孤児になった男の子が、孤独な森の魔女に救われる話

日比野くろ

【短編】孤児になった男の子が、孤独な森の魔女に救われる話


 なぜ、こんな目に遭うのだろう。


 幼い少年は、ボロ家の床に倒れていた。

 全身が痛くて怠くて、苦しくて動けない。

 横たわったまま自分の腕を見ると、おぞましい色の斑紋が点々と浮かび上がっていた。

 住んでいた村のみんなは死んでしまった。

 残っているのは自分だけだ。

 


 フランツは田舎の村に生まれた少年だ。

 手先が器用で、村の大人に負けないくらい賢く、運動がとても苦手なだけの平凡な能力の持ち主であった。

 どれほど絶望的な状況かを理解していた。


「あ、あ……」


 死ぬ。

 村のみんなと同じように、死んでしまう。

 もうすぐ自分も死んでしまうのだろう。


「いやだ……」


 死にたくない。

 まだ生きていたいと思う。

 体から命が抜け落ちていく感覚を、止めることはできなかった。


「まだ生きているかい」


 暗闇に染まった視界の向こう側。

 誰かが声をかけてきた。

 フランツは必死に助けを求める。

 

「たす、けて」


 手を伸ばす。

 温かい感触が握り返してきた。

 

「ボクが必ず、助けるよ」


 声と同時に、口元に違和感。

 冷たい容器が唇に当たって、何かが注ぎ込まれている。


「少しだけ我慢するんだ」


 苦痛に苛まれているせいで味は分からなかったけれど、えぐみがあった。

 思わず吐き出しそうになる。


「飲み込んで」


 死にたくなかったフランツは、声に従って何とか飲み下した。

 僅かな体力も使い果たしてしまう。

 優しく頭を撫でられる。


「いい子だ。あとはボクに任せて眠るといい」


 体を持ち上げられる感覚があった。

 そこで限界がきた。

 意識を失って、先の記憶は残っていなかった。




 目覚めたとき、フランツは知らない場所に仰向けに寝かされていた。

 美しい星空が見えた。

 肌に浮かんでいた不気味な斑紋は薄くなっていた。握ってみると動く。

 一番辛かった時よりはマシになっている。


「起きたのかい」


 焚き火の音とともに、女性の声が聞こえる。

 横を見たフランツは、乱れた金髪の女性を見つけて悲鳴をあげそうになった。


「ひっ」


 目は死んだ魚のように光がない。

 不気味な白衣をまとっていて、母親よりも少し若い年齢だ。でも普通じゃない。


「おねえちゃん、誰……?」


 恐ろしい雰囲気の女性に問いかける。

 怯えるフランツには目もくれず、平然と焚き火に薪を投げ入れた。


「ボクはオリオン、森の魔女と名乗っている者さ」


 静かに燃え盛る火の音を聞いていた。

 唇を噛む。

 知らない人は怖い。

 でも、聞かなければいけなかった。

 

「ぼくはどうしてこんなところにいるの」

「連れ出してこなかったら、死んでしまっていたからね」

「村はどこ。みんなはどこなの……?」


 フランツは半ば、現実が分かっていた。

 しかしそれでも聞いた。


「おとうさんは、おかあさんは、っ」


 村で一番長く生き残っていた。

 両親や知り合いが倒れていく姿も見ている。

 魔女はフランツを見つめながら少し間を置いて、申し訳なさそうに俯いた。


「残念だけれど。キミを守ってくれた人は、この世からいなくなってしまった」


 分かっていたはずだったのに。

 思わず涙がこぼれる。

 オリオンは何も言わずに静かに立ち上がり、フランツの前にやってくる。


「間に合わなかったのはボクの責任だ。本当に申し訳ない」


 かがんで視線を合わせた。 

 フランツは、魔女のせいだとは思わなかった。

 それよりも、なぜ自分だけが生きているのか不思議だった。

 

