第60話 能力の条件
次の日、まだ眠りたい欲求を何とか抑えて俺達は王都に向かうための護衛依頼に向かった。
先日も言った通り、途中で二つの街を挟んで王都に行くルートを通りながら向かう依頼で、他にも数組のパーティが参加しているはずだ。
「ふぁ……ねむねむ〜。って、それより!なんで私達まだ冒険者ランク『緑』なのかな〜!あれだけ活躍したんだよ?私達が高ランクならまだしも、『緑』ランクなんだから『青』ぐらいになっても良くな〜い?」
「正直同意見だが、こればっかりはしょうがないだろう」
冒険者のランク制度には単にクエストをこなせば上がるというような仕組みではない。別に大きく間違っている訳では無いが正しくもない。
以前説明してもらった依頼を受ける度に貰えるポイント。あれとは別にギルドからの『信頼値』のようなものが存在するらしい。
ただの冒険者でしかない俺達には数値としてそれを見ることは出来ないが、依頼の達成率やペナルティの有無。
依頼ではなくとも、犯罪者を捕まえたりなどしてその力を国や国民に活用したりすると上がったりする値だ。
冒険者のポイントと共に、その信頼値が一定に足りるとランクが上がる仕組みになっているらしい。
冒険者になったばかりの俺は信頼値が足りている筈もないが、もしかすると先日の事件で大幅に上がっている可能性もある。
ただ、実はあの事件で厄介男を倒した四人に関しては全員口止めされ機密情報になってたりするので、あまり期待できないのだ。
「あんまりギルドで直接は文句を言うなよ?更にランクアップが遠のくかもしれないからな」
「そりゃ、わかってるけどさ〜」
シエはほほを膨らませて不満そうにブーブーの鳴く。そのほほを突つきたい気持ちを我慢していると、依頼主の商人から声がかかった。
「依頼を受けてくださいました冒険者の皆さん達が集まりましたので、そろそろ出発しようと思います。よろしいでしょうか?」
「オッケーです!」
「問題ない」
「わかりました!」
商人の言葉にそれぞれ反応し、それに合わせて俺達も言葉を返す。
馬車に俺達が全員乗ったのを確認した商人は馬車をゆっくりと動かし始める。数分もすればリュートン街は見えなくなっていった。
シエは馬車は発射してすぐに俺の肩に頭を置き、仮眠を取り始める。これはただの移動じゃなくて仕事だってわかってるのだろうか。
まぁ、俺が警戒してればいいか。
俺は外の気配を探りながら目を閉じて瞑想の様に深く集中するのであった。
「なぁなぁ、あんたらってあの時の二人だろ?」
「……あの時って?」
「あれだよ。ドームのだよ!」
今は馬の休憩中。その期間に一緒に馬車に乗っていた男女二人組が近づいてきた。
俺は周りを軽く見渡す。目の前の二人の声があまり大きくなかったので聞こえては無いだろう。
「ちょっとちょっと~?それ言っちゃダメなのわかってる~?」
「ああ、勿論だ。だけどどうしても話たくてな!」
「お願い!ちょっとだけでいいからお話聞かせてよ!」
「……わかった。ただし、ちゃんとそれを踏まえて話せよ」
「「勿論!」」
リュートンドーム襲撃事件はそれなりのお金を払われて口止めがされてある。つまり、冒険者ギルドの権限で金で俺達の存在が秘匿されているのだ。
それを破るというのはギルドからの信頼に関係するので俺としては遠慮したかったが、断っても延々と言ってきそうな二人を見て諦めた。
「で、何を話したいんだ?」
「そりゃやっぱり……」
「……どうやってアレを切ったかだよね!」
だよなぁ……。俺も逆の立場なら根掘り葉掘り聞くだろう。
しかし、そう聞かれても簡単に答えるわけにはいかなければ、紋章について話す理由も義理も無いのだ。
「……」
「あ、すまねぇ。どうやって切ったかじゃなくて、どうして切れたかが聞きてぇんだ」
「それじゃほぼ一緒だよ。私達が聞きたいのは、どうして四人係でもなかなか突破出来なかったシールドを突破できたのかなって」
なるほど、その程度なら話せるし今後の能力に対する知識もお互いに活用できるかもしれないしい。
シエも少し興味がありそうなので、俺の能力はできる限り伏せつつ話してみるとしよう。
「わかった。話そう」
「やったー!」
「ほらな!話しかけて良かっただろ!」
「お、私もどうやったか聞きたいな~♪」
俺の言葉に二人は喜びを露にする。シエはなんとなくわかってるんじゃないかと思いつつ、詳しくは話していなかったので情報共有も兼ねて話を続ける。
「まず初めに、すべての紋章には例外なくとある共通点がある。それが何かわるか?」
「「う~ん……」」
俺の言葉に二人は悩む。シエはやはり知っているのかにこにこと笑ったまま無言になる。どうやら二人に答えさせたい様だ。
少しだけ二人の答えが返ってくるのを待つと、最初に答えを思いついたのは男の方であった。
「ま、魔力を使う、とか?」
「惜しい。半分正解で半分間違いだ。シエ、わかるか?」
「う~んと、全ての能力には発動条件がある。かな~?」
「そう、正解だ」
「「条件??」」
これは一件、当たり前のことではあるが、能力を深く理解し活用するにはとても大切な知識だ。
実際、その隙を着いて紋章を切ることが出来たので、あの戦いでより大切な事だと再認識した。
「すまん!俺は能力をあんまり使わねぇからピンと来ねぇわ。教えてくれ!」
「私も!」
「勿論だ。そうだな、まず初めに『腕力を強化する能力』を例にして考えてみる事にしよう」
女性の方はよく分からないが、男の方は俺よりも歳が上に見える。それなのに素直に自分の知識不足を認めて教えを乞うのは良い事だ。
