第26話 冒険者試験5

 「さっきも言った通り俺の行う最終試験は実戦形式でお前の実力を試させて貰う。試験官である俺自らが相手をしてな」


 「で……でもいくら試験とはいえ現役の……。それも一流の冒険者を相手にするなんて……」


 「心配せずとも試験官らしくちゃんと手は抜いてやる。それでも全く怪我をさせないという保証はできないが外には一流の治癒術師達が待機しているから安心しろ」


 「うっ……どうやら本当やるしかないみたいですね……」


 「武器については勿論自身が愛用している物を使って貰って構わないが……。どうやらお前は普段は特に武器を持ち歩いていないようだな。魔術をメインにしているのなら当たり前のことではあるし武器の使用を強制したりもしないが一応こちらで一通りの種類の武器は揃えさせて貰った。もし使用するつもりがあるのならここから好きな物を選び取るが良い」


 最後の実戦形式の試験に臨むにあたり試験官であるベン・チャンベルから揃えられた武器の中から好きな物を取るよう促される。


 この場には剣なら短剣から長剣、それ以上にサイズの大きい両手で扱うことを想定した大剣、槍なら短槍から長槍、剣身部の形状の違う斧槍までと数百種類にも及ぶ武器が取り揃えられていた。


 この場にある武器ではなく自ら持参した物、もしくは武器自体をそもそも使用せず試験に挑むという選択肢まで与えられていたのだが、僕は実戦を行う前から評価を得る為にベンが驚くような意外な手段で武器を用意することにした。


 その手段とはあの『ハ〇レン』の真似のことだ。


 試験に挑む前にあまり実用的ではないとの結論に達した『ハ〇レン』の真似だがその場の状況に適した武器を臨機応変に用意できるというのは一応の評価をして貰えるのではないかとの期待を込めてそうすることを判断した。


 それに錬成する武器の精度を上げる為の手段も新たに考えてある。


 「………」


 「どうした?。やはり魔術師らしく武器を必要とせず試験に挑むつもりか」


 「いえ……。武器ならちゃんと自身で準備して来ています」


 「……?。そうは言うが一体何処にお前の武器が装備されていると謂うのだ」


 「それは今お見せします」


 「……っ!。なんだ……それはっ!」


 腰に下げたポーチから僕は薬瓶を1つ取り出してその中身である銀色の光沢を放つ液体を足元の地面へと零していく。


 『アイゼンラハト式』という錬成法を用いて事前に錬成しておいた液体化した金属、乃ち液体金属だ。


 物品を軽量化して製造する時に主な素材とされるラバーフェズリという金属物質が素となっている。


 製品名は『マルキュリオ』。


 そのマルキュリオの浸された地面へと手をやり僕が錬金術を発動させると……。


 「ほぅ……まさか只の土しかないこの場所の地面から剣を創り出すとはな。錬金術を応用したのだろうが大したものだ」


 どれだけ膨大な魔力を駆使して錬成したとしても只の土から錬成できる武器の強度はたかが知れている。


 だがこのマルキュリオを混ぜ合わせて錬成することで強度以外にも武器の精度をグッと高めることができる。


 これなら一流の冒険者、それも前衛のジョブを持つ者が相手であってもまともに打ち合うことができるはずだ。


 「結構な芸当だがそのような即興品の武器で俺の剣とまともに打ち合うことができるのかな。こちらで用意した武器に持ち替えるなら今の内だぞ」


 「い……一応一般に市販されている武器より強度があることは検証済みなので大丈夫です……」


 「よろしい……ならばいくぞっ!」


 「は……はいっ!」


 「(いくなの~っ!。LA7-93っ!)」


 「(絶対負けちゃ駄目なの~っ!)」


 武器を錬成し終えたところで最終試験。


 試験官であるベンと実戦形式での試合が開始された。


 僕のことを魂の名前で呼ぶようになったベルとベルルも体の中から僕を応援をしてくれている。


 手を抜いてくれるとはいえ一流の冒険者を相手に勝たせて貰えるとは思えないけど試験に合格できるだけの点数はなんとしても勝ち取らないと……。


 「はあぁぁっ!」


 「ぐうぅぅっ……っ!」


 試合が始まるや否やベンは僕に向かって豪快に剣を振るって来た。


 同じく僕も剣を振るってベンの剣を受け止めるが凄い衝撃が体に襲いか掛かってくる。


 手元が痺れるように震えて今にも剣を手放してしまいそうだ。


 「まずまずの反応速度だ。俺の剣圧に押し切られないとは肉体の強度の方も中々……。次は剣術の腕前を確かめさせて貰うぞっ!」


 僕を軽く弾き飛ばし距離を取ったところでベンは再び連続して剣を振るってくる。


 僕も負けじと剣を振るい返して凄まじい剣戟がこの場に繰り広げられた。


 しかしどうにか剣を交えられているはいるもののその剣戟の光景は明らかに僕が防戦一方となっているものだった。


 剣術の腕前を確かめさせて貰うと言っていたがこれでは相手の斬撃を防ぐのに手一杯でとてもこちらの剣筋を披露できそうにない。


 本当にこの人は僕の力量を測るつもりで戦っているのか。


 そう思えるくらいのベンの猛攻だった。


 「錬金術……そして水属性の魔法をあそこまで高度に扱える上に近接戦闘においてもベンとあれだけ剣を交えることができるなんて……。これはまたとない逸材が現れましたね、メル」