「おねえちゃんが助けてくれたの……?」

「そうだね」

「ぼく、これからどうすればいいの」

「安全な場所に行くまでは、ボクが責任を持って面倒を見るよ」


 フランツは、えづいて泣きながら、魔女オリオンの白衣を両手で掴んだ。


「う、うぁぁっ……」


 ぼろぼろと地面に涙が吸い込まれる。

 幼い少年が眠りにつくまで、魔女は優しく頭を撫でていた。



 フランツは、一時的に魔女の旅に同行することになった。

 街につけば面倒を見てくれる場所があると言う。しかしそこに行くまでにやるべき事があるらしく、十数日かかることとなった。


 どうやらこのあたりの村を回っているらしい。

 すぐに、次の村にたどり着いた。

 村はずれの小屋に荷物を下ろすと、オリオンは言う。


「今日はここで待っていてほしい」


 必要なものを置いて、フランツを残して村の建物を出ていった。

 どこに行ってしまったのだろう。

 最初は魔女に対してあんなに怯えていたのに、一人ぼっちになった途端に心細くなる。


「どうして、こんな……」


 部屋の片隅で怯えていた。

 魔女と一緒に訪れたのは、フランツも訪れたある近隣の村だ。

 たくさんの人が死んでいた。

 地獄に呑まれていた。体に紫色の斑紋を残して、半数以上が息絶えていたのだ。


「みんな『呪い』にかかったんだ」


 村に来る道中、魔女に教えてもらった。

 呪いと呼ばれる特別な病気が、みんなを蝕んでいるのだという。


 フランツは今、人のいない安全な家の中にいる。

 ここにいれば大丈夫と言われた。

 その言葉を信じていた。


「おねえちゃん」


 心細くて名前を呼んだ。

 魔女は一人で足を踏み入れていった。

 追いかけることもできなかった。


 フランツは、手に銀色の液体が入ったガラス筒を握りしめている。

 魔女が出かける前に貰ったものだ。


『呪いの特効薬を渡しておくよ』

『くれるの?』

『一人では不安だろうからね。同じように体調が悪くなったときには飲みたまえ』


 銀色に輝いている薬は、不思議な魅力を内包していた。

 呪いの渦中にいるという漠然とした不安の中、それを手放せないまま引きこもった。

 建物の中でずっと待っていたが、魔女はぜんぜん戻ってこない。


「おねえちゃん、遅いよ……」


 まさか置いていかれたのではないか。

 少しづつ不安が溜まってくる。

 外に出るのは怖かった。呪いがまた伝染してしまったらと思うと体が動かない。

 何もできないまま時間が経つ。


「ちょっとだけ見に行こう」


 とうとう我慢できなくなった。

 扉を開けて、警戒心剥き出しで見回す。


「誰もいない……」


 真昼間だが村には人が歩いていない。

 人が集まるはずの井戸は桶が放置されている。作物の植えられた畑は、葉が風に揺られるほかに動くものはない。

 呪いを持っている人はいなさそうだ。

 あたりを警戒しながら魔女を探す。


「いなくなっちゃった、わけじゃないよね」


 仕事があると言っていた。

 ここにどんな仕事があるのだろう。

 しばらく探していると、村の集会場の扉が開いていることに気付く。


 あそこかな……。

 古い木の階段を登って、扉の横に隠れながら顔を覗かせる。


「ひいっ」


 思わず悲鳴が漏れ出た。

 建物を出てきたことを後悔した。

 ひどい光景が広がっていた。

 紫色の斑紋を体中に浮き上がらせた村人が何人も寝かされていた。呪いにかかった人が集められていたのだ。


「ああ、キミかい」


 声をあげたことで、村人の一人に寄り添っていた魔女オリオンが振り向く。

 不気味な薄い微笑みを浮かべていた。


「まだしばらくかかるから、待っていてくれたまえ」

「おねえちゃん、なにをしてるの……?」

「見ての通り、仕事をしているのさ」


 悲惨な光景の中、呻き声を上げている人たちになにかをしているようだった。

 村人の一人が、魔女オリオンの与えた瓶から銀色の液体を呑み下す。

 そのあと何度も咳き込んでいた。

 預かったものと同じ、銀色の特効薬だ。


「げほっ! がっ、がはっ!」

「大丈夫だ、慌てないで、横になるんだよ」


 優しく声をかけて再び寝かせる。

 フランツは部屋の片隅に汚れた血だらけの布を見つけた。他にもたくさんのものが置いてある。

 桶いっぱいの水。

 たくさんの簡単な食事など。

 生きていくのに必要なものだが、誰が用意したのだろう。


「おねえちゃんだ」


 フランツは気づいた。

 魔女は村人たちを助けようとしているのだ。


「おねえちゃん、すごい……」


 目が離せなくなっていた。

 恐ろしい光景のはずなのに見入っていた。


 命を救う仕事は夕方頃まで続いた。

 ようやく戻ってきた魔女は、扉の外で様子を見ていたフランツを見下ろす。


「待たせてすまないね、退屈だっただろう」


 フランツは首を横に振った。

 怖がるどころか目を輝かせていることに気づいて、意外そうに目をまたたかせた。


「本当に?」

「うん」

「それならよかったけど、キミは変わった性格をしているね」


 魔女はそれだけ言って、フランツを連れて村の一角に戻った。

 今日は村はずれで夜営だ。

 倉庫を一晩だけ借りる約束を交わしてきたらしい。大量の藁が積み重ねられた、それなりに寝心地のいい場所で休むことになった。


「おねえちゃん、明日はどうするの」

「ここには長くいない。明日の昼頃には街に向かって出発するよ」

「何かぼくに手伝えることはある?」

「ん?」


 白衣を脱いで、肩を出すラフな服で横たわっていた魔女はフランツに視線を向ける。

 相変わらず瞳に光は宿っていない。

 不気味な雰囲気は変わらないが、最初に怖がっていたほどではなくなった。


「キミは大丈夫だよ。何もしなくていい」


 小さな子供をあやすように頭を撫でる。

 それでも食い下がった。


「でも、ぼくもお手伝いしなきゃ」

「身体が回復しきっていないだろう。それに呪いが怖くないのかい」

「それは、怖いけど……」


 魔女の言うように、フランツは本調子ではないし、呪いが伝染するのも恐ろしい。

 苦しい思いをするのは嫌だ。


「おねえちゃんは怖くないの」


 そのことが不思議だった。

 あんなに恐ろしい場所に、どうして一人で乗り込んで介抱をしているのだろう。

 聞いた限りでは知り合いというわけでもなさそうだった。


「仕事だから淡々とやるだけさ」

「でも、呪いにかかっちゃうよ」

「ボクは呪いにかからないから問題ない」

「そうなの?」

「魔力をたくさん持っている人は、呪いにかかり辛いんだよ」


 魔力。

 言葉を知らないフランツは首をかしげた。


「じゃあ僕もそうなの?」

「賢いね。ボクほどじゃないにしろ、それなりに多くの魔力を持っているはずだよ」

「そうなんだ……」

「それに魔力に関係なく、薬の効果が続いている。同じ呪いにかかり直すことはない。渡した薬はお守り代わりさ」


 何となく納得した。

 そしてフランツはある決意をする。


「ぼくにも、お手伝いをさせてほしいんだ」

「ふむ」

「何もしないで過ごすなんてできないよ」


 申し入れる。

 オリオンは悩んでいたが、フランツの身体の経過を見て頷いた。


「まだ街にたどり着くまでの道中は長い。体調が万全のときだけ構わないから、水汲みなんかをお願いしてもいいかな」

「うんっ!」


 この人を手伝える。

 フランツは表情を明るくした。

 見た目はなんだか怖いけれど、いい人だ。

 



 フランツが魔女を手伝いたいと言い出したのには、理由があった。


 その日、誰もが寝静まる夜中。

 フランツは眠る魔女のそばで一人、体を縮こまらせていた。表情は不安に満ちている。


「お父さん、お母さん……」


 村のみんなはもういない。

 故郷をなくした悲しみは去っていない。

 無気力になるのではなく、逆に必死な気持ちが湧き出していた。


「ぼくにも、みんなを助けられたらよかったのに」


 何もできなかった。

 村では手先が器用だと褒められていた。

 母親から、簡単な薬作りを習ったこともある。


 だから、後悔した。

 だから『呪い』を治すことができる魔女が鮮烈にうつった。

 横を見ると、疲れ果てた様子の魔女が目をつむって眠っている。


「この人みたいになりたい」


 一日中仕事を見ていた。

 フランツは魔女に心から憧れた。

 両親を失って、孤児になった自分がどうなるかなんて忘れて、役に立ちたいと思った。

 



 魔女オリオンとの短い旅路は続いた。

 呪いにかかった人を救おうとする魔女に、従順に付き従った。

 魔女のように薬も作れず、治療もできないが、その分頑張って身の回りの雑用をこなした。少しでも役に立ちたかった。


(ぼくはいま、すごい人と一緒にいるんじゃないか)


 時間が経つ度に、思うようになる。

 少しづつ気づき始めていた。

 魔女は剣や弓のような、華々しい武器を持っているわけではない、が命を次々に救っている。

 回復を見届けた後はすぐさま去っていく姿は、村で聞いた英雄譚に出てくる主人公のようだった。


「ボクがきたからには、もう大丈夫」


 憧れは、より一層華々しく。

 村を進んでいくごとに色濃く焼きつく。

 心惹かれていた時、事件が起きた。

 次の村に来て呪いにかかった人を救っていたときだ。

 

「ふざけるな……!」


 フランツが持ってきた水桶を奪い取った大人が、魔女に向かってぶちまけた。


「おねえちゃんっ!?」


 冷たい水でいっぱいの桶を奪い去られたフランツは、悲痛に叫んだ。

 被害に遭ったオリオンは、自分の顔を軽く払う仕草をする。


「酷いじゃないか」

「っ……な、なんで濡れてねえんだ!?」


 乱暴な大人は、異様な光景に恐れ慄いた。

 水は全て地面に落ちている。

 白衣にも髪にも、水滴は残っていない。

 何事もなかったかのように、虚な瞳でじっと見返す。


「なんだよ、その目は、ふさけやがって」


 暴力をふるった大人は、焦ったように怒り叫んだ。

 殴られる。

 青ざめたフランツがすがりついて、止めようとした。


「やめて! おねえちゃんにひどいことしないで!」

「子供は外に出てろ!」


 抱きついたフランツは強く威圧される。

 さすがに五歳の子供に暴力を振るうことはなかったが、今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。


 なぜ、こんなに怒っているの?

