29歳ホームレス、女子高生YouTuberに拾われる。
じゃけのそん
立志編
プロローグ 橋の下のホームレス
カンカンと照らす太陽が南中を過ぎてからしばらく。日が大きく傾いたせいか、肌を焼くような日の光が、橋の隙間からチラチラと差し込むようになってきた。
神の悪戯とも取れるその光は、日陰に住む俺の居場所を容赦なく侵略し、過ぎ去ったはずの夏を嫌でも感じさせようとしてくる。
「昼寝もできねぇじゃねぇか、クソッ」
社会にだけでなく、天にすら邪険に扱われるこの理不尽な人生に確かな苛立ちを覚えつつも、俺はただ文句を垂れるだけで何かを為そうとは思わなかった。
太陽という揺らぐことのない自然の摂理に、無力な人間らしく従うだけ。それが俺の本質であり、日陰者になった最も大きな理由の一つと言えるだろう。
「この辺ならもう日は当たらないか」
そう目星をつけて、俺はダンボールの敷かれていないアスファルトに座り直す。ずっと日陰だったのか少し湿っていたが、日に晒されるよりは幾分かマシに思えた。
背中を預けてしばらく、ようやく落ち着き目を瞑った。するとさっきまでとはうって変わり、とても静かで暗い世界が視界全体を覆う。
日の光を一切感じない、流れる水の音だけが鮮明に聞こえている最中、その静けさに当てられたのか、いつしか俺は昔のことを思い出していた。
まだ人としての尊厳や価値を失っていなかったあの頃の俺は、どれだけの理不尽を前にしようと、人として生きることを諦めようとはしなかった。
いつか必ず上手くいく。この辛い日々がひっくり返る時が必ず来る。心のどこかでそう信じていたからこそ、俺はさも自分が平凡であるかのように繕い続けたのだ。
思い返せばくだらない努力ばかりを続けていた気もするが、そんな社会の奴隷でしかなかった自分を罵る資格さえも、今の俺にはない。
この薄暗い橋の下に寝床を構えてどれくらい経っただろう。
おそらくは一年とかそこらか。
その間、俺は一体何をしていた。
少しでも意味のある何かを成し得る努力をしていたか?
答えは考えるまでもなく否だ。
思い返せばこの一年、まるで抜け殻のような日々だった。
雨が降ろうと、雪が降ろうと、河原に並ぶ桜の木が満開になろうと。俺の過ごす時間はいつも味気なく、俺はそんな世界に独りひきこもり続けた。
時には日の光を避け昼寝をし、喉が乾けば公園に行って水を飲む。あとはひたすらに街を歩き、空き缶や読み捨てられた古雑誌を出来る限り回収するそんな日々。
人としての価値になり得ない時間をただ浪費するだけの俺は——社会の歯車から弾き出された日陰者、いわば『ホームレス』と呼ばれる人の成れ果てだった。
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