14.圧迫面接~面接官はゴリラ
おれは屈強なメンズに囲まれた。
全員ゴリラだ。ゴリラ獣人ではい。獣人ゴリラだ。恐ろしいことに獣人ゴリラたちはバルトより一回りデカい。
その奥に一際デカいゴリラ番長がいた。
「君が霊薬を譲ってくれたキョウシロウか?」
そ、村長‥‥‥なの?
ゴリラ番長は百獣の王だった。
というかライオンだ。
「はい」
怖え~。ウィズや他の獣人の多くは人の顔をしてるのに、ヴァクーネンはまんまライオンだ。
「ありがとう。君が居なければ、私は近く命を落としていただろう。この村の一員になりたいという話だが、もちろん歓迎する」
普通に話してるのに、裏があるみたいに聞こえる。
「ども‥‥‥」
「待って下さい、村長!!」
えぇ~何?
屈強なゴリラ村人Aが待ったをかけた。
「彼は一体何者なんですか? それもわからぬうちに決めるのは性急です」
「確かに、今は難しい時期ですし、知らない者を村に加えるのは‥‥‥」
「霊薬を持っていたというが、どこで手に入れた? どこかで盗んだんじゃないのか?」
みんなおれの素性の不確かさに疑念を抱いているようだ。
なんだろう。
疎外感‥‥‥
都会から地方に引っ越して来た転校生ってこんな感じなんだろうな。
それにしても難しい時期ってなんだ?
バルトに聞いておこう。
「あの、難しい時期ってどういうこと?」
「はは、みんなこんな密偵がいるか?」
「そうです、皆よく考えて。彼が陰謀を企むというなら、父を救うはずが無いでしょう?」
ウィズがなにやら庇ってくれた。
だから何が起きているのこの村。
「それに、彼は『荒らし喰』を倒した。この村に危害を加えようと思うなら捨て置いたはずよ」
ウィズの言葉には反論の余地が無かったようで皆黙った。
「まぁ、恩人である彼の人となりについて疑いは無いが、確かに不可思議な点は多い。どうだろう、キョウシロウ殿。ここに居る皆に向けて自己紹介など」
『はよやれ』って聞こえる。
やります。
でも、ここに異世界から来たのはおれだけだし、本当のことを言っても怪しまれるだけだ。
でもウソついたら獣人にはすぐバレるだろうし。
「どうした? 後ろめたいことがないのならできるだろう」
「我々には話せないことでも?」
「こいつ、やはり何か隠しているぞ」
ガタガタ、ブルブル。
何か、何か話さないと!!
「キョウシロウが話せないのは話してもおれたちにはそれが真実か否か推し量れないからだろう?」
バルトが助け舟を出してくれた。
「なんだよ、バルト。おれらが田舎者だからか?」
「違う。彼の顔、髪の色、見たことあるか?」
あ‥‥‥差別やめて。
「キョウシロウはカサドラル語も獣人語も流暢に話している。だがカサドラル人でもシーア人でもない。おまけにここからあの離れた森まで移動するスキルを持っている」
「どういうことだよ」
どういうことだ?
「彼が近隣の国や領からやって来たとは限らない。いや、言い換えればこの大陸の人間ではないかもしれないということだ」
「え?」
ざわつく一同。
それとおれ。
え?
いやまぁ合ってるな。
「高い教養を持っているが非常識、霊薬や塩を持っているのに金はない。彼が住んでいた家の残骸を見たが大きな陶器やガラスの破片があり、釘、調理用の鉄板はいずれも上質なもの。材木もこの辺りの木では無かった。家の基礎の造りは都市の中流家庭の家屋のようにしっかりしたものだ。森に突然そんな物ができるはずない。つまり、遠い国からあの家ごとスキルでやって来たってことだ」
合ってはないが間違ってもないな。
「そう言えば、キョウシロウ殿は初め、ミブキョウと言っていたな。もしかして家名を持つ生まれなのか?」
「はぁ、はい。壬生が家名です」
そう言えば、ここでは家名を名乗らないのか。
家名は貴族しか持てないのか。
「うむ、ならば話せないのも、あの森で隠れるように暮らしていたことも納得だな」
ヴァクーネン村長、ひょっとしておれを貴族だと思っているのか。
放逐された憐れな貴族のものだと?
そうか、成人はこういう世界って15歳ぐらいってことが多い。
年齢的にも16歳だとそういう感じに見えるかもな。
おれは貴族の庶子が家督争いに巻き込まれ、命からがら誰も知らない土地まで逃げてきたというエピソードを想像した。
みんなも想像したと思う。
バルトは続けた。
「彼は自分のスキルについてまだおれたちに話すか迷っていた。だがいずれわかることだし、予想はついている。だからどうだ、森でどう暮らしてきたか、『荒らし喰』をどう討伐したか話してくれないか? みんなも遥か遠い国の、確かめようのない話を聞くより、彼がどう狩りをして、どう生き延びていたかを聞いた方が納得できるんじゃないか?」
おぉ?
みなさんの顔つきと空気が変わった。
おれもそれならウソを付かず話せる。
バルトすごいな。見事におれと村人たちの妥協点を見つけてくれた。身体はゴリラだけど頭はスマートだ。
おれはここに来てからの生活を話した。
家はおれをここに逃がしてくれた人の力で贈られたものだと言った。
黒狼との死闘、スキルを磨く日々、大黒狼の強襲と激闘、荒らし喰の討伐方法についておれは話し続けた。
ずっと話したかったからかもしれない。自分の頑張りを誰かに認めてもらいたかったのだろうか。おれは話し続けた。
ただし、霊薬のことは黙っていた。
ふとごつい手が肩に置かれた。
「よく話してくれた」
さっきまでおれを疑っていたおっさんゴリラたちの態度が変わった。
「大変だったな」
「よく生き延びたものだ」
「どうやら余計なことを勘ぐっちまったようだな」
「すまないな」
バルトも感心していた。
「半壊した家を囮に使うとは‥‥‥それに熱した油が水で延焼することや、爆発の威力を高めるために釘やガラスを使う機転。キョウシロウには戦う才能があるらしい」
「いや~、それほどでも‥‥‥」
一期一会だ。
相当に怪しいおれを信用してくれそうな人たちに出会えることは滅多にないだろう。ウィズやバルトみたいに冷静に考えて判断してくれる人に今後も巡り合えるとは限らない。
「みなさん、この村の一員として責任を果たせるように頑張ります。これからどうぞよろしくお願いします」
どうなることかと思ったが、おれは何とか居場所を手に入れた。
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