 フランツには分からない。

 悪いことなんてしていないのに。


「わざわざ水桶を投げてくるんて、やりすぎじゃないかい」

「ふざけるな。村がこうなったのも、全部お前たち魔法使いのせいだろう……!」


 怯えて声が出なくなる横で、言い争いが始まる。


「呪いは人の手で発生するものじゃない。誰も呪いをかけたりはしないよ」

「ふざけるな、俺たちは騙されないぞ!」


 男がそう言ったのがはじまりだった。

 背後で横たわっていた、呪いにかかった他の村人も起き上がり、口々に同調した。


「そうだっ、そうだっ!」

「お前が来たからから、この村もおかしくなったんだ」

「限界よ。私たちは誰も頼らないわ……!」


 村人達は険しい表情で、薬を手にした魔女に向かって憤りをぶつけた。

 オリオンは眉ひとつ動かさずに微笑んでいる。


「なんで……?」


 フランツは違う。

 なぜ責められているのか、さっぱり分からない。

 結局、村を追い出されてしまった。

 その日は野宿を強いられることになった。

 焚き火の前で、泣きべそをかいた。


「うぅぅ、どうして、あんなっ……」


 命を救いにきたのに、受け取ってもらえなかった。

 どうして怒られたのか。

 さっぱり意味が分からない。

 心の傷は大きかった。


「これがボクの仕事なんだ」


 対面で鍋を混ぜていた魔女は、何でもないことのように言う。

 フランツはすがるように聞いた。


「魔法で悪いことをしてたの……?」

「そんなことはしていないさ」

「でも、おかしいよ」

「こういう仕事は、皆に分かってもらえるわけじゃない。説得できない方が悪いんだ」


 フランツはモヤモヤとした。

 その気持ちの正体を探るべく問いかける。


「おねえちゃん」

「聞きたいことがある、という顔だね」

「魔法って何なの?」


 村人は魔法を使ったと言っていた。

 魔女は、桶の水をかけられたのに濡れなかった。

 不思議な薬もたくさん持っている。

 特別な力が使えるのだろうか。


「説明が難しいけれど、簡単に言えば、魔法とは不思議な力のことさ」

「おねえちゃんも使えるんだよね」

「ああ」

「魔法で薬を作ってるの?」

「呪いは普通の病気と違って、魔法を使わないと治癒しないからね」


 魔女オリオンは薪を放った。

 日を見守った後、虚な瞳がフランツをとらえる。焚き火の輝きが鮮明にうつっている。

 それを見て背筋がぞくっとした。


「キミにはまだ分からないと思う。みんな魔法が怖いんだよ」

「怖いの……?」

「呪いと、ボクの使う魔法の根元は、どちらも魔力だからね。受け入れられないのも仕方がないことさ」


 理解できなかった。

 しかし仕方がないことだとは思わなかった。

 どうして間違って怒られているのに、笑っていられるんだろう。

 無性に悲しい気持ちになった。


「どうして、呪いなんてものがあるの」

「その質問に答えるのは難しいね」


 小さく笑ってから教えてくれる。


「誰が広めているわけでもない。自然に湧き出すんだ。原理は明らかになっていないね」

「他にもあるの?」

「呪いは千差万別、何百年も生まれ出ているんだよ。キミがかかったのもそのうちの一つに過ぎない」


 痛くて苦しかった。

 あんなものが世の中にはたくさんあるのか。想像しただけで嫌な気持ちになった。


「大丈夫、人生で二度も呪いにかかることなんてほとんどありえない」


 オリオンは、怯え始めた少年を見て、優しく語った。


「それにキミはもう生き延びたんだ。街にいけば平和に暮らせるさ」

「街に行きたくない」

「えっ?」


 フランツは否定する。

 面食らった表情を見せる。

 断ったのは、ある決意をしていたからだ。


「ぼく、おねえちゃんを手伝いたい」


 呪いにかかってから魔女を見てきた。

 人を救うことができる魔女に、心動かされた。

 自分もそうなりたい。

 少年にとって憧れの人になっていた。


「ぼくに、苦しむ人を救う手伝いをさせてほしいんだ」

「手伝いと言ってもね……」

「お願いだよ、どんなことでもする、頑張るから」

「困ったね」


 すがってくる少年は譲らない。

 魔女は困ったように微笑みながら首を傾ける。断られないように必死に頭を下げた。


「何でもするよ。水汲みも、ご飯を作るのもやる。荷物だって持つよ」

「そうなると一生、街で安心して暮らすことはできないね」

「それでもいいよ」

「……まあ、無理もないか」


 魔女は簡単に考えた。

 孤児になったフランツが不安がっているだけだと思ったのだ。

 少しすれば熱も冷め、不安も無くなっていくだろう。そう思って了承する。


「しばらくは旅に連れていってあげよう」

「ほんと!?」


 フランツは大喜びした。


 簡単に飽きると思った魔女の予想に反して、精力的に働き続けた。

 街に着いてから何日か平和に過ごさせた。

 それでも、そこに居着こうとせずに戻ってきてしまった。


「物好きだねえ」


 文句一つ言わずに魔女を支えた。

 役に立っていて、積極的ではなかったが、連れていくことを受け入れるようになる。

 そうしている間に、呪いの騒動もおさまっていった。


「お姉ちゃん今日はどこに行くの?」

「家に帰るのさ」

「…………」

「仕方ないね。連れていってあげよう」

「やった!」


 人手が必要なくなっても一緒にいることを望んだ。根負けして、森の中にある魔女の家に連れていくことになった。


 森の広場にぽつんと建っている。

 新築のように綺麗な木造の家が、魔法薬作りを行なっているオリオンの住処だ。

 そしてフランツにとっては初の来訪だ。


「わ。ここがお姉ちゃんの家なんだ……!」

「まったく。ここまで着いてきたのはキミが初めてだよ」

「森の中を歩くくらいへっちゃらだよ」

「そういうことじゃないけど、まあいいか」


 魔女も呆れ返っていた。

 連れてきてしまっていいのだろうかと悩んだ。しかし慕ってくる少年を気に入っていたので、追い出したりはしなかった。


「わぁ……! すごい、薬の材料がたくさんある!」


 薬作りのための立派な部屋があった。

 見たこともないような機材や、材料が山積みになっている。どれも少年の冒険心強くをくすぐるものだ。


「ボクの薬は、ここで開発したんだ」


 腕を組んだ白衣のオリオンは、簡単に説明した。


「僕にも作れるかな!?」

「しばらくは呪いも落ち着くだろうからね。空いた時間に教えてあげるよ」

「やった!」


 フランツは大喜びで両手を上げた。


 部屋を貰って二人で暮らし始めた。

 雑用をこなしつつ、薬作りの方法を教わる。指導を受けながら、一般人は生涯目覚める機会のない魔法の才能を覚醒させていく。


「ただの水に、少しづつ魔法を込めてみるんだ。それさえできれば後はすぐさ」

「……できない。どうすればいいの」

「毎日続けることだね。少しづつコツを掴むんだよ」

「やってみるよ」


 魔女の薬は『魔法薬』と呼ばれる代物だ。

 フランツはそれが作りたい。

 作成条件として魔法の才能と、専門的知識が要求されるため、非常に難しい。


 魔法薬を作れるのは魔女だけだ。

 魔法使い自体が少ない。

 そして、ただの薬よりも生成過程が複雑怪奇であることが要因だ。

 しかしフランツには才能があった。

 

「えっと、この文字は、こういう意味だから……」


 知識を持っていなかった。

 だからそれを補うために、オリオンの所有する本を使って文字の勉強をした。

 一朝一夕とはいかなかった。

 しかし、少しづつ前に進んでいた。


 何も知らない無知な子供が、誰にも言われずに地道な作業を続けていく。

 その原動力は故郷の記憶。

 凄惨な光景が頭に焼き付いていたからだ。


 一緒に暮らしていた人も。

 両親も。

 苦しみ抜いて死んでしまった。

 あんな悲しいことは二度と起きてほしくなかった。


「僕も、お姉ちゃんみたいになるんだ」


 微笑みながら命を救う魔女の姿に憧れた。

 世界のどこかで、自分のように苦しんでいる人を助けたい。その力が欲しかった。


 未来を思い続ける。

 ひたすらに、魔女オリオンから学んだ。




 フランツの人生は過ぎていった。

 村人だった頃の穏やかな人生が嘘のように、多くの出来事に巻き込まれた。 


 初めて魔法が使えるようになった。

 その時は、意気揚々と報告に行った。


「やったよ、お姉ちゃん、魔法が使えるようになった!」

「おや、勝手に入ってきちゃだめじゃないか」


 嬉しさから、研究室にこもる魔女のもとに飛び込んだ。

 危険だと静かに叱られた。

 そのあとには褒められたが、人生の苦い思い出の一つになった。



 魔女が不在の時。

 切羽詰まった同い年の子供に頼まれて、魔法薬を作った。


「魔法薬を作るから、安心して」

「本当に、あなたが治せるの……?」

「僕に任せて。お姉ちゃんがいなくても、君のお父さんを助けてみせるよ」


 魔女オリオンの手助けなしで作り上げた。

 生まれて初めて作った魔法薬。

 呪いで苦しんでいる人を、救い出した。


 功績は大きかった。

 魔女だけでなく街の人間にも認められるようになった。

 フランツの名は広まっていく。

 本人は気にしておらず、魔女に追いつくことばかりを考えていた。





「フランツ、ボクは手が離せない。そっちの患者も頼むよ」

「はい。大丈夫です、必ず助けますから……!」


 呪いが広まった時は何度もあった。

 魔女に同行して苦しむ人を救いにいった。

 床について苦しんでいる人を必死に励ました。

 他人の生死を何度も手にかけた。

 命の重みを、嫌というほど知った。



 十四歳のある日。

 またひとつ、呪いの災禍を乗り越えた。

 魔女に同行したフランツは、疲れ果てていた。

 帰り道はホウキで夜空を飛んでいた。

 

「ねえ」

「何だい、フランツ」

「お姉ちゃんは、どうして頑張れるの」


 一ヶ月間、ほぼ徹夜状態でフラフラだ。

 やるせない気持ちだった。

 救えない人が何人もいた。

 拒絶されることもあった。


 しかしいつだって隣には、普段通り平然とした顔の魔女がいた。

 手伝い続けていたフランツはつらくて、何度も駄目だと思ったのに、魔女はそうではないように見えた。


「あんなに大変なのに、辛くないの?」

「辛いさ」

「でも、ぜんぜん平気そうだよ」

「キミが想像するほど、ボクは万能な存在じゃないよ」


 予想に反したことを言って笑った。

 

「でも、ボクがやらないと、苦しむ人がたくさん出てしまうからね」


 魔女が薬を作り続ける理由は単純明快。

 他に任せられる人がいないのだ。

 誰かがやらないと、途方もない不幸の連鎖が始まってしまう。それを留められるのは魔女オリオンだけだ。


「でも大丈夫なの……?」


 憧れへの道を歩んできたフランツだから理解できる。

 いくら薬で体力を回復させても、徹夜の負担を後回しにしても、心の負担までは回復できない。

 どこかで綻びは出てしまう。


「やらなくちゃいけないんだ」

「お姉ちゃん……」


 その時の魔女の顔を一生忘れない。

 身を削って尽くして、罵声を受けても人を救い続ける。

 決して折れない固い意志を感じた。


「魔法薬を作り続けるのが、ボクの生まれてきた意味なんだ。辛いなんて言っている余裕はないよ」


 空を飛んでいることさえ忘れて魔女を見た。

 この時感じた胸の高鳴りの意味を、フランツは正しく理解はしていなかった。

 今までにない種類の感情を抱いた。

 特別な感情だった。

 疼きを抑えられずに叫んだ。


「僕も絶対にお姉ちゃんみたいになるよ!」


 隣を飛ぶ魔女に意気込んで伝える。

 クスクスと笑った。


「命ある限り、頑張ってみるといいさ」


 眠気と疲れに負けそうだったのに、力がみなぎってくるような感じがした。


「絶対に追いつくからね、お姉ちゃん!」

「なれるといいね。キミを応援するよ」


 フランツは強く、折れない想いを抱いた。

 男性としての想いが混ざっていることに気づくのは、しばらく後の話だ。




 そうしてまた、時がすぎる。


 フランツは十五歳になった。

 精力的に生活と研究を手助けする日々を送っていたある日のこと。

 魔女の家で食事をとっていたときだ。


「そろそろ、自立を考えてもいいんじゃないかい」

「えっ」


 唐突に言われて戸惑った。

 オリオンは繰り返すように言う。


「そろそろ外の世界に出て行ったほうがいい。大変ならボクも協力するよ」


 一生、一緒に過ごすつもりだった。

 フランツはとまどった。

 少し前に人生を賭けて魔女を目指すと決めたばかりだったのに、どういうことだろう。


「どうして、僕はお姉ちゃんを手伝いたいのに!」

「気持ちだけ受け取っておくよ」

「お、お姉ちゃんの役に立てなかったの? 邪魔だった?」

「キミほど優秀な人間はそうはいない。できることなら、ずっと手元に置いておきたいくらいさ」


 不安に反して、手放しに褒め称えた。

 嘘はついているようには見えない。

 実際、フランツの成長は目を見張るものがあったし、本人もそれは感じていた。


「独力で字が読めるようになって、ボクの書いた専門書まで読めるようになった。魔法もある程度は使えるようになった」


 そんな人間は、後にも先にもフランツだけだ。

 拾われて十年とは思えないほどの成長を見せた。

 自立には十分すぎる能力だ。

 それでも拒むのには理由があった。


「それでも、ずっとこの家にいるのはダメだよ」

「なんで!?」

「ボクは歳をとらないからさ。キミは、そうじゃないだろう」


 寿命が違う。

 あまりに簡潔で単純な理由があった。

 薄々とは気付いていた。

 今まで聞けずにいたことを聞く。


「どうしてお姉ちゃんは、昔と同じままなの?」

「良い質問だね」


 出会った頃からオリオンは老いていない。

 理由を尋ねると、あっさり教えてくれた。


「不老薬という薬を使って、肉体の成長を留めているんだ」

「魔法薬……?」

「ああ、特別製のね」


 フランツは背が伸びて、もう少しで魔女を追い越すくらいになった。

 それに対して容姿が変わらないのは魔法薬の効果だ。歳を取ることはないのだという。

 

