪ってことにすればいいもんね。資格がなくなれば仕事を禁止にする制度も出せば完璧だ!!」




 新自由主義者はその身を守る盾すら搾取する。労働者を搾取し、給料を削減していく。老後は自分たちの資産で何とかすべきという自己責任を掲げてだ。






 また自分たちにとって都合の悪い部分は、お願いと称してルールを作る。




 搾取をするためのルール。




 新自由主義とはつまり、金持ちが金持ちに居続けるための特権構造の構築なのだ。




 新しい企業を作る若者がいれば、買収したり、資金を出して援助することで口をはさめばいい。そうすれば利益だけが吊り上がっていく。失敗すれば借金返済という形で甚振ればいい。成功すればそのままでいい。




 もし資金援助も買収も拒否すれば、同業者や周りを抱き込んで廃業へ追い込むだけ。




 お金持ちに居続けるためには新勢力には出てきてもらっては困るからだ。






 映像の中でレポーターが再び口を開いた。






「強い人たちが納得するでしょうか?」






「国家全体の危機です。経済の危機、国民の皆様の危機です。その協力なくして、皆様の所得は上がりません。企業も投資家も一都三県同盟ですら大きな不利益です。どうか今一度よく考えて、協力をお願いしたいと考えております」






 そして映像が切り替わっていく。






「えぐいなぁ」




 思わずこぼしてしまった。




 協力という建前。自己責任を押し付けるくせに、協力という言葉をつける。自分たち以外の利益を下げ、その分の利益を増やしたい。




 そのくせ新自由主義者はこういうのだ。




 自分の利益は自分が頑張ったから。他人に渡す気はない。他人の努力は自分たちに都合よくつかわせろ。しかも先ほどの会話の中で庶民の所得を上げるなんて一言もいっていない。だけども庶民の声は借りたい。




 強い人に自己責任、自己判断で、利益を減らせといっているのだ。




 それを庶民にも言わせて、数の差で上回りたい。主権者である国民が動けば、一都三県同盟の制度化の建前もそろう。






 庶民の所得向上、企業の利益向上によっての税金確保とかかな。独占禁止法としての動きかもしれない。いくつも予測できるね。




 強い人たちがいないとなりたたないのに、ここまで上からのお願いができる。金持ちの怖さを思い知らされる。








「自分たちの利益のために、強い人たちですら利益化しようとする。東京って怖い」




 院長ですらびくりと震えていた。






「覚えておくといいよ、新自由主義者は利益のためなら他人なんて切り捨てるからね。命ですら金にしちゃう人たちだもん」










 映像が切り替わった先。髪型をオールバックにまとめた男に画面がうつっていた。サングラスをかけ、頬にはえぐれた傷跡が残った中年ほどの男だ。体格もしっかりしている。ニュース番組のような配列。キャスターの席に座るその男にカメラが向けられており、横には出演者が座っている。




 出演者が男を微弱に避けており、恐れているように見えた。




 オールバックの男、紹介文にはこう書かれている。




 冒険者ギルド長、郡司新。






「冒険者ギルドは、経済界連合に所属する、小売り販売大手、六同社の護衛の更新をいたしません」








 その報道は通行人ですら画面を見るほどの衝撃だった。僕も衝撃だった。院長ですら口を開けてぽかんとしていた。




 この時代に企業が護衛をつけないリスクはありえない。悪の組織がいて、怪人がいる。魔獣や魔物もいる世界に利益だけを求めることはできない。護衛なしとはつまり、無防備で危害を加えてくれという証明だった。




 敵は化け物だけじゃない。人間もそう。無防備なやつの自己責任として利益や商売を邪魔される。




 安全な商売を担保していた警察がいない。逮捕するものがいない恐怖。




 安全を担保するのは、自己責任だ。無防備はそれの許諾許可と同じ行為だった。






「資格制度を求める協力の理念は素晴らしいことです。ですが新自由の時代にそのような規制はいらない。あくまで我々の営業努力による利益です。自己責任や会社に頼らない生き方を打ち出したのは経済会だ。ならば経済界も自分で訴えたことを守るべきでしょう」






 だからと郡司はつづけた。






「力の値段の上昇は必要なものだからです。出したくないなら出さなければいい。我々は他のかたがたに提供する。また一般の方に対しては、出せる金額のなかで最適な力を提供してもおります。我々の商売を邪魔するのであれば、相応の覚悟は必要でしょう」






 ずれたサングラスを手で戻す、その仕草は様になっていた。






「最後になりますが。我々は経済会の素晴らしい理念に対し、強く共感した結果、六同社への護衛の更新を停止することに決定しました。」










 院長がぼくを見ている。おびえているし、どう判断すべきかわからないのだ。別の地獄だとも独り言ちている。




 経済界に対して、武力側からの報復。




 守らない。この言葉の重さを知るのは都会だけじゃない。八千代町でもそうだ。魔法少女ロッテンダストと武力集団によって安定が図られている。周囲より圧倒して手に入れた安全。




 まさに護衛の力そのもの。




 手を出せば即報復。




 その理念があるからこそ、周囲の組織は手を出してこない。




 六同社にはその力がない。守る力もないし、反撃するための安全も更新切れと共に失われる。








 院長ですら青ざめている。






 お金を払えば済む安全。それがお金を払っても得られない不安に変わる。












「いつの時代も力には勝てないね」






 そう言うので精一杯だった。


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