ただ鴛鴦を羨みて
水城洋臣
ただ鴛鴦を羨みて
第一集 胡族入朝
南匈奴は長年の間、部族を挙げて傭兵のような暮らしをしていた。漢王朝から直接の命を受けた
曹操が当代の覇者として地位を固めた後も、そうした過去の経緯から、帰順するべきかどうか彼らを悩ませていたのである。
しかし数年前に出会った漢人の旅人から「曹操は優秀な人材、戦力ならば、かつての敵であっても重用する器がある」と聞かされた事で、単于の呼廚泉も決意を固め、数年の交渉期間を経てこの日を迎えたのである。果たして曹操も大いに喜び、彼らは歓待される事となった。
「望みがあれば何でも言うがよい。わしに出来る事ならばだがな」
上機嫌の曹操はそう言った。呼廚泉は後ろに控えている四十手前ほどの男に目くばせをする。
「此度の帰順は、こちらに控える
「言ってみよ」
多羅克と紹介された男に対し、笑顔のまま訊いた曹操。多羅克は強い意志を秘めた瞳で曹操を正面から見据えて応える。
「叶うならば、かつての我が妻……、
その言葉を聞いた曹操から笑顔が消えた。だがそれは怒りや不興という物では無かった。その表情には驚きと、この日が来てしまったという悲しみのような物が滲み出ていた。
「すまぬが……、それは出来ぬのだ……」
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