 薬さえ飲めば自分も同じようになれる。

 特別な魔法じゃないんだ。

 希望を持って、思わずフランツは椅子から立ち上がった。


「僕も……!」

「駄目だよ、フランツ」


 分かっていたように否定する。


「キミに不老薬は渡せない」

「どうして!?」

「永遠の命なんて得てしまったら、不幸にしてしまうからね」

「不幸になんてならないよ!」

「後悔してからじゃ遅いんだ」


 フランツよりも長い月日を生きている魔女は、身に訪れる不幸がどれほど大きなものかを知っていた。

 

「世界から取り残され、無限の時間に心が食われる恐怖。生涯逃げられないんだ。いいことなんて一つもない」

「そんな……」


 一つも、理解も共感もできなかった。

 渡してくれないことだけは分かった。


「じゃあお姉ちゃんは、なんで……?」

「前にも言っただろう。魔法薬を作り続けるためだよ」


 命を救い続ける。

 魔女はそう言い続けて、今まで活動してきた。

 しかし納得できなかった。 

 普段から感情の薄い魔女はうつむく。


「フランツ。キミは普通に外の世界で生きるのが一番いい」

「…………」

「十年もキミに甘えてしまった。こんな森の中で過ごさせてしまって申し訳ない」


 僅かに後悔したような、寂しそうな表情を浮かべて最後に言った。

 

「ボクのことは忘れて、残りの人生は外の世界で精一杯生きるといい」

「嫌だよ……!」


 受け入れられない。

 受け入れられるはずがない。


「お姉ちゃんを一人にしたくない!」

「平気さ。また元の暮らしに戻るだけだ」


 必死に訴えたが、オリオンは受け入れてくれなかった。

 感情を消して微笑んでいる。

 瞳に色はなくて、一緒に暮らして見てきたどんな表情よりも空虚だった。

 呆然と立ち尽くしてうなだれる。


「もう僕は役に立てないの?」

「もうキミは素晴らしい魔法薬師だ。これはボクの望みだけれど、外の世界で活躍してほしい。人並みに幸せになってほしい」

「…………」

「素敵な人生を歩んでくれれば満足だよ」


 フランツは悔しくて虚しくて、胸がいっぱいになった。

 結局、何も言い返せなかった。


 設定された期限は、一年。

 それまでに外の世界で居場所を見つけなければならなかった。




「フランツ、そこの素材をとってくれるかい」

「わかったよ」


 オリオンは変わらず頼みごとをしてくる。

 家にいる間は何も変わらない。

 でも過ごしていると、どうしても嫌な気持ちが浮かんできて身が入らなかった。

 

(まだ、僕は魔女になれていないのに)


 魔女には遠く及ばない。

 自在に薬を作ることも、笑顔で人を救うこともできない。

 作れる薬はレシピを使ったものだけ。

 失敗することもしょっちゅうだ。

 

「離れたくないよ……」


 フランツは、この世で誰よりも魔女を想っている。

 一人ぼっちにしたくなかった。

 ずっと教えてほしかった。

 期限が迫ってくるたびに、胸が苦しくなっていく。




 それから一ヶ月もしない頃。

 ある事件が起きて、状況は変わった。

 

 魔女の家に破裂音が響いた。

 二階の自室で本を読んでいたフランツは飛び上がった。


「な、な、なにっ」


 森の奥でこんな激しい音がするなんて。

 心当たりは、ある。

 慕っている魔女のほかにいない。

 

「お姉ちゃん!?」


 一階に駆け下りる。

 研究室の木製の扉の隙間から、桃色のもやが漂っていた。

 慌てて戸を開けると、咳き込みながら、ふらふらとオリオンが出てくる。

 白衣には、桃色の液体が飛び散っている。

 作りかけの魔法薬の残骸だろう。


「けほっ、ああ、すまないねフランツ」

「どうしたのこれっ……!?」

「配合を間違えてしまってね。何、大したことはないさ」


 急いで汚損した白衣を脱がせて座らせたあと、玄関戸や窓を開けて空気を取り入れた。

 もやは、すぐに霧散した。

 危険が去ってようやく息をつく。


「心配をかけて悪かったね」 

「お姉ちゃん、どうしたの?」


 フランツは戸惑った。

 実験で失敗することはあった。

 でも、これほど派手な大失敗を見たのは、これが初めてだ。


「調子は悪くない?」

「問題ない。集中力を欠いてしまってね、こんなのは久しぶりだよ」


 椅子からゆっくりと立ち上がる。

 特に普段と変わっていないように見えた。

 フランツは安堵したが、その直後にあることに気付いた。


「目が……」

「ん、何だい?」


 魔女の瞳が、死んだ魚のような目ではなくなっている。

 生きた人間の瞳の色だ。

 本人は全く気付いていない様子だった。


「ボクの顔に何かついているかな」

「あ、え、えっと」


 何と言うべきだろう。

 戸惑ったうえに気を遣って、とっさに何も言えなかった。


「余計な仕事を増やして申し訳ないけれど、片付けを手伝ってくれないかな」

「う、うん」


 そのまま伝えるタイミングを失ってしまう。

 研究室に散った薬を慎重に片付ける。

 白衣は魔法の炎で燃やして、ほんの数十分で元どおりになった。

 

「何の薬を作ってたの?」

「特別な薬さ。失敗に終わってしまったけれどね」


 尋ねても答えてくれなかった。

 すぐに答えてくれない時は、話す気がない時だ。気になったが知る術がない。


「どうも調子が悪いようだ。まだ昼前だけど休憩しようかな」

「早めに昼食を作ったほうがいい?」

「そうだね。そのほうが時間を無駄にせずに済む」


 研究を中断するのは今までにないことだったが、あんな爆発の後では無理もない。


 少しでも元気になってほしい。

 そう思いながら、フランツはキッチンに向かう。

 

 魔女の家の台所は充実している。

 子供の頃に家に来てから、料理器具や食材がたくさん用意されるようになった。

 もともと不摂生気味だった魔女に、元気でいてもらうために用意したものだ。

 

「お姉ちゃん?」


 材料を手にしたフランツはとまどった。

 いざ調理をしようとする時、オリオンが傍に寄ってきたのだ。

 

「ここに居ても構わないかな」

「う、うん……」


 いつも魔女が居ない間に調理を進めるので、間近で見られるのは初めてだった。

 背中に暖かさを感じるほどの距離感。

 さすがに気になって、モジモジと訴えた。


「あの、落ち着かないよ」

「すまないね。どういうわけか、こうしていると落ち着くんだ」

「そうなの?」

「思ったよりも、さっきの件で動揺してしまっていてね。嫌でなければこのままでいさせてくれないかな」

「う、うん」


 そう言われては、フランツも断れない。

 落ち着かないまま料理を進める。

 魔女も明らかに邪魔になるようなことはせず、気を利かせて離れたり、たまに手伝ってくれた。

 

「キミはいつもこうしていたんだねえ」


 ウットリと頬を染めながら言う。

 本当にどうしてしまったのだろう。


 フランツはオリオンに特別な感情を抱いている。

 だが、今まででそういう雰囲気になったことはない。

 それが今は肩に手まで乗せられている。

 内心穏やかではなかった。


「お姉ちゃん。やっぱり何か変だよ」

「そうかい?」

「だって料理に全然興味がなかったし、僕、さっきみたいなこと言われたの初めてだよ」

「どうも人恋しくなってしまってね。嫌ならそう言ってくれれば離れるよ」

「嫌じゃないけど……」

 

 ぼそぼそと言う。

 魔女は目を細めて満足げに頷いた。

 落ち着かない状態のまま、なんとか調理を終えて食卓に戻ってくる。


「じゃ食べようか」

「うん」


 対面に座って食事を始めた。

 そこでもフランツを驚かせることがあった。


「今日の料理は、美味しいねえ」

「えっ」


 耳を疑った。

 魔女にとって食事はルーティン。

 勝手に気を遣って美味しいものを作ろうとしてきただけで、今までで一度も美味しいと言ってもらったことはない。

 それが今はどうだろう。

 嬉しそうに、作りたての野菜と肉のスープを嗜んでいる。


「特別に力を入れて作ってくれたのかな」

「いつも通りだけど……」

「そうなのかい?」

「お姉ちゃん、やっぱり変だよ」


 フランツは、ドギマギする気持ちを通り越して心配した。

 さっきの薬の原因であることは明らかだ。

 

「特別に力を入れて作ってくれたということでないとすると……」


 ようやくオリオン自身も異変を認識したようだった。

 ぶつぶつと呟いたあと、何かを閃いた。


「薬の作用かもしれない」

「何か危険なものだったの」

「いいや。でも素材の中に、感情の揺らぎを大きくする成分が含まれていてね」

「じゃあ今のお姉ちゃんは」

「感情が昂った状態なんだ、きっと」


 やっぱりそうだった。

 どう見ても、今の魔女の様子は普通じゃない。

 しかし感情が昂っているとは。

 ……どういうことだろう。


「それって大丈夫なの?」

「明日には綺麗に治っているさ」

「よかった。大変なことになるかと思ったよ」

「ボクもキミも魔法耐性は高いからね、効果は長く続かないよ」


 フランツは安心した。

 今日の魔女の距離はなんだかとても近くて、ドキドキして心臓に良くない。

 明日に治るのなら大丈夫だろう。

 

