5.『転移・榴弾』

「う~んんんん。う~んんん‥‥‥」


おれは悩んでいた。

うさぎもどき肉をかじりながら思考を巡らす。


今、頼れるのは自分の頭脳のみ。スマホやSNSが無いこの世界では情報と発想は己しだいだ。

雲をつかむように、おれは思考を巡らし、答えの無い答えを模索する。


そうして半日が経った。


「よし、『テレショック』にするか」



名前を付ける行為は人が理解と直感を用いて物事を定義する最初の過程である。

言い換えれば、何かに名を付けることで、人は世界から切り取った事象を人のものにできる。


ふふ、ちょっと哲学的過ぎたかな。


『転移』によって発生する転移の扉が開くとき、異空間の膨大なエネルギーが流れ込み攻撃性を伴った衝撃波を発生させる現象。


これをテレショック現象と名付けた。


テレポートによって発生する衝撃。略してテレショックだ。

うむ、我ながら完璧だ。語呂もいいし、言いやすい。


「さて、練習するか」


狩りに出るようになって二週間余り。

森では黒い狼以外にも魔獣を見た。

すぐ『転移』で逃げていたが、そろそろ撃退できるようにならねば。


おれはこの広大な森を抜けることができる。元々地理が頭に入っているし『転移』で一気に森を抜けたことがある。

だがこのままどこか街に行っても、おれには明るい未来などない。


なぜならおれは金を持ってない。たぶん街とかがあっても入れないだろう。ただの不審者だ。

それに今のままでは働き口も見つかるまい。

要するに自信が無い。


おれにあるのはスキルだけ。

なら徹底的にこのスキルを使いこなせるようにして、ついでにあの狼にリベンジする。

その自信が無いと、この異世界ではやっていけない気がする。



『転移』を極める。これが当面の目標だ。



『転移・闇討ち』は小物には一撃必殺だが黒狼にも有効という自信がない。

リベンジするなら確実を期したい。


さらなる実用的『転移』活用。

これをマスターする。


そう思っていたが‥‥‥


「できん!!」


フォースフィールドもテレショックも単体で使うことができない。


「もしかして神様が言っていた効率化が必要なのか?」


魔力の調整はレベルアップしてからできるようになった。

レベルアップしないとできないのか。

いや転移筋トレで運べる重さは増えた。練習が無駄になるわけじゃないはず。


おれは『転移』を止めるタイミングしだいでフォースフィールドとテレショックを発動できないか試し続けた。


フォースフィールドを展開したまま維持ができない。『転移』をキャンセルするとフォースフィールドも解除される。

テレショックは異空間の扉の開け閉めで発生する。問題は自分を中心に発生する衝撃波をコントロールできないことだ。


「結局『転移』してしまうならフォースフィールドで攻撃をガード必要無いし、キャンセルしたらフォースフィールドも消えちまう。使うシチュエーション無いな。テレショックは魔力を込めればできるけど上手く攻撃に転用するにはどうすればいいんだ?」


いや、こういう時こそ基本だ。

転移はどうやってやってる?


まず転移の扉を開くポイントを設定。

転移対象(自分)に魔力を込める。

フォースフィールドで自分を包む。

転移の扉が開き自分の周囲にテレショック。

転移先に転移の扉が開きテレショック。

転移完了。

着地。


「‥‥‥待てよ」


おれは薪を一つ、地面に置いた。


転移の扉を開くポイントを設定。

転移対象(薪)に魔力を込める。

フォースフィールドで薪を包む。

転移の扉が開き薪の周囲にテレショック。

転移先に転移の扉が開きテレショック。

転移完了。

薪が転がった。


転移はおれ以外でもできる!


ポイント設定し魔力を注ぐのを自分ではなく対象物に変えれば転移させることができる。


これなら‥‥‥!!


薪に全魔力を込めて転移した。

ドカンと一回目のテレショック、さらに2回目の大きいテレショックが発生した。


地面が抉れている。


ゴロンと吹き飛んだ薪が落ちてきた。


薪にフォースフィールドが掛かっていたか。必要ないな。


今度は薪を持って魔力を込めた。

薪一つに全魔力だ。

自分にフォースフィールドを展開。

急いで投げる。

薪の周辺にバカでかいテレショックが2回発生し薪が爆散した。


「これでええやん‥‥‥」


なんか物を投げれば、攻撃力になる。しかも小さい質量のものに魔力を込める程デカいテレショックが起きる。しかも2連発。投げた先と転移した先を同時に攻撃できる。


さらに投げた先と転移先を重ねて試してみた。転移先に投げる感じで。

攻撃力2倍だ。

いや、衝撃波が乗算してさらに拡散した感じだ。

地面に大きなクレーターができた。


「めちゃいいな!」


おれは実用的な攻撃手段を手に入れた。


おっと、さらに閃いたぞ!!!


小石を掴み最小魔力を込める。

スキル発動でフォースフィールドを展開可能になる。それで自分を包む。


「ぬぅぅぅ」


転移をできるだけゆっくり行う。


小石が転移するまで、フォースフィールドを5秒ぐらい維持できた。


どうやら魔力の分配は、まず異空間の扉を開くために必要な魔力を消費し、フォースフィールドの消費に移行するという流れだ。

つまり、魔力消費のタイミングは二回に分かれている。

転移させるもの、フォースフィールドで覆うものの選択はこの魔力消費のタイミングで意識すればいい。


ただし、やはりフォースフィールドは転移が完了したら消える。

そしてフォースフィールドの対象を決めた後は自分の意志でスキルの発動を制御できない。流れるままにスキルが完了へと向かう。


留めるというプロセスが存在しないのだ。


「はぁ、はぁ、ゆっくりやるしかないか。だがゆっくりやると神経が疲れるな‥‥‥」


おれはバタンと地面に転がった。


5秒、これって使えるのかなぁ。


まぁいい。攻撃手段は手に入れた。転移対象に対して大きな異空間の扉を開けテレショックを発生させる。とりあえず『転移・榴弾』と呼ぼう。

この技を徹底的に検証しマスターしよう。

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