第4話 あと1歩
すぐ後ろから、背中にはりつくようにしている奴の、人の気配を感じる。
そいつは俺の後ろに立って、ぴったりと寄り添いながら、息をひそめて何かの機会を窺っていた。
油断した。
いつもは人気のない道を歩かないようにしていたのに、今日に限って通行止めだったから。
交通事故が起きて、通り道が封鎖されていたから。
急ぎ足で、人気のない道を通り抜けようとしていたのに。
けれど、その隙を見逃す奴じゃなかった。
信号が赤になったからって立ち止まるべきじゃなかった。
「せーんせ!」
愛らしい声。
けど、恐ろしい行為。
いっきに俺に距離をつめてきたそいつは、もう一生俺と離れたくないとばかりに抱き着いてくる。
そして、誰にも引きはがされないようにと、俺とそいつを物理的にくっつげやがった。
「いてぇ、くそっ、いてぇ」
血が止まらない。
血があふれ出している。
「あはっ、いたいですぅ。でも先生と同じ痛み。先生の体の中ってどうなってるのかな。ぜんぶみせて、知りたいなっ」
俺の全部を知りたいとほざいたその生徒は、持ち手のない両刃の刃物で、自分も俺も一緒に切り刻みながら笑っていた。
「血って、こんな風になってるんですね。人間の体の中身ってこんな風になってるんだ」
意識が落ちていく。
教え子が俺の後をつけまわしてくる。
でも、これで今日からは悩まなくて済む。
俺はその恐怖からは、やっと解放されたのだ。
教え子が俺の後をつけ回してくる 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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