悪役(ヒール)令嬢はフィニッシュホールドで無双したい! ~必殺技を再現するために、私めちゃめちゃ鍛えましたわ~
ヤマタケ
第1話 婚約破棄される! の巻
「ロビィナ=ダイナスティ! 君との婚約は破棄させてもらう!」
私の目の前の美男子――――グレイ=トーマスルー王子が、そのきれいな瞳を真っ赤に燃やしてこちらを睨み、叫んだ。
周囲の人物―――いずれも、高貴な服装に身をやつした妙齢の男女ばかりだが――――、一同は驚きのまなざしで私たちを見ていた。
貴族の舞踏会の会場の視線は、会場の中央にいる私と王子に集中していた。
私はかぶりを振ると、手を額にあてた。
「……理由を、お伺いしても? 私が、あなたとの婚約を破棄されなければならない理由を」
「自分の胸に聞いてみたまえ、この卑しい女めが! 同じ学院内で、寄ってたかって一人の女性をいじめるような真似をしたと聞いているぞ!」
そう言い、彼は一人の少女を側に連れてくる。同じ学院に通っている、リン=マンタレイだ。彼女はうつむいたまま、こちらを見ようとはしない。
「リンが貴様に暴力を振るわれていた、という情報が幾度も耳に入っている! そんな暴力的な女は、このトーマスルー王家に入るには相応しくない!」
ざわめきの中に、いくつかクスクスと笑う声が聞こえた。それは、同じ学院に通うお嬢様どもだ。私はどうやら、彼女らに陥れられたらしい。
私の目に、大粒の涙が浮かんだ。
「……ひどいですわ王子! こんな大勢の前で、私を辱めるなんて! ぐすん!」
私はさめざめと泣き始めた。王子はそんな私を見て、ふん、と鼻を鳴らす。
「許してほしい、などと言ってももう遅い。お前の残虐さは分かっているからな」
「……どうしても、許してはくれないのですか?」
「くどい!」
私の言葉を、王子は手で払い一掃した。
「お前のような女と結婚しようとした私が愚かであった!」
私はその言葉に、がくりと落ち込み、うつむいた。
「……わかりました。それがあなたの決定なら、私は甘んじて受けいれますわ」
「ふん。今更しおらしくしたところで、遅いがな」
「……ならせめて、私の最期のお願いを聞き入れては下さいませんこと?」
上目づかいで見つめる私の顔を見て、王子はふい、と目を逸らす。自慢じゃないが、私ことロビィナ=ダイナスティは顔はいいのだ。
「……一つだけな」
王子はこちらを見ずに、了承した。それを聞き、私はさっと立ち上がる。
「……感謝いたしますわ。王子」
そう言って王子の側へと歩み寄ると、彼の腰にそっと両手を回す。
「な、何だ。こんなところで接吻など、何を考えて――――――――」
照れる彼の表情は、どことなく可愛らしい。
ああ、本当に――――――――。
―――――――本当に、おめでたい奴だ!!!!
私は両腕に力を込めると、思い切り王子の身体を振り回した。不意打ちに油断し切っていた王子の身体は、私の腕力に持ち上げられ、宙に浮く。
「う……うわあああああああ―――――――――っ!」
一体何が起こっているのかも、彼にはわからないだろう。そんなことに構う余地もない。周りが動揺している今が最大のチャンスなのだ!
「はああああああああ――――――――――っ!!」
私はぐるぐると王子の身体を振り回し、そして。
回転の勢いのままに、王子の身体を高々と放り投げた。
「あ……あああ―――――――――――っ!!!」
「王子様ぁぁぁーーーーーーーーーーっ!」
遙か上空で王子が悲鳴を上げながらきりもみ回転している。舞踏会の会場は屋外であり、天井はなかった。それは、私が主催者側にそれとなくお願いして決めたことだ。つまりは、最初からこうなることは織り込み済みである。
周囲が唖然とする中、私は空高くジャンプした。その跳躍で、天高く舞い上がった王子よりもはるかに高くへと跳びあがる。下着は見えてもいいようなものを履いているので、何ら問題はない。
スカートをたくし上げると、回転が終わり自由落下を始めた王子へと近寄る。
「くらえええええ――――――――――っ!!」
そしてむき出しになった王子の首に、私の左足があてがわれた。
このまま、もし、地面へと落下すれば。
王子の首が、私のギロチンのごとき足によって良くて首の骨がへし折れる、最悪真っ二つであることは、彼の想像力でもすぐにわかることであった。
「や、やめろ! やめてくれえええええええええええ――――――――――――――っ!」
「―――――――――地獄の断●台―――――――――――っ!!!」
「ぎゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
その首が、地面へと転がり落ちるであろう、まさにその瞬間。
私は足を首から離し、そのまま王子の身体を横へと蹴り飛ばした。王子の身体が地面から直角に飛び、床へと転がる。
「お……王子! しっかりしてください! 王子!」
慌てて憲兵が駆け寄るも、王子は既にこと切れていた。
いや、死んだわけではなくて。単純に気を失っていた。先ほどまでのキレイな顔は見る影もなく恐怖にゆがみ、高価であろう身に纏う服の股間がみるみる湿っていく。
「……ふ、女に恥をかかせた罪、それはとても重くってよ?」
華麗に着地した私は決め台詞を言ったつもりだったのだが、次の瞬間、両手槍を持った憲兵たちに囲まれていた。
私は両手をひらひらと上げ、困ったように笑う。
「……おっかしいなあ、手加減したんだけど」
晴れて婚約破棄になったのは、まだいい。
でもさすがに逮捕されるというのは、ゲームでもなかった展開だった。
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