「作業が進まないのは問題だなあ」

「研究しないの?」

「手につかなさそうだ。しかしそうなると暇になってしまう」

「寝ていたほうがいいんじゃない。僕、食べ終わったらすぐに用意してくるよ」

「不要だ。眠たくないし、むしろ何かをしていたい気持ちなんだ」


 そう言われてフランツは困った。

 ゆっくり休まなくていいのだろうと心配していた。


「僕に何かできることはないかな」

「そうだねえ……ああそうだ、いいことを思いついたよ」

「何かあるの!」


 オリオンは目を瞑って少し考えて、それから思いついたように提案する。


 何か役に立ちたかった。

 フランツは役に立てることを喜んだ。

 一時間前の話だ。


「お、おねえちゃん……」


 泣きそうな声をあげて魔女を呼んだ。

 顔を真っ赤にして半泣きだ。

 背中のオリオンは、優越感を浮かべながら、すぐそばでフランツに言う。


「せっかくの時間を無駄にするのも、もったいないだろう」

「でも、うっ、これは……ああっ」

「ちゃんと集中するんだ。ほら頑張って」


 耳元でささやかれて、たまらなくなる。

 二人きりで研究室にこもって、ずっと熱心に取り組んでいた。


「扱いが難しいだろう。目をつむって感覚を研ぎ澄ますんだ」

「そ、そんなこといってもっ」


 色々な意味で限界に近かった。


「もう一度、やってみるんだ」

「う、うんっ!」


 必死に、言う通りにした。

 オリオンに握りしめられた手の平から、淡い魔法の光が放出される。

 しばらく輝いていたが、徐々に消えて、そのあとは座り込んだ。


「はぁぁ……」

「どうだい。久しぶりに訓練すると違うだろう」


 軽く笑いながら、魔女が肩を支える。

 魔法薬を学びたいと言い続けてきたフランツのために、魔法のレクチャーを行なっていたのだ。


「前よりうまくできるようになってる……?」


 疲れ果てたように座り込みながら聞く。

 オリオンは頷いた。


「ああ。繊細に魔力を制御できれば、もう一段階上の魔法薬も作れるよ」

「本当!?」

「嘘はつかないさ。キミは本当に優秀だね……おっと危ない」


 オリオンはそう言って、バランスを崩してよりかかってきた少年を優しく抱き止める。


「頑張ったね。偉いねえ」


 頭を撫でた。

 フランツも、恥ずかしそうに受け入れる。

 基本的に忙しくて面倒を見てもらえる機会は少ない。久しぶりに見てもらえて、褒められて嬉しくなった。


「それにしても、改めて思うよ。大きくなったね。出会った頃から見違えるようだ」

「あっ、ごめんねお姉ちゃん。今どくよ」


 倒れ込んだフランツは、オリオンから離れようとした。

 しかし体がフラフラする。

 魔力を使いすぎたみたいだ。


「一気に魔法を使ったからね。無理をさせすぎてしまったかな」

「ううん、大丈夫」

「上まで連れて行ってあげよう」


 肩を貸されて一緒に歩く。

 二階の部屋に行くまで、触れている間は、何とも言えない良い香りが漂ってきた。

 ベッドに座らせたあと、オリオンは少年の部屋を見渡す。


「キミの部屋に入ったのはいつ以来かな」

「呪いにかかったときぶりだと思う」

「もうそんなに昔かい」

「うん」

「そんなに時間が経ったんだね。とりあえず椅子を借りるよ」


 普段、本を呼んだりする机から椅子だけを引っ張って持ってきた。

 ベッドに腰掛けるフランツを見つめた。

 光の宿った瞳で、熱っぽく見つめられる。


「どうしたの……?」


 フランツは、耐え切れずに尋ねた。


「可愛いなあ、と思ってね」

「えっ」

「あんなに小さかったのに、今じゃボクの魔法を使いこなせるほどに育ってくれて。何だか嬉しくなってしまったんだ」


 緩んだように微笑まれる。

 フランツはふわふわした気持ちになった。

 可愛くて、それが嬉しい。

 その二つが、なぜ繋がるのか分からなかったが、悪い気はしなかった。

 

