プレゼントからプレゼントへ

シヨゥ

第1話

「誕生日おめでとう」

 グラスがぶつかり音が鳴る。

「ありがとう。この歳になって祝われると思っていなかったよ」

 彼女との初めてむかえるぼくの誕生日。どこかへ食事にでも行けばよかったのかもしれない。だけれどもそれは彼女の誕生日まで取っておきたかった。だからぼくの希望で今日は自宅でささやかなパーティーを催してもらっている。

 ちょっと焦げた彼女の手作り料理。そしてふたりで作ったいびつなケーキが食卓を彩る。なんともぼくららしい誕生パーティーだと思う。

「はいこれ。プレゼント」

「ありがとう。開けてもいい?」

「どうぞ」

 ラッピングされた小箱を丁寧に開いていくと中にはブレスレットが入っていた。

「アクセサリーって持ってないなーって思って選んでみました。どうかな?」

「たしかにぼくはアクセサリーは持ってないからうれしいよ。なんか着けるとかっこつけている気がしていたけど、うん。シンプルで主張しすぎないし、いいかも。どう?」

「思った通り似合っている。ただまだ見慣れていないからちょっと面白い」

「面白いか。うん確かに。大事にするよ」

「大事にするだけじゃなくてちゃんと使ってよ? こういうのは慣れなんだから」

 そう言って彼女はブレスレットを外そうとする僕の手をつかんだ。

「分かった分かった。今日は風呂に入るまではつけているよ」

「今日だけじゃないからね?」

「明日からも」

「よろしい」

 満足そうに彼女は浮かせた腰を下ろす。

「それじゃあぼくからも」

「えっ?」

 下ろした腰がまた浮いた。

「君に着てもらいたくて買ってきました」

 部屋の隅で埋もれた箱の中から紙袋を取り出す。

「はいどうぞ」

「えっなんで私、誕生日でもないのにもらっているの?」

「ぼくがそれを着た君を見たいから」

「言ってくれたら自分で買うのに」

「これはぼくのわがままで、ぼくの趣味だから。無理につき合わせることはできないよ」

「そんなそんな。それにこのブランド。滅茶苦茶高いよ」

「うん。すっごく高かった。でもそれを着た君を見れるのはそれ以上の価値があると思ったんだよ」

「でもでも」

「きっと君は服をプレゼントしてもらったと思っている。だけどね。ぼくにとってはそれを着てくれること自体がプレゼントなんだよ。まぁ恥ずかしい話、プレゼントをもらうために頑張る子供とぼくは変わらないんだ」

 そう説明するとなんだか無性に恥ずかしくなってきて顔がほてりだしたのを感じる。そんなぼくの前で彼女は紙袋を抱きしめたままスッと立ち上がった。

「ちょっと待ってて」

 彼女が部屋を出ていく。そして数分後。

「ワンピースなんて初めて着たよ」

 着替えた彼女が表れた。普段はスカートをはかない彼女が裾を気にしながら歩いてくる姿はグッとくるものがある。

「どうかな?」

「すっごく良い」

「食い気味に言われると恥ずかしいな。想像通りだった?」

「想像の何倍も上だね。ありがとう。着てくれて」

「どういたしまして。それにしてもキミ、こんなガーリーな服が好きなんだ」

「まぁ多少はね。男だし、そういうところはあるさ。でもパンツルックな君も好きなんだ。見ていて安心するというかね。だから僕に合わせようとか思わなくていいから」

「そう言ってもらえると助かるよ。これは私にとってちょっとキツイ」

 そう言って彼女ははにかむ。

「それじゃあ改めて乾杯しようか」

「そうだね。こぼさないように注意しないと。はじめてのプレゼントは大事にしないとね」

「大事にするだけじゃなくてちゃんと使ってよ? こういうのは慣れなんだから」

「そっくりそのまま返されちゃったかー」

 ぼくの猿真似に彼女は演技臭くそう返す。

「まぁお互いにほどほどに大事にしよう」

「そうだね。それじゃ乾杯」

 再びグラスがぶつかり音が鳴る。新しい歳の門出は順風満帆といったところだろう。

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