第11話

「サイダー」


 サイダーは、パチパチ笑った。

 青く青い、その色に魅了された人々。

 サイダーは、パチパチ笑った。


 人は人を好きになる。

 パチパチ膨れ上がる。


 好きは誰にも理解できない。

 無論、サイダーさえも。


 でも、確かに存在するその感情に、嘘など存在しない。


 証明できない愛情を持って、人と接する人間。


 そう思ったから、それで理由は十分だ。


 炭酸の抜けたサイダーは泣いた。

 膨れ上がる事を知らない、その静かな水面に写る顔は。


 流体は明日を描く。

 時間も流体で、明日を見る。


 光は個体で、揺れることは無い。


 幸せは、幸せは。


 脂汗を流した、その額に触れる物は何か。


 何も無い。


 明日に向かって、波紋を広げる。


 サイダーは笑った。

 私は幸せだと。


 空のガラス瓶が転がっている。


 天には、太陽が燦々と照っている。

 手を繋いだ私達。


 夢のように、歩く。


 セミも寂しそうに泣いている。

 森には水が流れ、草木を生やした。


 公園のベンチに転がる水筒。

 中身はまだ残っていて、優しく座っている。


 水の音、二人は遊んでいる。

 

 河に魚が泳いでいる。

 濡れたガラス瓶が光を反射している。


 ずぶ濡れになった服を着て、パチパチ弾ける二人組。


 不意に風鈴の音が聞こえた。


 現れたクーラーボックスには。


 あのサイダーがあった。



 パチパチ、パチパチ、弾けた水面。


 青色の液体が、頬を津たり河に落ちていく。


 すっかり濡れた髪をかき分けて見えるは、君の顔。


 微笑みかけたその顔は。

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