「ありがと……」


 恥ずかしそうに頭を下げたフランツは、満面の笑みで微笑み返された。

 なんだか無性に恥ずかしい。


「体調が回復するまで雑談でもしようか」

「いいの……?」

「せっかくキミがいるんだ。一人で過ごしても退屈だしね」


 首をかたむけて、優しく微笑む。

 断わる理由なんてない。

 腰を落ち着けて、他に何もせずに他愛もない話をするのは初めてだった。


「そういえば聞き忘れていたけれど、さっきの事故。キミ自身は大丈夫だったのかい」

「うん、爆発したのはびっくりしたけど、ぜんぜん平気だよ」


 煙は少し吸ってしまったけれど、薬液には触れていないし、変な感じもしない。

 そう告げると安心したようだった。


「今日はとんだ失態を見せてしまったね」

「そんなことないよ。それなら僕なんて、いつも失敗してばかりだし……」

「それは仕方ないさ。最初からできる人間なんていない」


 優しく励ましあう。

 さらにオリオンは手を伸ばして、フランツの頭を撫でた。


「ずっと言ってあげられなかったけれど、キミは本当に偉いと思う」


 急に褒められてとまどった。


「どういうこと……?」

「魔法薬を作れるようになったこと、褒めてあげてなかったと思ってね」

「僕が作れるのは簡単なものだけだから全然まだダメだよ」

「知っているよ。ずっと見てきたのは誰だと思っているんだい」


 二人は常に一緒だった。

 フランツがどれだけ努力してきたのか、誰よりも知っている。

 しかしフランツには十分ではなかった。


「お姉ちゃんみたいに、難しいのは全然作れないからダメだよ」

「最初の壁を越えたんだ。あとは早いよ」

「壁ってなんのこと?」

「ここまで来たのは、キミだけということさ。長く生きて知識も伝えてきたけれど、みんなだめだったからね」


 少し自虐気味にそう語った。

 魔女は知識を隠匿していない。

 魔法薬を作れるのは魔女だけだが、街に出向いて、薬作りを行なっている組織に本を渡したり、他にも人生の中で数え切れないほどの活動を行っている。


「それでも、他に魔法薬の精製に成功した人はいなかった」


 だからフランツは特別だった。

 世界で二人目の、小さな魔法薬師だ。


「ボクには教える才能がないみたいだからね」

「僕は色んなことをお姉ちゃんに教わったよ」

「キミが自分で育ってくれただけさ。本当はさっきみたいに時間をとって教えるべきなんだけどね」


 わずかに微笑みの中に、申し訳なさそうな感情が混ざったのが分かった。

 今のオリオンはわかりやすい。


「キミを村で拾った時は、こうなるとは思っていなかったなあ」


 遠い場所を見るように視線を持ち上げた。

 フランツの五歳の頃のことだ。

 拾われたことは、もちろん覚えている。


「どうして僕を連れてきてくれたの?」


 長く過ごしてきた今になって、疑問に思った。

 一緒に暮らしてきたが、他の誰かを魔女の旅に連れていったことは一度もなかった。


「なぜって、キミは一人ぼっちだったじゃないか。育ててくれる大人がいなかったから、このままじゃ死んでしまうと思ってね」

「そっか……」


 そうだった。

 誰も責任を持ってくれる大人がいなかったから、そうしてくれたんだった。


「あとは頑固だったからかな」

「頑固って、どういうこと」

「着いてくるといって譲らなかったよね。とうとう家まで来た時は、どうしたものかと思ったものさ」


 永く生きる魔女にとっても初めてのことだ。

 とにかく、何もかも常識はずれだ。


「キミは一度言い出したらきかないからね。しかもちゃんと理屈で詰めてくる。こんなに厄介な相手は、後にも先にもキミだけだよ」


 これは、褒められているわけではなさそうだ。

 複雑な気持ちでいるフランツに対して、クスクス笑ってかえす。


「考えると、あの頃から普通の子供じゃなかったんだねえ」

「僕は普通だよ!」

「知らない薬を持った、血まみれ魔女のボクについてきたいなんて普通の子供は言わないよ。キミは普通じゃないんだ」

「それは……」


 そうかもしれない。

 今まで魔女に同行してきたけれど、子供はみんな怖がるばかりだった。

 自分のように憧れている子はいなかった。


「でも僕も最初は怖かったんだよ」

「どういうところが?」

「お姉ちゃん、目が怖いから」

「フフ、それは出会うたびによく言われているよ」


 容姿については言われ慣れているのか、指摘されても軽く微笑むだけだった。


 目に光が宿っていなくて恐ろしい。

 病人の世話をするために服が血で汚れる。

 そんな理由から離れていった人にも多く出会ってきた。


「今はぜんぜん怖くないよ」

「そうかい」

「むしろ格好いいと思う」

「あははっ。そんなことを言ってきたのも、キミが初めてだよ」


 目を瞑って、心底、面白そうに笑った。

 十年も一緒に過ごしてきたので慣れっこだ。今は光が戻っているが、そうでない時の方が好きなくらいだ。

 フランツはやっぱり普通じゃなかった。


「お世辞でも、キミに言ってもらえると嬉しいよ」

「僕は嘘はつかないよ」

「ボクのまねっこかい」


 また笑われた。

 喜んでもらえたみたいで嬉しかった。


「楽しいなあ。キミと言葉を交わすのが、こんなに楽しいこととは思わなかった」


 しみじみと言った。


「僕もお姉ちゃんとずっと話していたい」

「ああ。もっと早くから、こういう時間をとっておけばよかったよ」

「研究で忙しいから仕方ないよ」

「まあ、それはそうかもしれないけどね」


 感情豊かに笑顔を浮かべた。

 楽しく話せることが、こんなに嬉しいことだとは知らなかった。

 できることなら、ずっとこうしていたい。

 ようやく話題が途切れて息をつく。

 すると魔女は言った。


「ボクはキミに何かしてあげられたのかな」

「えっ?」


 神妙な雰囲気になって、思わず聞き返す。

 戸惑ったフランツに真面目に言った。


「打ち明けるけれど。これで良かったのかと何度も思ってきたんだ」

「どういうこと?」

「保護して、こんな森の奥に連れ込んで。雑用をさせたうえ仕事まで手伝わせている。キミの人生を十年も貰ってしまったからね」

「でも、僕もお姉ちゃんから色々なことを教えてもらったよ」

「知識はそうかもしれない。でも、あるべき幸せを奪ってしまったのかもしれないと思うと、どうもね」


 魔女オリオンは後悔していた。

 フランツが言葉を詰まらせているうちに、話を続けた。


「街で暮らしていれば、同じくらいの年頃の子供と生きていただろう。外の世界で暮らしていれば、苦しい仕事なんてせずに済んだんだ」


 故郷を失ったことは変えられない。

 でも街で普通に育ち、人並みに幸せな人生を歩む道もあったのだ。その方が良かったのではないかと考えていた。


「どうするべきだったのか、今でも分からないんだ」


 幼いフランツは拒否した。

 魔女も悩んだ末に、その意思を認めた。

 結果、終わりのない日々の輪に連れ込んでしまった。


「人生を変えてしまったボクは、何かをもたらすことができたのかな」

「たくさんもらったよ!」


 フランツは強い声で訴える。


「僕、お姉ちゃんと暮らせてよかった!」

「幸せだったということかい」

「うん」

「そうかい」


 魔女は安心したように、そして少し苦しそうに笑みを形作る。

 

「ボクもたくさん幸せを貰ったよ。こんな土地で、ボクのような外れ者と暮らしてくれてありがとう」

「お姉ちゃん」


 膝の上に置いた手に、そっと触れてくる。

 フランツの心臓が脈打った。

 迷い、それから辛い気持ちで言った。


「ねえお姉ちゃん」

「なんだいフランツ」

「このまま出ていくなんて嫌だよ」


 本心を訴える。

 魔女を誰よりも想っている。

 だから、やっぱり、どうしてもここから出て行きたくなかった。


「いなくなったら、どうやって恩返しすればいいの?」

「幸せな人生を過ごしてくれれば十分さ」

「でも、それじゃあお姉ちゃんが幸せになれないよ……!」


 フランツは知っていた。

 森の魔女オリオンは不幸せだ。

 誰もが羨む永遠の命を持ち、多くの人が憧れる技術を持っているが、それは幸せの要素にはなりえない。

 雲の上の人は孤独で、ずっと傷つけられてきた。

 

「ずっとお姉ちゃんを支えたいんだ。寿命だって関係ないよ。お願いだよ」

「その気持ちはとても嬉しい。でも、それはだめだよ」

「なんで!?」


 フランツが叫ぶ。


「僕は役に立つよ! 一緒に呪いを無くしたいのに、どうして!?」


 納得できなかった。

 自分が憧れを追ってきたのは、一緒に夢を叶えるためだったのに。

 しばらく黙り込んだあと言った。


「永遠の時間を過ごす人間が、世界からどう扱われるか、分かるかい」

「え……?」


 神妙な声を出したオリオンの言葉を聞く。

 すると白衣のポケットから何かを取り出した。

 瓶詰めされた銀色の液体だ。


「あ……」


 美しい月の光を閉じ込めたようなそれは、魅惑的な雰囲気を放っていた。

 多くの魔法薬を目にしてきたフランツからしても異様だ。宝石のように美しい。


「夢を叶えるためにボクが作り出した薬さ」


 それが何であるかは、すぐに察した。


「不老薬……?」


 オリオンは頷いて肯定したあと、語る。


「これを飲んでから、幸せは全て消えてしまったんだ」


 白銀色の薬を、どこか懐かしむように見つめている。

 飲ませるために持ってきたわけでないことは明らかだった。最初からこの話をするつもりだったのかもしれない。


「何かあったの……?」


 恐ろしかったけれど、聞かずにはいられない。

 オリオンは少し間をおいた後に語る。


「最初に魔法薬を作ろうと思った理由はね、キミと同じ。故郷を失ったことがきっかけだったんだ」

「お姉ちゃんもそうだったの」

「ああ。そうなってから初めて、万能な力を持つ魔女になろうと思ったのさ」


 両親を失っているフランツは、魔女の過去に今までにないほど興味を惹かれた。


「ボクは賢かったから、最初から魔法薬を作ることができてね。呪いをある程度緩和できる薬を作り出したんだ」

「昔からすごかったんだ……!」


 村生まれの自分なんかとは違う。

 けど変だ。

 誇らしい表情はなく、なんだか辛そうだ。

 治す薬を作ったのに幸せになれなかったのだろうか。フランツは疑問に思った。


「そこからが本物の地獄だったよ」

「何があったの?」


 フランツには、何が起きたのかさっぱり分からなかった。


「大勢を殺した魔法使いだと言われて、総出で国を追われたのさ。拷問を受けたこともあるよ」

「そんな」


 フランツは青ざめた。


「何があったの。どのくらいの人に追いかけられたの?」

「さあ。どの街に行っても殺されかけたから、細かくは覚えていないなあ」

「…………」


 何も言えなかった。

 村を追われた経験は何度もある。

 しかし国となると、規模が全く違う。

 一体どんなことになるのか、想像もつかなかった。


 今でこそ、魔女オリオンは多くの人が知っている。

 多くの薬師からも保証されて、一定の信頼を得ている。

 しかし最初から信頼があるはずない。

 するとどうなるかは、明らかだ。


「不老薬は不死はもたらさない。苦痛は普通に生きるのと変わらない。何度も傷を負って、命からがら逃げ出してきたんだ」

「そんな……」

「家族も友人も失って一人ぼっち。飢えながら暮らした日々のことはまだ夢に見るよ」


 自分が味わった境遇とは比較にならない。

 想像することさえできなかった。


「薬で感謝してくれた人もいたけれど、すぐに寿命がきて死んでしまってね。ボクはあっという間に世界から取り残された」


 魔女オリオンの寿命は無限だ。

 途方もない人生を孤独に過ごすうちに感謝してくれた人も、罵倒してきた人もいなくなっていた。


 どこで人生を終わらせるか決めている。

 呪いで苦しむ人がいなくなったときだ。

 それまでは、死ぬことができない。

 それまでは、孤独に生き続けなければいけない。


 だからフランツは踏み入ってはいけない。


「それなら僕が……!」

「ダメだよ」


 フランツは思わず立ち上がった。

 言葉を遮って断じる。


「キミの申し出は嬉しいけれど、それだけはダメだ」


 辛い感情が滲み出ている。

 光の戻った瞳が揺れているのを見た。

 また、何も言えなくなってしまう。


「ボクの欲でキミを不幸に陥れることができない」

「そんなの……」

「後悔させてしまったら、どう謝ればいいのか分からないんだ」

「お姉ちゃん!」

「人を救うことなら外の世界でもできる。どうか許してほしい」


 オリオンは涙をポタポタと落とした。

 銀色の不老薬を震える手で握りしめている。

 

「この道を歩くのはボクだけでいいんだ」

「お姉ちゃん」


 フランツは、喉の奥にかたまりが詰まってしまったみたいな不快感があった。


 僕も一緒に生きたい。

 その一言が、詰まって出てこない。

 オリオンは白衣の袖で涙をぬぐった。


「ちゃんと話せてよかったよ。言葉にしないと伝わらないからね」

「…………」


 薄い微笑みに戻っていた。

 結局、フランツはその後も何も言えなかった。

 何を話したのかは覚えていない。

 気が付いた時には一日が終わっていた。

 フランツの部屋から魔女は去った。

 



 翌日の朝。

 魔女の瞳からは、元通りに光が失われていた。


「やあ、おはようフランツ」


 感情を失ったような笑みを見て、やるせない気持ちになった。

 昨日の出来事は夢のようだった。

 薬の影響で感情が昂っていたのなら、もう昨日のような話はできないだろう。


 受け入れてくれることはない。

 この家を出ていくほかにないと、そう思わされた。


(お姉ちゃんは、不老薬はくれない)


 それが分かってしまった。

 何年経っても居座れば、気持ちも変わってくれると思っていた。

 だが、どんな手段を使っても、願いを叶えてくれることはない。

 目を盗んで薬を飲むことはできるだろうが、それは重大な裏切りだ。そんな手は絶対に使いたくはなかった。

 

