第11話 先輩の教育
「俺は今からギルドに行った後、今日は依頼を受けずになんとなく過ごすつもりだが。シエはどうする?」
「え?依頼受けないのにギルド行くんですか~?」
「ああ、ここに来るときに魔物を一匹倒しててな、そいつを売るのを忘れてたからそのために行く」
「な~るほど!テルさんが依頼受けないなら私も今日は休もうかな~」
俺たちは雑談しながらギルドに向かう。
ギルドに入ると、何故か異様な視線を感じた。もしかしてシエがさっき言ってたパーティ崩壊に関係ある人物なのだろうか。
「じゃあ私はそこらへんで座ってるから、終わったら言ってね~」
「わかった」
そんな視線に慣れてるのか、シエは一切気にせずギルド内に設置されてる椅子に座りに行った。
この時間帯は依頼に行っている冒険者が多いのか、前の半分の時間で順番が回ってきた。
受付の人は丁度リーフさんで、知っている顔で安心した。
「あれ?テルさん?今日は依頼を受けないんじゃ?」
「ここに来た時に倒した魔物がいたことを思い出してな。どこで買い取ってもらえる?」
「あぁなるほど!それならここで受け取りますが、どのくらいのサイズで?」
「すまない、解体せずに丸々一頭持ってきたからそれなりにデカいんだが……」
「あ~、では少しお待を。解体お願いしま~す!」
するとリーフさんの後ろから軽く二メートルを超える身長のガタイのいい男の人が出てくる。
恐らくこのギルドで雇われ常駐している解体を専門とした人なのだろう。もしかしたら、男の体格を見るに元冒険者なのかもしれない。
「おう、任せろ。で、魔物のサイズと種類は?」
「テルさん、教えて頂けますか?」
「詳しくは知らないが、種類はダークウルフ。サイズはまだ大人になりたてだな」
「「「!?」」」
俺の言葉に反応するように周り少しざわつく。
どうしたのかと思ったが、そういえばダークウルフは新人冒険者が倒せる程度の魔物ではないのを思い出した。
「え、えっと、それっていつですか?」
「あ、ああ。昨日の夜だな」
「はぁ?!嘘ついてんじゃねえぞ!」
俺の言葉に我慢が出来なくなったのか、聞き耳を立てていたのか近くの椅子に座っていた二人目のガタイのいい男が大声をあげながら立ち上がる。
顔に大きな傷のある男は俺に殺意にも似た疑惑と怒りの感情を乗せた視線を向け、早歩きで俺に差し迫ってくる。
「お前みてえにしょぼそうな奴が夜のダークウルフを倒せるわけねえ!」
「……別にお前に信じてもらえなくても構わない」
「ああ?!舐めてんじゃねえぞこら!」
大男が並んでいた人を押しのけてこちらに近づいてくる。
数人が男の歩みを止めようとしたが何の意味もなしてない。どうやらかなり実力のある冒険者の様だ。
「ゼロスさん!?ギルド内での戦闘は……」
「うるせえ!舐めた新人を教育するのは……」
そういってゼロスと呼ばれた男は拳を振りかぶる。受付嬢が警告するが、全く意に介していない様だ。
まずいな。こいつも俺を本気で殺す気はないだろうが、明らかに身体能力が上の相手の攻撃を下手に受ければ重傷を負うかもしれない。
「先輩の仕事だぁ!!」
「……この状況なら正当防衛だよな」
「テルさん!」
あくまで正当防衛のため鞘からは出さない。俺は腰に備えてる刀を鞘に入ったままで腰から抜きながら拳に合わせる。
こんなわかりやすい攻撃、誰だって防御できる筈だ。
無理に力で対抗しようとしても呆気なくやられてしまう。ならば、力を受け流す様に拳を弾いた。
「いでぇ!お前えぇ!」
「……くっ!」
相手は全然本気ではないだろう。先ほどの攻撃に魔力は感じなかった。しかし、力を受け流したのにも関わらず全力で身体強化した手にジンジンと痛みを感じる。
俺には辛うじて反撃を与えるのがやっとで、それすらも相手にとっては痣になることすらない貧弱な攻撃だった。
