第132話 前途多難
涼子と春香が起きて来た。
拓哉は二人に頼み、ここにいる冒険者や商人達の分まで温かいスープを作って貰う。血を流した者が多い為、オーク肉が入ったスープだ。
スープが出来上がり外へと持って出ると、既に冒険者や商人達は身を起こしていた。
「疲れてるだろうから、これでも飲んでくれ。ただ、パンとかは無いから、手持ちの物を食べてくれな。」
実際は堅パンではない柔らかいパンがあるのだが、そこまでする義理は無い。
手持ちの堅パンでも食べて貰いたい所だ。
「すまない。これだけでも助かるよ。」
みな一様にそう言いながら、手持ちの木のコップに注ぎ、自分達のテントへと戻って行く。
最後にやって来たのは、怪我の酷かった商人とその相方だった。
相方の商人が怪我をしていた商人に肩を貸しながら歩いて来る。
「昨晩は、すまない。お陰で、こいつの命が救われた。」
相方の商人はそう言いながら、頭を下げる。
「昨日は、助けて貰い感謝する。君達のお陰で、こうしてまた歩く事が出来たよ。」
怪我をした方の商人もそう言いながら頭を下げる。
「まあ、目の前に居たんだ。当たり前の事をしたまでだ。気にするな。それよりも、しっかりと食べて回復しないと、この先が辛いぞ?」
「ああ、確かにその通りだ。ただその前に、恩人の名前を教えてはくれないだろうか?流石に、名前も知らないと言うのは、恩人に対して失礼なんでね。俺の名前は、チェスターだ。ロコスの町で商人をしている。」
「俺の名前はコリンだ。」
チェスターが怪我をしていた方で、コリンがその相方だ。
「俺は、タクヤだ。オルトラークで、冒険者をしている。」
拓哉がそう言うと、後ろに控えるカルヴィンが余計な事を言う。
「主よ。冒険者では無く、今は貴族だろ?」
「そうなのだな~。主は、貴族なんだな~。」
それにつられて、ブロルまでもが余計な事を言う。
余計な気を使わせまいとした、拓哉の気遣いが台無しだ。
その結果がどうなるかと言うと、目の前の二人が驚き、慌てふためき始める。
「「えっ?貴族様!?」」
絶妙なコンビネーションでハモる二人。
そして、何故そんな動きが出来るのかと言わんばかりに、飛び上がり、そしてそのまま土下座をして頭を地面へと付ける。
「き、貴族様とは終ぞ知らず、ご、ご無礼な物言い。失礼を致しました。」
「何卒、何卒命だけはご勘弁ください。」
拓哉は、頭を抱えた。
「あ~、だから言わなかったのに。」そんな感じだ。
そして、拓アは二人の方を向き念を押す。
「カルヴィン。ブロル。こうなるから、今後俺が貴族って事は喋ったらダメだからな。分かったな?」
「すまぬ、主よ。承知した。」
「主、分かったのだな~!」
「頼むぞほんとに。」そう思いながら、再び首を二人の方へと向ける。
そして、見えた光景に顔に手を当て俯く。
「えっ?マジか~。」
先程スープを受け取った冒険者達までもが土下座をし、頭を地面へと付けて「すみません。すみません。」と許しを請うていたのだ。
「はぁ。別に、謝る必要は無いと思うんだが。そもそも、名ばかりの爵位だし、元は冒険者に間違いないんだから。だから、全員頭を上げてくれないかな?」
拓哉はそう言うが、誰一人として頭を上げようとはしない。
これには理由がある。
やはりと言うか、貴族と言うのは一般人からすると理不尽の塊なのだ。
全ての貴族がそうではないのだが、中には「俺の言う事を聞け。聞かない者は斬られても当然」と思っている貴族が居る。だからこそ、一般人はなるべく貴族に関わらない様にしているのだ。
「あ~。全員、許す!だから、普通に話してくれて構わない。不敬とか言うつもりも無いから、普段通りにしてくれ。」
しかし、彼らは顔を見合わせ「そう言ってるけど、どうする?」みたいな感じでオドオドとしている。
「めんどくさいな~もう。いいって言ってんだから、さっさと立って飯食えよ!」
それで漸く、渋々とだが立ち上がり朝食の続きをし始める。
「全くもう。んで、二人は何でオルトラークに来たんだ?マホヴァーに向かってるって事は、帰り道なんだろ?」
拓哉は二人に聞いてみた。
商人なのだから物を売りに来たか、仕入れに来たかのどちらかだとは思う。
が、馬が殺されており、今後どうするのかも少し気になった。
「は、はい。えっと・・・今、オルトラークで流行の、服を仕入れに来たんです。はい。」
「それなりの量を購入し、馬車に乗せてロコスに戻る所だったのですが、馬が殺されてしまいましたので。どうしようかと思ってます。はい。」
先程までとは打って変わった二人の物言いに、拓哉は「ダメだこりゃ」と思った。
ただ、トウジョウ商会の商品を仕入れたと言う言葉に、少し何とかしてやりたいとは思う。
「ん~。うちの商品を仕入れに来たのか。ん~、ロコスねぇ。」
拓哉の言葉に、頭に?だ飛ぶ二人。
「うちの商品?」
「うちの商品とは?」
「ん?トウジョウ商会の服なんだろ?その仕入れた服って?」
「ええ。」
「はい。」
「俺、タクヤ・トウジョウ。トウジョウ商会の一応会頭になってる。今は更に、国王に騙されて子爵貰ったけど。」
多分、貴族に殺されるのは、こう言う人だと思う。
そもそも、国王に騙されたなんて、そんな不敬な発言は絶対に誰も出来ない。
「でだ。俺達もこれからロコスに行くんだけど、何ならマホヴァーまでなら荷物を持って行こうか?ただ、こっちで一旦預かる事になるから、それでもよければの話しだが。」
チェスターとコリンは顔を見合わせ考える。
そして、結論を出したのか、二人は拓哉に頷いた。
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