転生マスター LA7-93の転生記録FILE1 VS『味噌焼きおにぎり』~カニ人間+注射器魔法=最強~

はちわれ猫

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第1話 魂

 魂。


 今現在地球、もしくは他の何処かの世界で肉体を持って生きている多くの者達にとってその存在は定かではないだろう。


 しかし魂というものは確かに実在する。


 勇敢な魂、優しい魂、弱気な魂、強欲な魂。

 

 攻撃力の高い魂、防御力の高い魂、魔力の高い魂。


 【肉体強化】のスキルを習得した魂、【ファイヤーボール】のスキルを習得した魂、【異端者】のスキルを習得した魂。


 様々な性質やステータスを持って今現在生きている僕達には知り得えることのできない次元の世界に存在している。


 それはまるで地球の世界に存在するRロールPプレイングGゲームのように。


 「おらぁっ!。とっとと酒買って来いっ!、真一っ!」

 

 「は……はい、父さん」


 「てめぇに父親呼ばわりされる気はねぇよっ!。兄貴の遺産を頂く為に仕方なく家に引き取ってやったんだ。いいからとっと行けっ!。言っとくが1円でも釣りをネコババしやがったら承知しねぇからなっ!」


 「分かって……ます」


 品性の欠片もない低俗とも謂える男に僕は酒を買いに行くよう命じられる。


 っと言ってもその僕は僕であって僕でない存在。


 彼は地球の世界で日本という国で生まれ育った遠野真一とおのしんいちという名の少年だった。


 幼い頃に事故で両親を亡くした真一は父親の弟である男の元に引き取られていたのだが、元々兄の遺産目当てで真一を引き取ったその義理の父の男に真一はいつもきつく当たられていた。


 今のように1人で酒を買いに行かされることは勿論洗濯から掃除、家の雑用と謂えるものを何から何まで強いられ時には暴力を振るわれることもあった。


 その暴力には正当どころか明確にこれと謂える理由すらない。


 只日頃のストレス発散の為に義理の父の男は真一をサンドバックのように扱っていたのだ。


 義理の父も結婚していて真一の暮らす家庭には義理の母親、それに義理の姉と妹もいたのだが誰も暴力を振るわれる真一を助けようとするものはいなかった。


 それどころか父親と一緒になって真一の虐待に加担することも幾度もあった程だ。


 そんな悲惨な家庭で暮らすことを余儀なくされながらも真一は自らの境遇を呪うことなく力強く生き抜いて来た。


 まるで何か使命を帯びたかのように自身が唯一この家で居座ることを許された物置で夜な夜なある行いに熱中している。


 他の家族達がリビングでホクホクのご飯に唐揚げや味噌汁等色とりどりのオカズが揃った夕食、それに今日真一に買いに行かせた酒を飲みながら楽しげな表情でテレビを見ている中、冷やご飯にかつお節を振りその上から水を掛けただけの貧相とすら言えない食事を傍らに真一は今日もその行いに勤しんでいた。


 「マズイッ!。デーモン・フレイムが来るっ!」


 鬼。


 まるで鬼が骨だけの姿のなって動いているような悍ましい怪物がその手から禍々しい炎を放とうとしている。


 けれど自分をこのような境遇に落とし入れている義理の家族の方がよっぽど鬼のようだな。


 悍ましい鬼の怪物の姿を前にしても真一はまるで動じることなくそんな感想を浮かべていた。


 それもそのはず。


 その怪物は黒い縁で囲われた画面の中の次元から決して出て来ることのできないゲームの中の存在。


 自分に決して手が届かいと分かっている相手に真一が怯える道理など何処にもなかった。


 勿論義理の家族の鬼のようだというのは本心から出た言葉だろうが。


 「ふっ……どうにかかわすことができたみたいだ。今度はこっちが反撃する番だぞっ!」


 真一は今アビス・アガルタというダンジョンRPGをプレイしていた。


 ゲームを遊ぶ為に手にしている携帯用ゲーム機共々生前の両親から誕生日プレゼントして買って貰ったものだ。


 真一にとって両親の忘れ形見とも謂える物だが、夜な夜なアビス・アガルタのゲームに熱中する真一の姿は亡くなってしまった両親が恋しいというよりこのゲームをクリアすることが自分の使命であるかと謂わんばかりの真剣で気迫溢れるものだった。


 アビス・アガルタは真一のいる世界で最高の難易度を誇るとわれているゲームだ。


 何種類もある主人公のジョブの中から一つを選んで選択し、Lvを上げると共にステータスを上昇させそれに因んだ様々なスキルを習得してダンジョンの最下層を目指して進んで行く。


 まるで僕が先程話していた魂と同じようではないか。


 「これで止めだっ!。行けっ!、スライアスっ!」


 「スラっ!」


 真一はどうやらその中から魔物使いのジョブを選択したようだ。


 魔物使いのスキルの力で仲間にしたと思われるスライムのモンスターが真一の操作するキャラクターと共に敵の怪物へと立ち向かって行く。

 

 「スライダル・スラッシュっ!」


 「グオォォォォォッ!」


 「やったっ!。遂にこのアビス・アガルタの最終ボスを倒すことができたぞっ!」


 真一の仲間のスライムが放った津波のように巨大な水流の斬撃が敵の怪物を打倒す。


 どうやら真一は無事ゲームをクリアしエンディングを迎えることができたようだ。


 エンディングロールを見ながら深い感慨に浸っているところを見るとこのゲームをクリアするのに余程の労力を費やしたのだろう。


 その後も真一はアビス・アガルタ以外にもアクションからシミュレーション、オフラインからオンラインのものに至るまで様々なゲームをクリアしていく。


 高校を卒業する共に自立し凶悪な家族の魔の手からも解放され、どうにか老後の資金が蓄えられる程に仕事を食い繋いでいった真一のゲーム人生は75歳になるまで続いた。


 そんな天涯孤独でゲームしか生きがいのなかった真一をを弔う者は誰もいなかったのだが、棺桶の中で遺体となった真一は自分の人生にとても満足したかのような表情を浮かべていた。


 そしてこの世を去ると共に真一の意識は僕の元へと帰って行く。

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