「嫌だよ……」


 昼間からベッドに横たわったフランツはつぶやく。

 今は他の何も手につかなかった。

 諦めるほかに道はない。

 でも一人残して出ていくことだけはできない。


 外の世界で暮らす自分なんて想像できない。

 矛盾に翻弄されて、頭がおかしくなりそうだった。


「フランツ!」


 他の何も手につかなくなった頃。

 オリオンの張り詰めた叫び声を聞いて、憂鬱な気分が消し飛んだ。

 何が起きたのかをすぐに察した。

 落ち込んだ気分は吹き飛んで、慌てて外行きの服に着替えて階段を駆け下りる。


「お姉ちゃん!」

「呪いの反応が出ている。用意ができたらすぐに出かけるよ」


 食卓にはすでに、羊皮紙を貼り合わせた大地図が広がっていた。

 魔女が示したのは、不可思議に浮かんでいる赤い光。呪いの発生した場所を大まかに示す魔術光だ。

 フランツはすぐに道具を鞄に詰める。

 それを背負い、魔女と二人で家を出た。


 道中、辛気臭い雰囲気はどこにもない。

 張り詰めた空気で、お互いに余計な言葉を交わすことはなかった。


「目的の場所までは遠い。できるかぎり急ごう」

「どのくらい広がってるかな」

「あの地図は反応が遅いけど、まだ光は拡散していなかった。深刻な事態には陥っていないはずだよ」


 呪いを感知するための仕掛けは、あらかじめ用意されていた。

 だが、その精度は高くない。

 光の浮かぶ場所を探すのは湖の中に落とした金貨を探すようなもので、三日ほど遅れが出る。それに、どんな呪いが広がっているかも分からない。


 適切な薬を作るためにも、まずは現地に行って確かめなければいけない。

 魔女の決めた非常時の動き方だった。




 のどかな農村にたどり着いた。

 麦畑の入り口で倒れている人を見つけて、フランツは慌てて駆け寄った。


「あ……うぁ、ぐ……」

「っ、大丈夫ですかっ!?」


 畑仕事の格好をした成人男性は、脂汗を滲ませながらフランツを見る。

 見た目におかしなところはない。

 しかし、その体から呪いの魔力が漂っていることに気付いた。


「体調が悪いようだね。ボクが家まで連れていこう」


 オリオンが声をかけると、顔をあげる。


「だ、誰なんだあんたら……?」

「旅の者さ。これも何かの縁だ、お節介を焼かせてはくれないかい」

「ぁ、がっ、うううっ……」


 フランツは村全体を確認した。

 いくつか家があって、扉はどこもしまっていた。呪いの気配をひしひしと感じた。

 薄々予想していたが、ここにはすでに広まってしまったらしい。


「病気のように見えるけど、いつ頃からそうなったんだい」

「そんなこと聞いて何になる。早く降ろせ、よそ者に助けてもらいたくはないっ……!」


 男は友好的な雰囲気ではなかった。

 閉鎖的な雰囲気を漂わせている。


「命あってのことだ。ボクに命を繋ぐ手伝いをさせてくれないかい」

「う、ぐぐっ」

「協力してほしい。このままだと苦痛を感じたまま逝ってしまうよ」

「わ、わかった、助けてくれ……頼む、う、がはっ」


 弱気な声を吐いて、とうとう折れた。

 呪いの苦痛が凄まじかったようだ。

 そして了承の言葉を聞いた二人はすぐに動き始める。




 魔法薬の開発が始まった。

 呪いは千差万別で、同じ薬が共通して使えることはない。

 村人にかかった呪いの魔力を分析する。

 数日かけて対抗魔法を込めた魔法薬、薄赤色の液体が完成した。


「これで効くはずだ」

「よかった!」


 村の建屋の一室で、喜びあった。

 机の上には持ってきた魔法の地図を広げている。

 光の範囲は大きく変わっていない。

 呪いが拡散した時は赤い光で埋め尽くされていて、かなり初期の段階で抑えられたことを示していた。

 これなら、今回は誰も死なせずに済む。

 そう思っていた。




「ふざけるなっ……!」


 魔法薬の入った薬瓶が、粉々に砕かれる。

 背後で見ていたフランツは、心が引き裂かれるような思いだった。

 こうなることは、薄々分かっていた。

 勝手に期待してしまっていた。


「誰がこんなものを作れと頼んだ、よそ者に助けてもらうと思うか……!」


 村人が集められた集会場。

 呪いにかかった他の村人からの注目を集めていた。


「キミが助けてくれと言ったんじゃないか」

「黙れ! 俺がそんなことを言うはずがないッ!」


 目を赤く充血させた男は、早くも息を切らして膝をついた。

 重度の呪いの症状が出ている証だ。


「その血のような怪しげなものが薬だと。騙せると思っていたのか!」


 自分が言ったことも忘れて、魔女オリオンを指差して罵倒した。

 すると他の村人も同調してくる。


「毒が入っているに違いない」

「私たちを騙して何が楽しいんだッ!」

「全部お前のせいだ! 出ていけ魔女ッ」


 彼らは口々に、魔女を否定する。

 床には、苦心して作り上げた魔法薬が無残に散っている。


 どうしてこうなってしまうのだろう。

 救いたかったのに、手は降り払われて、そのうえ否定される。

 フランツは悔しさに耐えていた。


「……ボクは、君たちを救いたいだけなんだ」


 オリオンはぽつりと言う。

 傍にいるフランツにしか声は届かなかった。


 聞き入れてもらえなかった。

 魔女を嫌う病人を残して、二人で集会場の外に出ていく。

 外は曇りの天気。

 今にも雨が降りそうな気配が漂っていた。

 フランツは悩む。


「お姉ちゃん、これからどうしよう」


 ここはもうだめだ。

 しかし、諦めるわけにはいかない。

 近隣には他の村だってあるのだ。

 本当ならすぐ次に向かうべきだが、それだとこの土地を見捨てることになってしまう。


「いったん時間を置くために、他の村に行くのがいいのかな」


 悩んで魔女に意見を求める。

 しかし、返答が帰ってこない。

 フランツは魔女の背中を見つめる。


「お姉ちゃん?」


 立ち止まったまま動かない。

 状況は思ったより悪くないが、急がなきゃいけないのに。


「……ああ」


 聞いたことがない声を出した。

 オリオンは天を仰いで、片手で顔を覆った。

 フランツは、気を遣いながら尋ねた。


「どうしたの?」

「何でもないさ。すぐに他の村に行かないと……」


 しかし、言葉はどんどん弱くなっていく。

 大きく息をついて段差に座り込んだ。

 片手で顔を覆うようにして、額を抑えている。


「だ、大丈夫!? まさか呪いに」


 呪いにかかったんじゃないか。

 そう言おうとして、そうではないことに気付いた。


「あ……」


 隠れた顔の下から涙がこぼれている。

 森の魔女は、感情をあらわにしていた。


「いまさらこんな風に泣くなんて、おかしいよね」


 自嘲しながら言った。

 声が震えている。悠然と構えてきた魔女は、もう限界だということを示していた。

 心が崩れかけているオリオンを目の当たりにして、口をつぐむ。


「どうしてボクは。こんなことを続けているんだろう。助けなきゃいけないのに、どうして……」


 うわごとのように繰り返す。

 初めて聞く魔女の弱音を聞いてしまった。

 胸が引き裂かれそうだった。


(平気じゃなかったんだ)


 十年間、どれだけ罵倒されても、うまくいかなくても笑顔だった。

 でもそれは、そういう顔の形を作っていただけで少しづつすり減ってたんだ。


 雨が降り始めた。

 厚い黒雲が、重たい雨粒を落とし始める。

 打たれて濡れても動こうとしなかった。

 フランツは立ち上がる。


「待ってて」


 十年受け続けてきた恩を返す時だ。

 立ち上がれなくなったオリオンは顔をあげる。


「どこに行くんだい……?」


 地面に下ろした鞄から、小分けにした袋を一つ取り出した。

 この村には、これが必要なんだ。

 笑顔で振り返って言った。


「あとは僕に任せて」


 そこでようやく確信を得たのだろう。

 動けなくなっているのに、降り始めた雨の中で弱々しく手を伸ばしてくる。


「だめだよ、キミが、そんな……」


 フランツは言うことをきかなかった。

 踵を返して集会場に戻っていく。

 再び扉を開いて中に入ると、いっせいに視線が集まった。


「聞いてください!」


 フランツは、薬の入った小袋を掲げて言った。


「皆さんを助けたい。これは呪いを解ける薬なんだ!」

「まだ言うか、魔女の手先め!」


 鋭い眼差しが、今度は直接にフランツを襲った。


 心臓がひりついた。

 矢面に立ったのは初めてではない。

 でも、これほどの憎悪を受けたのは初めてで、恐ろしくて震えてしまいそうだ。

 呪いにかかったことへの恨みが全て向いてきたが、フランツは泣かなかった。


「どんな阿呆が、そんな怪しげなものに口をつけるっていうんだ!」

「そうだ、そうだ!」

「これは決して毒なんかじゃない。僕が証明します」


 同調して、いっせいに責めてくる。

 それに構わずに一本の瓶を袋から取り出して、コルクの栓を抜いた。

 赤色の薬を見せ付ける。

 それを、ゆっくりと飲み干した。


「お、おい……」


 全員が黙り込んだ。

 フランツは口元をぬぐって言う。


「僕たちは、あなたがたを助けたら、すぐに出ていく」


 じっと見つめる。

 鼓動がいつになく高鳴っていた。

 ほんの少しでもいいから、これで話を聞いてくれただろうか。

 

 薬の入った袋を床に置いた。

 叶うなら、無事にいてほしかった。


「この薬は、ここに置いていくよ。どうか使ってほしい」


 これが自分にできる精一杯だ。

 去ろうとしたとき、背後から声がかかった。


「これで本当に、治るのか」

「おいっ!」


 一人がすがるように聞き、一人が咎めるように声をあげた。

 フランツは思わず振り返る。

 ほとんどの村人のあいだに疑念の空気が漂っていたが、拒絶の空気は薄れていた。

 思わず、問いかけに答えた。

 

