第56話
ヤマトは辰輝の闇に気付いていた。人に見せない、気付かせない、心配させない心の闇。辰輝は一人で戦っていたのだ。苦しかったに違いない。辛かったに違いない。けれど、彼は一人で抱えていたかったのだ。
早百合に笑顔が戻った。今度は辰輝の番だ。
次の日、学校が終わり、もみの木に帰ると、ヤマトは辰輝の部屋に行った。
「君は夢を見るのですか?」
「いや、見ない。でも、夕べは夢に太郎が出てきた。他の奴もいた」
「ゴドーも一緒でした」
「そうか。あれが向こうの世界なんだな」
「そうです。太郎が向こうの世界で君の闇を見つけました」
「ああ。俺の闇が見つかってしまったな」
辰輝はそう言って、暗い顔をした。
「闇について僕らは語り合いました。闇は悪ではない。愛があるから闇が生まれる。闇を恐れる事はない。辰輝、僕でよかったら、君の話しを聞きます」
辰輝は語った。
本当は辛い気持ちを抱えていたんだ。父が亡くなり、母は自分を捨てて出て行った。それはとても悲しかった。祖父母は俺を哀れんでいた。可哀想だってな。それは愛情なのか? 分からなかった。それでも、彼らは俺を一生懸命育ててくれていた。それは分かっていた。けれど、祖父母も次々と他界した。俺は一人になった。俺が何をしたっていうんだ? こんな理不尽なことがあるのか? 絵にかいたような不幸じゃないか。それでも、俺は不幸な奴だと、可愛そうなやつだと同情なんかされたくはなかった。明るく振舞い、ポジティブに振舞い、不憫な奴と思わせないようにしていたんだ。そうやって、俺は俺の心を保っていた。強がりだよ。自分に嘘をついていたんだ。そうしなければ、俺は生きてはいられなかった。生きるための強がりだった。生きるための嘘だった。でも、分かったことがある。もう、俺は強がらなくてもいい。自分に嘘をつかなくてもいいんだ。みんな同じだから。太郎も、早百合も心に抱えた闇に怯えていた。俺らは互いに支え合って生きて行ける。さらけ出して生きて行ける。家族だからな。
「ヤマト、ありがとう。お前も気付いているだろう。ヤマトは太郎だって。お前らは互いに別の精神だと思っていた。お前たちは一人なんだ。どちらもヤマトで、太郎なんだよ」
辰輝の言うとおりだった。僕は向こうの世界にヤマトという登場人物を作った。客観的に見たかった。ヤマトの目から太郎を見る。太郎の目からヤマトを見る、そうすることで、自分に見えていなかったものが見えるはずだと。
向こうの世界で闇が消えて、こちらの世界にも影響が出始めている。あと残すは、太郎の闇と、シスターの闇。それはもうすぐそこにある。太郎はどうやって決着をつけるのだろうか?
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