21話 トラブル
昼休みも明け、午後の仕事に取りかかる。
ゲーム制作は一ヶ月で予定通り順調に進行している。
彰の午後の仕事は、高梨君とシナリオの打ち合わせだった。
ひとまず彰は高梨が書いてきたシナリオに目を通す。
一通り読み終えたところで彰は気になった点を高梨に伝えていく。
「まず、異世界に転生する段階で女神に話しかけられるところなんだけど、これはゲームだから、ユーザーに三つの武器の中から一つ選ばせる方式にしよう。いきなり最強クラスの武器を与えてはゲームが面白くなくなっちゃうから。」
「あぁ、たしかにそうですよね。異世界もの書くときはどうしても”なろう”のテンプレみたいに主人公を強く書いちゃうんですよ。」
「まぁそこは直しといて。あとは、主人公が出会ってパーティメンバーになる3人のキャラの名前、僕が決めてもいいかな?」
「別にかまわないですけど、こだわりあるんすか?」
「まぁね。まず、金髪アーチャーのこの男はマットソン、ヒーラーの女の子はメイ、そして、今作のメインヒロインになるこの女の子はエマ。」
「わかりました。それ以外のキャラはいいですか?」
「うん。大丈夫。他のキャラは任せるね。」
今、彰が指名したキャラの名前は彰が異世界で実際に一緒に旅をした仲間の名前だ。
「山城さん。他シナリオで気になる部分はなかったですか。」
「えーっと、とりあえずこの序盤まででは問題ないかな。」
「わかりました。中盤、終盤でき次第またすぐに持ってきます!」
こうして彰はシナリオのミーティングを終え、全体の進捗状況を聞いて回り、それが終わったタイミングで退勤した。
今日は八重樫は残業するようだったので、彰は一人で帰ることになる。
ここのところ、彰は八重樫と帰ることが多かったので、彰は隣に彼女がいないことに少し寂しさを覚えていた。
アパートは一緒なものの、いつも当たり前のように隣で一緒に帰ってくれる彼女といられる時間は以外と幸せなのかと、ふと頭の中で考えたりする彰であった。
・・・
家に着いた彰は、夕食を作り食べていた。
するとスマホに一件の着信が入った。
画面を見ると、笠原と表示されていた。
仕事のことかと思い、すぐに出たが、想定外の事態が待ち受けていた。
「もしもし?どうした?」
「もしもし、山城さん。助けてください...」
押し殺したような声で笠原はそう答えた。
「ど、どうしたの?今どこにいるの?」
「先輩のアパートの近くのコンビニのトイレの中です。私さっきから誰かにつけられてて...」
「わかった。すぐ行くから、トイレから出ないで。コンビニ着いたらまた連絡する。」
「すいません...」
今にも泣きそうな笠原を放っておけず、部屋を飛び出し、コンビニへ向かった。
3分もしないうちにコンビニに着き、笠原に電話を入れる。
「もしもし、笠原、コンビニ着いた。もうトイレから出てきて大丈夫だ。」
すると笠原は何も言わないまま、トイレから出てきた。
そして孤独感や、恐怖感から解放され、感情が不安定になり、彰の腕にしがみつき泣き出した。
「怖かったです。先輩...」
「もう大丈夫。どうする?警察に連絡しようか?」
「今回は山城さんが来てくれたので一旦大丈夫です。」
「次同じようなことがあったらすぐ警察に連絡しろよ。」
「はい...わかりました。」
「家まで送るよ。」
「迷惑かけてすいません。」
二人はコンビニを出る。
外はすでに暗く、街灯が二人をぼんやりと照らし出す。
笠原を送る道中は、怪しい気配も感じることはなかった。
とりあえず一安心だ。
と思っていたが、そんな二人を眺めるが黒い影が向かい側の道路に立っていた。
・・・
・・・
・・・
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