not a dream but reality(Ⅲ)
「……どうして、今さら」
ネイ湖の水面に、真っ白な水鳥が舞い降りた。それを眺めながら、ノアは思わず言葉を零す。
「今さらオシーンの夢を見るなんて、遅すぎる。ここにはもう、俺しかいないのに」
三年前。マシューが大学に入るために、イングランドへ行った。その数か月後には、アイリーンもアイルランド島を後にした。
二年前。幼なじみのフィンレーがウェールズへと渡った。ノアも彼に誘われたが、結局応じることはなかった。
そして一年前。オシーンのことが好きだったエリスも、ドイツへ留学してしまった。もう、誰もいない。ここには、誰も。
「みんなみんな、オシーンのことを疑って、そして忘れた。でも俺は……、ずっと、忘れられなくて……」
――オシーンの言葉に、すがってしまったんだ。
彼がつぶやいた瞬間、ざあっと風が駆け抜けた。それを合図に、水鳥が優雅に飛び立っていく。未だに湖に残る彼とは、全く対照的に。
今までに、何度もチャンスはあった。マシューがイングランドに行くと言い出したときも、フィンレーがウェールズに行こうと誘ってくれたときも、エリスがドイツに留学すると決めたときも、全部飛び立つチャンスだった。それなのに、彼はいつも動けずじまいだった。……オシーンの帰りを、心のどこかで待っていたから。
馬鹿馬鹿しい。そう言うのは簡単だった。ならば何故、この湖から離れられないのか。不思議な詩人の約束に囚われて、ずっとこの地に残り続けるのか。
「オシーン……。お願いだから、早く帰ってきてくれよ……」
――口にした途端、ノアの瞳から涙が溢れ出した。今まで信じ続けた全ての想いが、透明な雫となって頬を伝う。
「嘘つきじゃないなら、早く帰ってこいよ……! 今、どこにいるんだよ……!」
足元に転がる小石を掴んで、思い切り水上に叩きつける。それはきれいな波紋を描いて、静かに沈んでいった。
「頼むから、返事をしてくれよ!! どこにいるんだ、オシーン!!」
ノアは叫んだ。心の底から、オシーンを探して。誰もいない、湖畔に向かって。
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