「一人一本、全員分が入っているから、今日中に飲めば大丈夫」

「…………」

「数日もすれば、また元気になるよ。ちゃんと全員分入っているからね」


 それだけ言うと、尋ねた一人は安心したようにうつむいた。

 雰囲気が明らかに変わった。

 みんな袋の中の薬を見ている。


「どうか、生きてください。さよなら」


 やれるべきことはやった。

 よそ者の自分がいても、他にできることはない。

 フランツが集会場を出た。

 すると背後から声が聞こえてきた。


「俺は飲むぞ。こんな苦痛はうんざりだ」

「お前ッ、あんな連中の言うことを信じるのか!?」

「うるさいわね! どっちにしろ死ぬなら、早いか遅いかの違いでしょう!」

「介抱されておいて、その言い草、恥ずかしくないのか」


 争い合っているようだ。

 この村の行く先は彼らが決めることだ。

 どうなるか分からないが、願わくば、多くの人が助かってほしい。


 顔を背けて立ち去る。


「何と言ったらいいんだろうね」


 土砂降りの雨の降る道の先で、灰色に濡れた白衣をまとったオリオンが待っていた。


「危険なことをするなと叱るべきなのかな。それとも、自分の無能を悲嘆に暮れるべきなのか」


 涙の痕は跡形もない。

 薄らと笑みを浮かべている。

 深い後悔の混ざった笑みだった。

 

「どっちも嫌だよ」

「なら頑張ったキミを褒めるべきなのかい。どうすればいいか分からないよ」

「それなら、褒めてほしいな」


 迷わずに言った。

 しかしオリオンはそうせずに、首を横に振った。


「あんなに酷い失態を見せて、失望させたボクが何を褒めるっていうんだい」

「失望なんてしてないよ」

「情けない弱音を吐いてしまったのに、それでもかい」

「だってお姉ちゃんは普通の女の人だから」


 その返しは予想外だったのだろう。

 面食らったような表情を浮かべた。

 フランツには、魔女オリオンが、途方もない夢を持った心ある人間だと分かっていた。

 だから伝えなければいけなかった。


「僕の夢も同じだよ」

「えっ……」

「この世界から呪いを無くすんだ」

「でも、それじゃあキミが」

「夢を叶えても、誰にも褒めてもらえないかもしれない。それでもいいよ」


 この世でただ一人の人を除いて、そうなっても構わなかった。

 フランツは夢を諦めない。

 

「お姉ちゃんのためじゃなくて、僕がしたいからするんだ」

「外に行かないと、幸せになれないのに」

「僕はそうは思わない」


 オリオンは何かを堪えるように唇を噛む。

 永遠に歳を取らないなんて、不幸になるだけだと言い聞かせてきた。

 どのように不幸になるのかも教えてきた。

 しかし、魔女には一つ見落としていることがあった。


「ボクといてもいいことなんて……」

「ここが一番、幸せになれる場所なんだ」


 一瞬たりとも迷わずに言う。

 大雨に打たれて、まぶたの内側に水が入ってもひたすらに訴える。


「お姉ちゃんが必要なんだ」

「…………」

「苦しんで、辛い想いをしているお姉ちゃんを置いて行けない。僕の幸せは、支えることなんだよ」

「ふ、フランツ。キミは」

「苦しくても悲しくてもいい。一緒に夢を叶えよう」


 とっくに覚悟はできていた。

 固く決意をした相手に気遣いは無意味だった。


「そうかい」


 遠ざけようとしているのに。

 想いとは裏腹に、垣根を踏み越えてきてしまう。

 オリオンの中に特別な気持ちが生まれた。


「キミにとって、ボクはそこまでの価値があるというのかい」

「うん」

「永遠に終わらない人生を歩み続けることになっても、いいというのかい」

「絶対に夢を叶えるんだから、永遠には続かないよ」


 いつの間にか涙をこぼしていた。

 雨に紛れて落ちていく。

 幸せになれることなく力尽きる運命だったのに、幸せが心の隙間を繋いでくれる。

 目の前の弟子がたまらなく愛おしい。


「ボクを、支えてくれるのかい」


 ずっと寂しかった。

 孤独に生きてきた魔女は、孤独でいたくなくなってしまった。

 

「ずっと一緒に、生きてくれるかい」

「もちろんだよ」


 フランツの答えに泣いてしまう。

 最初に出会った時からそうだった。

 後ろをついてきて、ずっと背中を追いかけてきた。

 いつの間にか同じ場所に来てくれた。

 これからも一緒に居続けてくれる。


「僕、何でもするよ。だから、これからも一緒にいさせて」

「……はは。キミには負けるよ」

 

 小娘のように頬を染めながら目をつむる。

 嬉しそうに微笑む。

 いつものように悪戯っぽく言った。


「言ったからには、もう取り消させないよ」

「うん」


 諦めて、ようやく全てを受け入れる。 

 

「ずっと手伝わせてね」

「言われなくても、今じゃボクのほうがキミを必要としているよ」


 フランツは満面の笑みを浮かべた。


「おいで」

「えっ、どうしたの」

「いいから」


 誘われるがままに近づいて抱きあう。

 フランツは顔を真っ赤に染めた。


「お、お姉ちゃん……!?」

「いいから、こうさせて」


 フランツは恥ずかしがっていた。

 大雨が降り続いている中で、オリオンの魔法の光が二人を覆った。

 光は降り注ぐ雨を弾く。

 水をたっぷり吸った服から水を払った。

 もう雨には濡れていない。

 体を離してから、言う。


「次の土地に行こう」

「うん。荷物は僕に任せて」


 これからは二人で夢を叶えていくのだ。

 薬を詰め込んだ鞄を背負って、魔女の姉弟は歩き出す。

 








 フランツは年に一度、必ず故郷の村に戻る。

 両親や、家族のように大切にしている人たちが、土の下で眠っているからだ。


「そっちに行けなくてごめん。お父さん、お母さん。みんな」


 毎年のように謝っていた。

 寒村に不釣り合いな立派な石碑が設置されている。

 魔法の力と丁寧な手入れによって、ここ数十年で汚れたことは一度もない。


 フランツは呪いで故郷を失った。

 自分だけが生き残って、こうして長い命を繋いでいる。

 こうして欠かさず報告することが、天国に行ってしまった家族への手向けだった。


「まだ僕は、こっちで頑張るから。待っていてほしいんだ」


 今は、魔女とともに生きている。

 みんなはこういう風に生きていることを喜んでくれているだろうか。

 それとも怒られるだろうか。


 目を開けて、空を見上げる。

 フランツは気持ちのいい笑顔を浮かべた。

 晴れわたった青空と、爽やかな風。

 祝福してくれているみたいに思えた。

 

「きっと終わらせるよ」


 永遠を生き始めたフランツの目は、爛々と輝いていた。





「おかえり、フランツ」

「ただいま、師匠」


 森の中に帰ってくる。

 いちばんに出迎えてくれたのは、フランツと同じように変わらない白衣の女性。

 光を宿さない瞳を持つ魔法薬学の第一人者であるオリオンがすぐさま手をとってくる。


「ずっと待っていたんだ。キミが戻ってきてくれないと日々に張り合いがなくって困ってしまうよ」


 早口で言う|師匠≪・・≫に呆れ笑う。


「師匠、さすがにもうちょっと自立してよ」

「キミがいないと落ち着かなくってね。でもボクをこんな風にしたのはキミだよ」

「それはそうだけど……」


 得意げにふんぞりかえるオリオンを見て、呆れつつも、笑みがこぼれてしまう。

 時代が変わった今でも、森の魔女は外の世界で名を轟かせている。

 世界でたった一人尊敬する恩人。

 特別な人に頼られるのは嬉しかった。


「さあ、昨日の続きだ。新しい仮説を証明しようじゃないか!」


 手を引かれて、家に連れ込まれる。

 よろめきながらついていった。


「そんなに急いでどうしたの?」

「長年の研究が実って、とうとう呪いを無効化することができるかもしれないんだ。興奮せずにいられると思うかい!」

「分かるけど、その前にご飯を食べないと倒れちゃうよ。師匠は何が食べたい?」

「おっとそうだったね。腸詰めを挟んだパンが食べたいなあ。キミの作ってくれる料理はどれも美味しいけれど、あれは絶品だった」

「分かったよ。すぐに作るから、五分だけ待ってね」


 そうして魔女の家に戻っていく。

 見た目はまったく変わらない二人だが、中身はあの頃からすっかり変わった。


 手に入らないはずの幸せを手に入れた。

 遥かに遠かった憧れに追いついた。

 二人とも、呪いで死にかけていた頃には想像もしなかった世界を生きていた。

 

「ねえ師匠」

「何だい?」


 魔法薬の研究が終わりを考えられるほどに進展した今、ふとした疑問が湧いてきた。


「呪いをなくすことができたら、僕たちどうしようか」

「そんなの答えは決まっているじゃないか」


 オリオンは薄い微笑みを浮かべて答えた。


「終わる時まで、キミと一緒に人並みに暮らすんだよ」

「……!」

「そうなるために頑張っているんだ。あと一息、一緒にやってやろう」

「うん。やり遂げようね、師匠!」


 魔女の師弟は笑い合った。

 慣れた手つきで指先を絡めあう。

 二人の指には約束のリングがはまっていた。


 孤独だった二人は、幸せを手にしていた。








 

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