「……これがレベル、いやランクの違いか」
「死ねや!」
俺が動けずにいると先ほどよりも殺意の増したゼロスが殴りかかってくる。
俺も本気で対処しようとしたその時、二人の間に人影が差し込みゼロスの攻撃を受け止めた。
それは、俺をこの街にまで運んでくれたグランであった。
「ハイハイ、そこまで」
「「?!」」
あれほどの威力を持つ拳を軽々と片手で止め、今も涼しい顔で拳を掴むグラン。そして今も明らかに力を振り絞って殴ろうとするゼロス。
そんな何処か滑稽にも見える状況に呆然としながら、何故か大きく感じるグランの背中を見て俺はいつの間にか安心していた。
「グラン、てめぇ……帰ってきてたのか!」
「ああ、ただいま。それはそうと今回はここまでにしてくれねぇかな。こいつは俺の連れなんだ」
「っち!くそが!」
ゼロスは暴言を吐きながらギルドを出ていく。その後ろをついて行ったのはあいつの取り巻きだろうか。
それを見届けると、グランは振り返って俺に手を差し伸べる。その手を取って倒れていた俺が立ち上がると、グランは心配そうに俺の全身を見る。
「さて。テル、大丈夫か?」
「ああ……グランって色々とすごかったんだな」
「おいおいやめろって。俺はどこにでもいるただのおっさんだよ」
「どこがどこにでもいるおっさんですか……。冒険者ランク『赤』の人がどこにでもいるわけないでしょ」
「『赤』?!」
「それはここのギルドマスターが勝手にしたんだけどなあ」
夜に一人で馬車に乗ってる辺りただのおっさんではないとはわかってたが冒険者ランク『赤』だったとは。
「それにたぶんですが、本気を出せば『紫』になれるぐらい強いってマスターが言ってたんですよ?」
「マジか……」
「おいおい噂話はよしてくれ。それよりゼロスの処遇は?」
グランは少し恥ずかしそうな顔をしながら話を進めるが、全く話は誤魔化せてないからな?
さっき勝手にランクを『赤』にしたってグランは言ったが、一ギルドマスターがそんな権限は持ち合わせてない。
赤ランクへの昇格は大勢のギルドマスターが推薦でもしない限りならない筈だ。
つまり、グランの実力は多くのギルドマスターが認めるほどの強さを持っているということだ。
「はい、ゼロスさんはギルド内の暴力、営業妨害で一か月ほど活動の謹慎ですね。テルさんは刀を鞘から出さなかったことや明らかにゼロスさんに非があることからお咎めなしです」
「おお、よかったよかった」
「ほんとによかった~!いきなりやっとできた仲間がいなくなるかと思った~!」
「うおっと」
横からいつの間にか近づいて来ていたシエが俺に抱き着く。どうやら心配してくれていたようだ。
さっきまでは巻き込まれないように息を潜めていたのか?薄情だと思わなくは無いが、知り合ったばかりの人を命懸けで助ける義理もないし当たり前と言えば当たり前か。
「お?見ないうちにいい子捕まえてるじゃねえかテル。よかったな!」
「い、いやまだ仮ですよ」
「ククッ、そうかそうか……ん?嬢ちゃん……」
「あ、そういえばグランさん。マスターが探していましたよ?」
「ギルドマスターが?よし、わかったよ。じゃあ、テルと嬢ちゃん、またな!」
そういってグランは受付嬢に連れられ、ギルドの奥に入っていった。
明らかにシエに対して何か言いたげだったが……。まぁ、ギルドマスターとの話を優先したということは大して言う必要性のない事だったのだろう。
「さて、もう騒動は終わったしちゃっちゃと解体するから魔物の死体ここに出しな」
「あ、ああ分かった」
大柄の男に催促され、俺はこの何とも言えない雰囲気の漂うギルドから出る為にさっさと魔物の処理を行うのであった。
「リーフちゃん、テルの事ちゃんと見ててくれな」
「え?」
♦♦♦♦♦
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