第62話 噂の黒騎士様
俺達は酒場に入り空いたテーブルに座る。
この国の法律的には酒を飲むこと自体はできるが、何となくダメな気がして飲んではいない。
そのうち飲んでみたいとは思っているが……今日も辞めておこう。
因みに、シエも飲んでいる所を見たことは無い。
ただ、酒場の雰囲気に飲まれて果実水を飲みながら酔っ払ったように騒ぐ様子は時折見られた。
「はーい、いらっしゃい。今日は何にする?って、見ない顔だね。初めてかい?」
「ああ、同じ冒険者に紹介されたから飯を食べに来た。酒は飲まない」
「私も〜♪」
「了解。ほい、メニューだよ。どれか選んでちょうだい」
俺達が椅子に座ったのに気づいた店員がやってくる。
食事をしに来たことを言うと慣れたようにメニューを出す。やっぱり俺達のような人は一定数居るのだろう。
出されたメニューは全部で五つ。『てんこ盛り丼』『混ぜこみオムレツ』『燻製肉の炒め物』『豚肉の酒煮込み』『店長の気まぐれな一品』と、なんとも自由度の高そうな料理名ばかりだった。
その横に書かれている値段を見るに、図て同じ料金のようだ。
「あ、酒煮込みって書いてるが、そこまで酒感は強くないから安心しな」
「そうだな……じゃあ俺は混ぜこみオムレツで」
「あいよ」
「私は気まぐれ〜♪」
「お、あんた初めてなのに度胸あるね!ちょっと待ってなー」
店員さんはキッチンの奥に消え、そこから俺たちが頼んだ料理名が聞こえる。
俺は店員さんが行ったのを見届けると意識を集中して聞き耳を立てる。
やはり酒場といえば情報集め。酒が入れば口は緩くなるもの。
流石に本当に重要な事は言わないだろうが、それでもヒントになるような事や巷で囁かれている噂などはよく入ってくる。
情報集めは冒険者の基本だ。だが、全てを鵜呑みにしてはいけない。
経験の浅い若手冒険者はその情報に引っ張られすぎて痛い目を会うことがあるらしいので気をつけなければな。
「いや〜、料理楽しみだね〜♪気まぐれってことは当たりかもしれないし外れかもしれないってことでしょ?ワクワクする〜♪」
「楽しそうでなによりだ。俺は燻製肉の炒め物にすればよかったと後悔中だ」
「え〜?それが安全か分からないよ?もしかすると一番の大ハズレかも」
「かもしれないな」
俺達は料理を待つ間、シエと雑談しながら情報を集めるが、大した情報は入ってこない。
まぁ、特に欲しい情報がある訳でもないので別にいいのだが。
「ほほう、ガキンチョ共。店長の気まぐれな一品頼んだみてぇだな。こりゃ見ものだな!」
「ん〜?どういうことですか?」
「そりゃ、ここの店長が想像以上に気まぐれでな。まじで機嫌が悪い時は悪い意味でとんでもねぇもんが飛び出してくるし完食するまで話してくれねぇ」
「えぇ……それはやばいな〜……」
突然知らないおっさんが話しかけてくる。どうやら酔っ払っているようだ。
店長の機嫌とかを知ってるってことは、この料理を頼んだことのあるそれなりの常連なのだろう。
「もし店長の機嫌がよけりゃ、その金額の数倍はしそうなぐらいいいもんが出てくるが、ほんと偶にだ。殆ど微妙な料理が出てくるぜ〜?」
「おお!つまり、運試しか〜♪ワクワクが止まらないな〜!ジュルリ……」
「ここまで煽ったのに怖気付かないどころか更に食欲が増した!?やるじゃねぇか……」
どうやら店長の気まぐれな一品を頼んだシエを怯えさせて、その様子を酒のつまみにでもしようとしたのだろう。
しかし逆に楽しみそうにし始めたシエを見て戦慄していた。
こんな食いしん坊キャラだったか?
「じゃあ混ぜこみオムレツの方はどうなんだ?」
「ああ、そっちは卵に合いそうなもんぶち込んだだけだから普通に美味いぜ!あ〜、話してたら俺も食いたくなってきた!店長、炒め物一人前!邪魔したな、ガキンチョ共」
「ああ、あんたも飲みすぎるなよ」
「情報提供ども〜♪」
そう言っておっさんは離れて仲間の元へ戻って行った。
俺も酒を飲んだらあんな感じで誰でも構わずから見に行くのだろうか?酔うほど酒を飲んだことがないので弱いかどうかも分からない。
「うぃーす、腹減ったぜぇ」
「そうそう、そういえばなんだが……ってお前、なんか頼んだみたいだが金は大丈夫か?」
「今日は依頼終わった後だから大丈夫だ!それよりなんの話ししてたんだ?」
「そりゃあれよ。噂の黒騎士様の話だよ」
「あ〜?またその話かよ〜」
そんな風に待っていると、ここに来て新たな情報が入って来る。どうやらだいぶ擦られた話なのか誰も話していなかった話だ。
さっき絡んできたおっさんとその仲間達の会話に聞き耳を立て続ける。少し興味深い話だ。
「数年前に何処からか現れて犯罪者や事故を未然に防ぎ、犯罪者や貴族様の悪行を止める世直しダークヒーロー、ね。……やっぱり、胡散臭えーやつだよな」
「お前もそう思うか〜。俺は良い奴だと思うんだがな。実は正体は貴族なんじゃないかって説もあるし」
「そうでもねぇぜ?最近じゃ、正義面して窃盗までしてたらしいぜ?ま、嘘かホントか知らねぇけどな」
「俺は黒騎士が良い奴か悪いやつかってより、どうやって国の警備から逃げてるのかが気になるな」
「「わかる」」
「それよりさ、二日前に行った店で〜……」
そこで彼らの話は変わって酒の話になったので聞き耳を立てるのを辞める。
それにしても世直し黒騎士様か……。まるでおとぎ話に出てきそうな話だ。
凶悪犯罪者の噂が広がっていたリュートンとは真逆だな。犯罪者なのは同じなようだが。
どこに行ってもこういうタイプの噂は耐えないんだなと思っていると、さっきの店員の人が料理を持って近づいてくる。
「はい、お待ちど!混ぜこみオムレツと、店長の気まぐれな一品だよ!」
「待ってました〜!」
「今回の気まぐれは久しぶりの若い女の子ってことで店長機嫌良かったよ!」
「ってことはもしかして?」
「今日はあたりだよ!」
「ふ〜!わかってる〜♪」
運試し(?)に勝ったシエは、ご機嫌な様子で美味そうな料理を周りの羨ましそうな視線を無視しながらほうばる。
その様子を俺は見ながら、俺もオムレツを食べるのであった。
オムレツは普通に美味かった。
♦♦♦♦♦
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