何様だと自分でも思うが、きっと彼等はそれなりに上に上がれるだろう。頑固に人の言う事を聞かないのはただの馬鹿か確固たる自信がある者だけだ。
「『腕力を強化する能力』の発動条件はなんだと思う?」
「う〜ん……身体強化系だよね?分かる?」
「いや、大して意識したことねぇなぁ」
どうやら、彼も身体強化系の能力のようだ。まぁ、魔力が少なければ多用しないだろうしあまり詳しくなくてもおかしくないだろう。
しかもこういった話しはいわゆる座学と言うやつなので、図書館等で調べないと分からない話だ。が、目の前の彼はお世辞にもそういうタイプには見えない。
「さっき条件の一つは言ったぞ?」
「さっき?……あっ、魔力を使う?」
「そうだ。それが最もわかりやすい条件だな」
何故魔力を使う事が半分正解で半分不正解なのかと言うと、能力によっては魔力を使わず常に発動しつづけるようなタイプの能力もあるからだ。
当然、それにも発動し続ける条件が存在し、時に所有者の枷になる事もある。
「そしてもう一つあるんだが、わかるか?」
「う〜ん……わかんねぇ」
「私も……」
「シエ」
「は〜い♪腕が使える。もしくは存在する、かな〜?」
「正解だ」
これもまだ少し考えれば当たり前の事。腕力を強化する能力なのに腕がなけりゃ強化をすることなんて出来ない。
まぁ、解釈次第でどうにでもなる可能性もあるが、大抵の人は能力が死んだと判断して前線から身を引くだろう。
「なるほどなぁ。確かに言われて見りゃその通りだ」
「じゃあ、次は中級問題。『100メートル以内の物に矢を当てられる能力』の条件は?」
「えっと、まず魔力でしょ?それと……100メートルってことは当てるものが100メートル以内にある?」
「ああ、ここまでは簡単だな。まだ三つあるぞ?」
「ふ、三つか。あ〜……あっ!さっきも腕だったから、矢を使ってるとかか?」
「正解だ。矢を当てる能力なのに矢がなけりゃ使えるわけないからな。残りあと二つ」
二人は俺の言葉に頭を使って考える。シエはその横で凄く言いたそうにしていたが自分から言い出さないので気にしなくてもいいだろう。
そういえば、闘技場であった弓矢の少女の能力はなんだったんだろうな?もし次に会えることがあれば、聞いてみることにしよう。
「……あっ!当てる物を認識してるとか!」
「正解だ。まぁ、これは能力によるかもしれないが、こういうのは大抵座標地点にある物や視界内にある物という条件が着く。最後の一個、わかるか?」
「う〜ん、ダメだ分からん。教えてくれ」
「シエさん先生〜」
「はいは〜い♪それはねぇ、矢を当てたい物まで届かせる、かな?」
「正解だ。これも能力によるかもしれないが、そもそも届かなければ必中もクソもない」
これに関しては能力によって速度を魔力で補える可能性もあるが、多分想像通りならこれらの条件があると思われる。
因みに弓矢の少女は最低限の事情聴取をした後、俺らに軽く挨拶してさっさとあの街を出ていった。
顔を隠してたのも含めて、あまりひ人と関わりたくないのだろうか?
「確かに、勉強になるなぁ」
「ほんとにねー!」
「じゃあじゃあ!次はあいつの能力に行こ〜♪」
「あいつの能力は『自分への攻撃をシールドで自動で防ぐ能力』だった。さて、その条件は分かるか?」
勘が良ければすぐにわかるだろうが、流石にこれは分からないだろう。
二人がうんうんと頭を悩ましているのを見ながら、俺達はそろそろ休憩が終わりの時間なので体を伸ばした。
「魔力と〜……わかんない!せめて数だけ教えて!」
「そうだな。魔力を含めて二つだ」
「「二つ!?」」
「ああ、詳しくいえばもっとあるかもしれんが、基本的にこの二つだろう」
単純にして強力。それこそがあいつの能力であり、それ故にとてつもなく強かったのだ。
もしかすればもっと条件があるかもしれないが、簡潔に解説するなら二つだけで十分だな。
「ううう……わかんない!」
「降参だ。俺もわからん」
「まぁ、だろうな。こればっかりは知識がないと無理だ。あの半透明なシールドは殺意を認識してるんだ」
「「殺意?」」
「ああ。あの能力は奴が認識しなくても発動して防御した。なら、発動条件は魔力消費での常時発動。そして攻撃される事。つまり、殺意を向けられた事を感知して防御の為のシールドが自動的に攻撃を防ぐんだ」
「ほほう!つまり攻撃出来たのって?」
「俺がその殺意を極限まで減らしつつあいつ本人ではなく、あれを切る事だけに集中したからだな」
俺が紋章を切れることはもう今更の話だからもう気にしないでおくとして、能力には何か特定の物だけを判別して感知し、それに反応して発動するタイプが存在する。
生き物に対し〜だとか、鉱石に対し〜だとかだ。それらの中に殺意や視線等といった目には見えない物が当てはまる事もある。
「そろそろ出発しますよー!」
「おっと、時間だな。まぁそんな感じで能力には条件があり、その条件を妨害したり発動条件の隙を突くことで無効化出来たりする。覚えておいた方がいいぞ」
「なるほど!助言ありがとう!」
「いつかお礼させてくれよな!」
俺達は礼を言われながら会話を終えて馬車に戻る。偶にはこういう交流もいいもんだな。
馬車に戻れば彼等とはただの同業者に戻ったが、話し相手という存在の大切さをしみじみと思うのであった。
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