 「ええ。最初の一撃を受け切った時点でもうベンの中で彼に合格の判定を下すことは決まっているでしょうが、どうやら彼の力の全てを明らかなものにするつもりのようです」


 「どうしたぁっ!。受けてばかりいないで少しは反撃してみろっ!。こんなんじゃあとても合格をくれてやることはできないぞっ!」


 守りに回ってばかりの僕を煽るようにベンがしきりにまくし立ててくる。


 試験の合否に関わるようなことまで口に出されてしまってはこちらも黙っているわけにはいかない。


 自身の実力をベンに見せつける為に思い切った手段へと踏み切る。


 ベンの斬撃を受け止めるのではなく紙一重へのところで躱しすぐさま後ろへと後退した。


 少し距離を取ったところでまた詰められて終わりだと思うだろうが勿論只後退したわけではない。


 後ろに下がると同時に僕はあろうことか自身の持っていた剣を手放しベンに向かって投げ付けたのだ。


 僕の突然の行動に一瞬驚きつつもベンはすぐ冷静になって投げ付けられてきた剣を自身の剣を振るって払おうとする。


 しかしベンの剣が接触する寸前突然僕の投げ付けた剣がまるで泥のように溶け始めてドロドロと粘着性の高い物質へと変わってベンの体に纏わりついていった。


 纏わりついた物質によってベンは思うように体を動かせない。


 強引に振り払おうとしても接着剤のように余計にへばりついていく。


 僕が使用していた剣は元々はこの場の地面にある土の成分から錬成したものだ。


 少しの魔力を込めることでこのように変化させることなど造作もない。


 ベンの身動きが取れない内に僕は第2試験の時に見せたのと同じ要領で『水撃ストリーム』の魔法を最大出力で撃ち放っていく。


 「ぐうぅぅ……っ!」」


 僕の『水撃ストリーム』を全身に受けたベンは身動きが取れない状態ながらも必死にその水圧に耐えている。


 だが戦局は完全にこちらに優勢なものへと変わった。


 このまま『水撃ストリーム』を撃ち続ければ押し切ることができると僕は確信したのだが……。


 「ぐっ……うおぉぉぉーーっ!」


 前衛の職に就いている者だからといって魔法を扱えず魔力を持たないということはない。


 魔法扱う為の細胞、『魔力細胞マジック・セル』、『術式細胞スクリプト・セル』、『刻印細胞エングレイブ・セル』については皆がそれぞれの才能に応じた物を所持している。


 魔術師の職に就いている者達と前衛の職に就いている者達の違いは魔法を扱えるかどうかではなく扱う魔法の系統をどのようなものにしているのかという違いだ。


 魔術師の職に就いている者達は今僕が使用している『水撃ストリーム』のように魔法を直接相手にダメージを与える手段として用いることが多いだろうが前衛の職に就いている者達は魔法を自身の肉体強化する手段として用いる。


 ベンは肉体強化の魔法を最大出力で発動させると共に水属性に対する障壁魔法を全身に張り巡らせた。


 障壁魔法で僕の『水撃ストリーム』から受ける威力を弱めると共に最大まで強化した肉体の力でベンは粘液化した僕の剣を振り払い、更に全力で剣を振るうと共に僕の『水撃ストリーム』の魔法を弾き返してきた。


 弾き返された『水撃ストリーム』は当然僕へと襲い掛かり僕はその自身の放った凄まじい水流の中へと飲まれてしまう。


 何とか水流から解放されたと思った時には地面に横たわる僕に対し見下ろすように剣先を向けるベンの姿があったのだった。


 「はぁ……はぁ……。どうやら勝負がついたようだな」


 「はぁ……はぁ……く……くそっ!」


 「そう気を落とすな。負けたとはいえお前の剣の腕前は確かなものだったし、さっきの武器を粘液化しての奇襲は見事なものだった。正直に言うが最後は俺も少々本気だったのだぞ」


 「えっ……それじゃあ……」


 「ああ。受験番号・5番-アル・アルティス。第3試験も見事合格だ」


 「やったぁーーっ!」


 「(やったなの~っ!)」


 「(なの~っ!)」


 ベンとの勝負に負けはしたが僕は無事実戦形式で行われたこの第3試験も通過することができた。


 最後にまだ1つ試験が残っているようだけどどうやらこの場では行われないみたいだ。


 一旦試験から解放された僕は僕とは別の場所で試験を受けているはずのアイシアの様子を見に行くことにする。

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