第47話

「龍神祭りの街はこの川向こうだ」

 この川幅がどれくらいかは分からないが、二時間以上は乗っていただろう。やっと対岸に着き、乗客がぞろぞろと降りて行った。大きな船だが、これほど多くの人たちが乗っていたのかと思うほどだ。

「降りるぞ」

 僕らも船を降りた。

「腹が減ったな」

 シュリが言うと、

「そうだな。どこかで食事をとろう」

 とジュペが言った。この街は多くの人が行き交うだけあって、多くの商店や食事処があった。

「ここにしよう」

 ジュペが選んだ店に入ると、強面の男がぎろりとこちらを見た。店の人のようだが、愛想が悪いどころか、危険な感じがする。僕はゴドーを見た。彼はそれを気にするふうではなかったから、きっと大丈夫なのだろう。僕らが席に着くと、強面の男が無言で水の入ったコップを五人分置いた。

「食事をとりたいのだが、何があるかな?」

 ジュペは臆することなく言った。

「いらっしゃい。あら、珍しく可愛いお客様ね」

 強面の後ろから小柄な女性が現れた。強面は黙って奥へと入っていった。

「ごめんなさいね。彼、無口なの。料理は彼が作るの。メニューはこれといってないけれど、お肉とお魚、それと野菜、何がいいかしら?」

「私は肉が食いたい。シュリは?」

「わたしは魚と野菜」

「僕は肉と野菜。ユーリは?」

「僕は肉と魚と野菜も食べたいね。果物はあるかな?」

「ええ、ありますよ。旬の物を用意するわね。そちらの方は?」

「俺は何でもいい」

「分かりました」

 しばらくして、野菜、果物、肉に魚の料理が運ばれてきた。あの強面には似つかわしくないが、見栄えの良い盛り付けだった。

「おいしそうだね」

 ユーリが言うと、強面が睨んだ。ユーリはその視線を気にしていないようだ。

 腹が満たされたところで、小柄な女性が皿を片付けに来た。

「ねえ、あなたたち、旅をしているの?」

「はい」

「ここは初めて?」

「僕は初めてです。この街では龍神のお祭りがあると聞きました」

「ええ、そうなのよ。三年に一度ね。今年がその年になるのだけれど、最近、旅人から、よくない噂を聞いたのよ。あなたたちも知っているのかしら。闇の話しを」

「はい。残念ながら、闇がこの世界を侵食しています」

「あなたたちも闇から逃げてきたの?」

「いえ、僕たちは闇を追いかけています」

「あなたたち、もしかして……」

 ゴドーがそれ以上しゃべるなと僕を征した。小柄な女性もそれを察し、言葉を止めた。

「勘定を」

 ゴドーが言うと、ジュペが紙幣を一枚渡した。


 僕らは無言のまま店を出たが、ゴドーからは殺気が漂っていた。先ほどの店の客には目つきの悪い者たちがいた。僕らの敵かは分からないが、闇の者でもなかった。自分が軽率だったことを反省した。僕らが何者で、何を目的で旅をしているかを、話していい相手ではなかったのだ。

「ごめんなさい」

 ゴドーは鼻を鳴らすだけで何も答えなかったが、怒っているふうでもなかった。

「謝らなくでもいいさ。大したことじゃない」

 ジュペは僕の肩に手を置き言った。

「闇の話しはみんなどこかで耳にしていると思うよ。僕も旅の途中で闇に襲われた街を見た。みんな怯えているんだよ。為す術もなく、ただ逃げるしかないからね。だから伝説の勇者を求めている。誰が勇者なのか知りたがっているんだよ。勇者が来てくれたら自分たちは救ってもらえると思っている。勇者を見つけたら足止めしたいと思うでしょ? でも、足を止められてしまったら、闇の浸食は止められなくなる。僕たちはまだ旅の途中だからね」

 ユーリは僕の間違った行動を咎めず、優しい言葉で諭した。

「そうだったね。闇の帝王はまだずっと向こうにいるんだ。先を急がなくてはいけないね。ユーリありがとう」

 ユーリは優しく微笑んだ。本当に心が癒される。

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